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第013話「厄災魔王の一欠片」

『きゅるるる!』


「やあっ!」


 今までより少し俊敏な動きのネコカンガルーが導火線のついた爆弾のような石を取り出して投げつけてきたが、俺はそれをバールのようなもので打ち返した。


 打ち返された石はネコカンガルーの腹に直撃して爆発し、そいつは大きく吹き飛んでから光の粒子となって霧散していく。


「ふぅ~……。ネコカンガルーの討伐はこれで5匹目ですね。なんとか安定して倒せるようになってきました」


 あれから一時間ほど経過したが、未だドロップアイテムは小さな魔石一つだけだ。


 魔石というのは裏世界のモンスターならどんな雑魚でも落とす可能性のある外れアイテムなのだが、これが意外と高く売れる。


 何故なら現在日本で主に使われている電気エネルギーは、魔石から抽出した魔力による魔力発電で(まかな)われているからだ。


 かつては中東の国家あたりでは"オイルマネー"なんて言葉があったらしいが、今の時代は魔石をどれだけ豊富に保有しているかで国の豊かさが決まると言っても過言ではない。


 魔石は石油などと違って、使っても二酸化炭素などの温室効果ガスや放射性廃棄物を排出しないクリーンエネルギーだからな。


「あっ、これは【ネコのシッポ】じゃないですか! かわいい~」


 しばらくすると、その場所に猫の尻尾のようなアイテムが出現したので、俺はそれを拾ってカメラから見えないように気を付けながらお尻の上に装着した。


 すると、それはまるで本物の尻尾のようにゆらゆらと揺れ始める。



:ねこしっぽ鈴香たそきたー!

:かわいいw

:これはいいものだ

:猫耳も稀にドロップするよな

:次元収納袋は落ちなかったけど、かわいいからヨシ!

:どうせなら猫耳も落ちてほしいなぁ~



 フリフリと尻尾を動かしながらステップを踏むと、コメントも大盛り上がりだ。


 これはネコカンガルーのレアドロップの一つで、装着すると皮膚にくっついて本物の尻尾のようになるという代物である。


 特殊効果などはないのだが、見た目がかわいいので人気があり、猫耳と合わせて装着すれば、もうそれだけで人気配信者の仲間入りすること請け合いだ。


「残念ながら今回も次元収納袋は落ちませんでしたが、この調子で頑張っていきますよ!」


 近くにあった桜の幹に寄りかかり、ペットボトルの水を飲んで一息つく。



:しっぽがお腹に巻き付いててかわいいw

:はぁ……尊い……

:水を飲む姿がいちいちエロい

:あの水になりたい

:最初はゴブリンにやられてたのに立派になったなぁ

:動きもどんどん洗練されてきてるし、将来はSランクも夢じゃないね



 休憩がてらに鞄からスマホを取り出し、配信画面をチェックする。


 するとちょっとした違和感に気付き、俺は首を傾げた。


「あれ? 今日はちょっと人少ないですね。ネコカンガルー討伐、面白くなかったですか……?」


 最近は同時接続数が5000人を突破することも珍しくなく、多い日なんかは1万人くらいいることもあるのだが、今日は2000人くらいしかいない。

 

 しかもどういうわけか、こうしているうちにも視聴者はどんどん数を減らしていってしまっている。



:ああ、今裏で"厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)"戦やってるからね

:うん、俺も二窓で見てる

:マジで?

:うそ、誰が戦ってんの?

:どうせ再生数目的の雑魚でしょ

:定期的にいるよね、アホが特攻して数秒で死ぬやつ

:いや、それがもう一時間も戦ってる

:しかもソロ

:↑はっ? それやばくね?

