7女神様は地獄の入口を開けました
「零斬り・・・ですか?」
「わしの秘伝じゃ。わしはこれを使い、数多の魔や神を斬りすてた。まぁ、主はそこまでできんにせよ、勇者程度ならば一矢むくえるじゃろ。付いてこい」
まぁ、実際に見せた方が早いわな。
と、転がっている錆びた剣、と何か瓶のようなものを無造作につかむと、外に出て行った。慌ててついていく俺。
森の中をしばらく歩き、開けた広場のような場所に来た俺とアルデリアさん。アルデリアさんは瓶に入った謎の液体を地面に振りまき、甘い香りを漂わせると、説明をはじめた。
「零斬りの極意は単純じゃ。武器に魔力を纏わせ、極限まで魔力の刃を薄く、鋭く、細くして、物事の綻びである“死線”をなぞり“極点”に最速で斬る。それだけじゃ。見たところ、主には微小ながら魔力の素養がある。習得できる条件は揃っておる」
「はぁ」
当然、理解できない。どういうことだ。
「まぁ、論より証拠じゃな。ちょうどよい。香に誘われ、獲物が来たぞ」
「え?・・・・なっ!?鋼魔狼!?」
見るとそこに蒼銀色の巨大な獣が現れた。狼を2周りは大きくしたような獣で、その毛皮は鋼糸でできており、防御面だけなら指折りの高位の魔獣。刃物で傷つけるのは至難と言われていることから別名戦士殺しの獣と呼ばれている。確か北方の山脈に存在するA級モンスター・・・こんなのまでいるのか?
「名前を知っているということは特徴も知っているな。こやつの体毛は硬い。故に刃物は通じにくい。怪力でゴリ押しできなくもないが。ここはあえて奥義で仕留める。よく見ておけ」
すると、アルデリアさんがすっと構える。
その瞬間、空気が変わった。なんというか張りつめたのだ。ありえないが、空気がささくれ立って、触れれば切れると思えるくらいに。
その空気を感じたのか、少し怯む鋼魔狼だが、一声上げると、高速で突進してきて・・・
「ふん」
自然なステップで突進を回避したアルデリアさんが無造作に剣を振る。鋼魔狼は血しぶきをあげ、崩れ落ちた。俺は見た。切れ味皆無の錆びた剣なのにまるで切ったというより、通したような鋭さで鋼魔狼を断ち切ったのだ。
「見たか?わかったか?」
問いかけるアルデリアさんだが、
当然「見たけど、何が何だかまるでわかんない」である。何をどうしろと言うのだ。
流石に正直に口に出したら怒られそうなので、何とか質問を口にする。
「は、はい。でもどうやって。剣に魔力を纏わせても、そんなに切れ味増すなんて聞いたことないですけど。武器に秘密があるんですか」
「阿呆。剣に魔力を纏わせるだけじゃ不十分じゃ。薄く鋭くさせることで初めて意味を成す。形に騙されるな。纏わせただけじゃと、威力はあっても、鋭さなどまるでない。無骨な棍棒のようなものじゃ。お主、棍棒で肉や野菜をきれいに切ることができるか?」
「いえ」
それなら何とかわかる。
「そうじゃろ。普通ミンチか粉々じゃ。普通に魔力を纏わせた剣で切れないのはそのせいじゃ。それでも切れるというのなら、剣が凄いか、使い手の剣の技量が優れているということじゃな。ちなみに今は見本のために魔力を鋭くさせて、相手の“隙間”を“通す”だけにとどめたが、本来の零斬りはもう少し上の次元にある」
さて、とアルデリアさんは俺の眼を見つめて言う。
「この零斬りに必要なのは魔力を鋭くとがらせるだけではない。流れる魔力の隙間となる急所となる線、そしてその根源である極点を見抜く必要がある。まだ理解できんだろうが、何回か手本を見せるので、見て覚えよ。これは口だけでは理解できん技だ。理解し習得すれば、硬いものだろうが、魔法だろうが、勇者の防御だろうが“何でも”斬れる」
知らず緊張で、ごくりと俺は唾をのむ。
「貴様にはこれを覚えてもらう。そして並行して肉体づくりを行う。零斬りを覚える体の下地作りと、出す前に相手と渡り合えるための力を鍛える。奥義を出す前にやられたらどうしようもないからの」
共に頑張ろうぞ?シャル。そういってアルデリアさんはにっこりと笑顔を浮かべた。それは今までと違う、思わず見とれてしまうほどの美しさ。一瞬“女神様?”と思えるほどに。
だけど、俺は知らなかったのだ。悪魔は最初は優しいということに。そして翌日から地獄が始まった。
本日より新作の連載を開始しました。
「破滅した聖女は覆水を盆に返す」というタイトルで、洗脳から目が覚めたヒロインが復讐?する話(全4話)です。
https://book1.adouzi.eu.org/n9039es/
宜しければ、ご覧下さい。




