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6戦姫に弟子入りしました

「なるほど、で、その勇者にぼこぼこにされて、女を寝取られたと、悲っ惨じゃなー」

「・・・」

 ここは、草原から離れた場所の森にある家。アルデリアさんの自宅である。

 

 

 少し時間は遡る。

 互いの自己紹介の後、「とりあえずここじゃなんだから、わしの家に来い」と言われ、俺はいきなりひょいっとお姫様抱っこをされた。

 子ども扱いの様なふざけた行動に、思わず文句を言おうと思ったら、轟っと突風が吹き、気が付いたら遥か離れていた森の傍まで来て、下ろされた。ざっと数秒の出来事である。

 俺を抱きかかえて、たった数秒でこの距離を駆け抜けたのだ。非常識すぎるほどの身体能力。


 もう文句どころか驚くのも疲れた俺はとにかくアルデリアさんの後をついて森に入り、中を歩き、歩いてすぐのところにある木製の家に辿り着いた。

 大きくはないものの全て木で組まれたその家は職人が作ったのかと思う程、精密でしっかりと組まれていた。しかも随意に細かい彫刻まで掘られている。思わず感心して誰が作ったかとアルデリアさんに聞くと「わしじゃ。暇じゃしな。ちなみにその彫刻は魔除けの紋様じゃ」との答えが返ってきた。よくわからんが、とにかくすごい。

 そしてアルデリアさんに促され、「お邪魔します」と中に入った。見回すと、そこは家具も揃い、間取りもしっかりした・・・戦姫が住むにはあまりに普通の家だった。

 ただ、そこらに作りかけの彫刻らしき物体と一緒に、武器が、血に染まったものも無数に転がっているのが少し怖い。


 アルデリアさんは居間にある椅子に腰かけると、くいっと顎で俺に座れと合図。ちょこんとアルデリアさんの対面に座った俺はアルデリアさんから質問を受けた。

「で?ここに来た理由は分かったが、どうやら、他にも何か悩んでいそうじゃな?興味半分ではあるが、よかったら聞かせてくれんか?」

 情けなくて第三者に話すのも気が引けるものの、この人を相手にすると、不思議と素直になってしまい、勇者達との間に起きた出来事を話したら、先ほどのばっさり発言に至ったのだ。


「・・・」

「まぁ、悲惨じゃが、わしの時代にはもっと悲惨な末路や境遇の人間がおったしな。ぼこぼこにされて振られたくらいじゃ、まだまだよ」

「・・・そうっすか」

 なーにがまだまだよ、だよ。何か言い返してやろうかと思ったが、馬鹿にしているのではなく、軽蔑しているのでもない、そのさっぱりした、本当にあっけらかんとしたその態度に思わず気が抜けてしまい、反論するのも何か馬鹿馬鹿しくなった。


 

「まぁいい、それでお主はこれからどうする?」

 その話題はアルデリアさんの中で終わったのか、唐突に話題が変わった。

「ど、どうすると言いますと?」

「先も言うたが、ここは神々の廃棄地。来ることも至難なれど、出ることもまた至難。わしはここに幽閉されている故、出られんが、お主がここを出るならば向こう3年はここにおらんと出られんぞ。今までの経験則から出口が開くのはそれくらいじゃからな」

「さ、3年!?」

 なんだそりゃ!?

「まぁ、ここは時間の流れが他の世界と違うから、戻った時は3年も経ってないかもしれんがな。いずれにせよ、この世界で今の周期だと3年は経たんと出られん」

「・・・まじですか?」

 こんなS級モンスターが闊歩する理不尽な世界で3年過ごせと!?

「まじじゃよ」

 あっさりなアルデリアさん。再び俺に死の危機が訪れる。

「えっと・・・その・・・」

 知らず、縋る様子の俺に、アルデリアさんは軽く答える。

「まぁ、生活の心配は良い。久方ぶりの客でもあるし、3年くらいは面倒見てやるわい」

「い、いいんですか!?」

 やった!この人見た目怖いけどいい人じゃん!と思ったが見透かしたように

「言っておくが。その分は働いてもらうからな。何もせず食っちゃ寝してたら、たたき出すぞ」

「ぴぃっ!?」

 と、きつい目つきで睨まれ、胃がきゅっとなった。やっぱり怖いわこの人。



 その後、雑談をしたが、アルデリアさんの話はもはや驚くのも疲れるほどだった。

 アルデリアさんは何でも神話時代の英雄だったらしく、人間同士どころから魔人、神様相手に大暴れし、やりすぎてこの廃棄世界に幽閉されたらしい。しかも呪いだか祝福だかで実質不老不死になっているとのこと。

