19 向き合うために
吉沢くんとの食事デートを終えてからも、繁忙期のためまた翌日から何かとあわただしく過ごす日々に戻っていた。
そんな中、私はここのところ家に帰ると、隅に追いやられていたノートパソコンを引っ張りだして、再びその画面に向かっていた。
デートから帰ってきて、考えたことがある。
後藤さんに紹介された時、うまく挨拶が出来なかったのは緊張や慣れないせいだけじゃなかったと思う……。
私は、いまだに吉沢くんにこんなに想ってもらえているのが、信じられないでいる。
吉沢くんの気持ちを疑っているとかじゃ全然ないけれど、正直、今の自分は吉沢くんが想い続けてくれていた10年前とは変わってしまっていて、でも、これから一緒に過ごしていくのはそんな私なのだということをあらためて考えてみた。
吉沢くんのおかげで、やっと一歩は踏み出せたかもしれない。
でも、メールも会う約束もまだ自分から声を掛けるのをためらったりして、吉沢くんから手を差し伸べてくれるのをただ待っているだけで、まだそこから自分の力で一歩も歩き出していないような気がした。
そんな私を、これからも吉沢くんがずっと好きでいてくれるとは限らない。
いまだに私なんかでいいのかなっていう自信のなさが心の中にあって、胸を張って名乗れなかったのかもしれない。
吉沢くんは大晦日の私を見ても、それでも「もう一度付き合おう」って「二人で幸せになろう」って言ってくれた……。
そんな吉沢くんと、ちゃんと自分からも向き合っていきたいと思った。
彼の気持ちをひたすら心配するより、私から好きだと伝えられるような、そんな自分でありたいと思えたのだった。
そのために自分が出来ることを考えてみてたどり着いたのは、また執筆を再開することだった。
本当にあきらめが悪いというか何というか、吉沢くんが言ったように不器用かもしれない……でも、それもまた自分らしいのかなと思えるようになった。
正直、それが何になるのかは分からないけれど、少しでも何か自分の力で頑張れるものが欲しかったのだ。
他の人から見たら、そんな事より他に頑張った方が良いことなんていくらでもあるんじゃないかと言われればそれまでだけど、でも私の脳裏に真っ先に浮かんだのはやっぱり「書く」事だった。
こうやって取り組むのは実に半年ぶりだったから、書けなくなっていたらどうしようという不安もあって、やっぱり最初はその通りだった。
本当にびっくりするほど書けなくなっていたけれど、焦らず少しずつ続けていくうちにところどころぎこちない部分もあるけれど、何とかぽつぽつと文字が流れていくようにはなったと思う。
明日は久しぶりの完休だし、吉沢くんからはこの週末は休日出勤になるかもしれないと連絡があったので、今夜はいっちょ頑張ってみようかなと、つい夜更かしをしてしまった。