:教えてくれてありがと。ちょっと見てきます

:ワイも見に行ってくるわ



「ええっ!? 本当ですか? "厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)"と一時間も戦ってる人がいるんですか!?」


 視聴者のコメントに、俺は思わず素で驚きの声を上げてしまう。


 厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)とは、裏世界に存在する十三体の超強力なモンスターたちの総称だ。


 奴らの力はまさに災害と呼ぶにふさわしく、出会ってしまえばまず命はない。倒すという選択肢はそもそも存在せず、見かけたらとにかく逃げるのが鉄則である。


 世界に24人いるSランク探索者ですらおいそれと手を出せるモンスターではなく、普通の探索者であれば数秒……いや、近づく前に消し炭にされるような存在だ。


 そいつと一時間もソロで戦ってる人がいるとなると、みんなそっちを見たいのも当然だろう。


 ……ってか、俺も配信してなかったら絶対見てるし。


「一体誰がそんな命知らずなことしてるんですか? 私、気になります!」



:ザンク

:首斬りザンク

:切封斬玖

:ザンクの配信中にいきなり厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)の一体と邂逅して、そのままタイマンに突入した

:うおぉぉぉ!

:悪い鈴香ちゃん、俺も今日はそっちみるわ



 あいつか! あのイカれ野郎なら確かにやりそうだ。


 次々と視聴者たちが離脱していって、同時接続数はあっという間に1000人ちょっとまで減ってしまう。


 ……あぁ~、俺も超見たいんだけど!


 が、しかし、配信者としてまだ1000人以上のファンが見ている中で、他の配信を見るのはさすがに(はばか)られる。



厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)ってなに?

:僕も知らない、教えて

:↑は? 厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)知らないとかキッズかよ

:どんなニワカだよ

:なんだよ、子供なんだから仕方ないだろ!

:僕も小学生だから知らないです

:ガチでキッズだったw

:鈴香ちゃんの配信って小学生も見てるのかよw


 

 多くの視聴者がザンクの方へ行ってしまった影響か、厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)を知らない子供たちの発言が目立ち始めた。


 どうやら俺の配信は、オッサンだけでなく小学生の間でも人気なようだ。


「あ、小学生の子たちも見てくれてるんですね。いつも応援ありがとうね! お姉さん、とっても嬉しいです!」



:鈴香ちゃん大好きです

:初回のやつ見てからなんか変な気持ちになって毎回見ちゃいます

:僕も最初っから見てる。目が離せない

:↑やばいwww

:既に性癖歪んでるじゃんw

:あかんww

:スズちゃんの配信に小学生はマズいですよ……

:おっさんですら沼に沈めてしまうからな

:R15タグつけてたほうがええんちゃうww



「せ、性癖歪むとかR15タグとか、皆さんなに言ってるんですか!? 私は過激なことは一切やらない健全な配信者ですよ! 変な言いがかりはよしてください!」


 美少女(実は男)がちょっとパンチラやブラチラしたり、モンスターにボコられて鼻血出したり、ゲロ吐いたり骨砕かれて絶叫上げたり、股間からお小水を垂れ流したりするだけだろうが。


 まったく、子供の性癖破壊だなんて失礼しちゃうわね。ぷんぷんっ!



:普段健全な分、余計質が悪いんだよなぁ……

:少年漫画見てたのに急にヒロインが青年漫画的展開に遭う衝撃があるよな

:わかる

:よくわかりませんが、結局厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)ってなんなんですか?

:鈴香ちゃん教えてあげたら?

:俺もスズちゃん先生の講義が聞きたいです!

:スズお姉ちゃん、小学生のワイらに教えて~

:↑お前は絶対おっさんだろw



 ……ふむ、そうだな。


 子供たち(+大きなお友達)も気になっているようだし、ここは俺の持つ知識を伝授してやるとしようか。


「わかりました。では厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)について、鈴香先生がわかりやすく解説していきましょう。そのためには、まずは魔王と聖王について知る必要がありますね」


 俺は普段の鈴を転がすようなウィスパーボイスを、ナレーター風の少し落ち着いた声質へと切り替えると、子供たちにも聞き取りやすいようゆっくりと語り始めた。

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