 普通の人が話したなら、まず狂人扱い必至だが、まるで嘘などと思えなかった。というかあのS級のデカトカゲを瞬殺した腕を直に見たら、信じざるを得ない。

 そして、話を聞くうちに俺の中である決心が湧き上がっていた。


「その・・・失礼ながら、アルデリアさんは日中何をしているんですか?」

「わしか?別に、この世界飛びまわったり、美術品をつくったり、まぁ、ぶっちゃけ暇してるの」

「その・・・お願いがあります!もし時間があれば私に稽古をつけてもらえませんでしょうか!」

「面倒。いやじゃ」

「即答!?」

 俺の決心と必死な嘆願は30秒足らずで即拒否された。


「今暇って言ったじゃないですか!?」

「暇だからと言って面倒なことをしたいわけじゃないわい!どうせ、その寝取り勇者をぶん殴ってやりたいとかそんなじゃろ」

 食らいつく俺に、アルデリアさんは面倒臭そうに吐き捨てた。図星である。

「はい・・・」

「そんなことくらいで一々・・・」

 その一言に俺は凍り付いた・・・・・・は?“そんなこと”?

 


 イマソンナコトトイッタノカ?



 この瞬間、俺の何かが弾けた。


「そんなことじゃない!」

 思わず激昂して怒鳴ってしまった。この人の機嫌を損ねるのは恐ろしい。けど、今まで誰も触らなかった傷口をつつかれた俺は、思わず溜まっていた心の澱を吐き出してしまったのだ。


「俺にとってはそんなことじゃないです!俺は全てを失った。恋人も男の誇りも!このまま忘れてへらへら笑って生きていくなんてできない!俺は死んで生きていきたくない!だから、だから!あの奪って当然という顔をしたあの男に一矢報いたい!エレナは無理だとわかってる。でも、誇りだけは!誇りだけは失いたくない!」

 言い切ったところで、唐突に我に返る俺。・・・やばい。怒らせた?というか怒るよな?普通。少なくともいきなり八つ当たり気味に怒鳴られて、ご機嫌になろうはずもない。

「す、すみません。いきなり怒鳴ってしまって」 

 と謝り、恐る恐るアルデリアさんの様子をうかがうと、そのアルデリアさんは呆然と俺を見ていた。出会って初めて見る表情に逆に俺が驚く。なんだ?え?どういう心境だ?


「・・・よかろう。気が変わった」

 しばらく、ぽかんとしていたアルデリアさんだが、急に笑みを浮かべて意見を翻した。

「え?」

「気が変わった。鍛えてやろう。と言っている。その寝とり勇者とやらにぎゃふんと言わせてやろうぞ」

「ほ、本当ですか!?」

 何で急に意見が翻ったかわからないが、アルデリアさんは俺を鍛えてくれることにしてくれたらしい。やったぜ。


「とはいえ、相手は勇者。聞く限りお主の勝ち目は低いのう。もともと、人類の規格外の存在を滅するための存在じゃからな。戦闘力の違いは圧倒的。しかも話を聞く限りじゃと、自身の安全は徹底的にしているような性格じゃ、防御面に関してはかなり強固。真っ当な攻撃は通らんじゃろうな」

 アルデリアさんの口調は淡々としているが、だからこそ真剣みが伝わる。

「だが、案ずるな。わしは格上の神殺しを成し遂げた戦士。貴様に一つ技を教えよう。無論習得には困難が伴うが、その技ならばいかな存在でも斬ることができる。ただ、実質教える時間が3年じゃ。相当厳しくいくぞ。嫌ならいつでもやめて構わん。お主が言う、死んで生き続けよ」

その迫力。俺は思わず気をのまれ、ごくりと唾を飲み込んだ。

「その技に名前は特にないが・・・そうじゃな“零斬り”と仮称しようか?魔法を、物体を、硬度・性質問わず斬ることができる秘剣じゃ」


そこで、アルデリアさんはにやりと不適に笑みの形に唇を歪めた。

師匠との修行&アクションパートの突入です。

とはいえ、ぐだらないように、なるべくテンポよく進めていきます。

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