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3全てを失いました

 エレナが旅立って1年経った。


 俺はその間、冒険者の経験を積み、Cランクにまで上り詰めた。ここまでくるともう一人前と言ってもいい。


 その日、仕事から帰るとエレナの親父さんが息を切らして我が家にやってきた。

「シャル君、朗報だぞ!何と魔王が討伐されたそうだ」

「本当ですか!?」

 思わずはしゃいだ声を上げてしまった。魔王が倒された。ということはエレナも帰ってくるということだ。

「僻地のせいで連絡が遅れたが、もう一行は帰ってきており、あと半月もすればこちらに戻るとエレナから連絡があったんだ」

 エレナに会える。1年以上も離れていたが、その気持ちは変わらない。早く会いたい!早く帰ってきてあの笑顔を見せてくれ!


 エレナが帰郷する日、俺と知らせを聞いた村人達が村の入口付近で待機していた。英雄のお出迎えのためだ。皆が口々に噂する中、俺の心は騒いでいた。早く会いたいと、その気持ちが止まらない。

 昼ごろになり、村の定期便とは違う馬車が来た。その馬車は村に入ると停車。そこから懐かしいエレナが下りてきた。

「エレナ・・・」

 1年前と変わらない姿。いや、少し大人びたかな?村人が歓声を上げて大騒ぎする中、久々の再会に思わず涙ぐむ俺。しかし、俺は何か違和感を覚えていた。そう、何かが違うと。

 そして、エレナの後にキラキラした鎧に身を包んだ背の高い金髪イケメンが下りてきた。年頃は俺より少し年上くらいだろうか目元が涼しげで鼻も高い整った美形なのだが、なんか見下した印象を与える、不愉快な印象がある。

 そこで俺の頭に疑問がわきあがる。


 どうして、エレナはこの男と腕を組んでいるんだ?


 エレナと俺は一瞬視線を交わしたが、何も反応せず、金髪イケメンと一緒に腕を組んでエレナの実家に向かって行った。

 その時、俺はひどい胸騒ぎを感じていた。


 一刻も早くエレナと会いたいが流石に実の父の再会に水を差すわけにいかず自宅で、悶々としていたところ、コンコンというノックの音が聞こえた。俺は飛びあがるようにドアに向かい、開けたところ懐かしのエレナと勇者レオンといったか、2人が俺の前に立っていた。


「よ、よお。久しぶりだな。エレナ。えっと、そちら勇者さんだっけ、はじめまして」

 急な再会にしどろもどろになって対応する俺だが、2人はなんだろうなんというか白けた空気を出していた。

「立ち話も何だし、よかったら・・・」

「ここでいいわ。あのね、その私言いたいことがあってきたの。シャル、貴方との婚約なかったことにしてほしいの」

「・・・へ?」

 自分でも間抜けに思える声が出た。何を言っているかわからなかった。エレナが婚約破棄を宣言したと気づくのに少し時間がかかった。


「シャル・・・あのね、私勇者様、この勇者レオンさんとお付き合いすることにしたの。だから、私との結婚諦めてください」

 真面目な顔で発言するエレナ・・・聞き間違いじゃない?

「そういうことさ。手紙でもいいって彼女は言ったけど、こういうのはきちんと言わないといけないってことで、ここに来たのさ」

 初めて聞く勇者の声、良く通る声だが、俺には耳障りにしか感じられない。その笑顔も軽薄すぎてイラつきしか感じない。そんなのはどうでもいい。こいつら何言ってるんだ?理解できない。まるで意味が分からない。


「待てよ!納得できるかよ!そんないきなり!」

「きゃぁぁ!何するの!」

 怒声を上げて思わずエレナに掴みかかる俺だが、エレナは拒絶の悲鳴を上げ、俺の手をはたき、さっと勇者の傍に避難した。

「あのね?シャル。お願いだから。綺麗に別れてほしいの。もうお互いに大人なんだし、これからは別々の道を歩いていきましょう。ね?」

 まるで、わがまま言う子供に言い聞かせるかのような表情と口調。そこにかつてのエレナの親しみが微塵も感じられない。

「ふ、ふざけんなよ!理由をいえよ!いきなり言われて、分かったなんて言えるか!」

「理由?それは本当の愛を知ったから。レオンさんはいつも私を守ってくれた。いつも私に優しくしてくれた。辛い時も慰めてくれた。いつも怖い敵と戦ってくれた。気が付いたら、もうレオンさんのことしか考えられなくなって・・・惚れていたの。気づいちゃったんだ。私。私とシャルはただの幼馴染、私のレオンさんに対する想いこそが本当の恋だって」

 うっとりした笑みを浮かべ理由を話すエレナ。俺は凍りつく。分からない・・・なんでそんなことを。


 ただ、呆然とする俺にレオンは近づき、むかつく笑顔を浮かべ、エレナに聞こえない様な音量でそっと耳元でささやいた。


「ごめんね君。もうエレナはもう僕のものさ。堅物だったけど、優しくしたら、もうべったりさ。初めてもいただいたよ。知ってるかい?彼女、ああ見えてベッドの上じゃ大胆なんだ。しかも従順でお願いしたら喜んで・・・・」


 ぶちっ


 頭が真っ白になった。これが怒りだと気が付くのに少し時間かかるほどの凄まじい怒り。人生初の我を失う怒りに俺は自然と拳を握り、話途中の勇者の頬に全力で叩きこむ・・・が、受けた瞬間レオンはわざと大げさに吹き飛び、エレナの元まで大きく距離をとられた。追撃をしようとしたところ、エレナが俺の目の前に立ちはだかり、憎々しげに睨む。俺はエレナのかつてない激しい感情に凍り付いた。


「やめて!何でいきなりそんなひどいことするの!?いきなり暴力振るうなんて最低よ!」

「ふ、ふざけんな!最低でふざけた真似したのはこいつだろうが!どけよ!」

 俺とエレナは生まれて初めて怒鳴り合い睨み合った。そこに、殴ったはずなのに無傷な勇者がにっこりと声をかけた。

「いや、ごめんごめん。ちょっと配慮が足りなかったようだ。いきなり言われても驚くよね。そうだ。君は戦士なんだろう?試合をして白黒つけようじゃないか。武器は互いに木刀で、僕は勇者だが剣技以外のスキルは一切使わない。それとそうだね、僕は足の裏以外の部分が地面についたら負けという条件も付けよう。男らしくそれで決着つけないか」

 何が配慮だよ、エレナに聞こえないような声で姑息で露骨な挑発しやがって。不愉快極まりない言動に怒りはさらに高まる。

「いいよ・・・やってやるよ!」

 勇者相手だろうが関係ない!かつてない怒りに一切の判断力を失った俺はその挑戦に吠えて応えた。


 村はずれにある草むら。何もないので村人も滅多に来ないそこで、エレナが立会いの下、勇者と俺は向かい合う。

(勇者相手に勝てるとは思えない。だけど、剣だけの勝負ならば、この身をかければ一撃くらいは喰らわせてやれるはずだ。あの澄ました顔にぶちかましてやる!!)

「うおぉぉぉぉっぉぉ!」

 俺は激情のままに剣を振るう。だが怒りにまかせただけでない、今まで鍛えた技術を使った激しく、苛烈な剣。

 だが、

「お、お、おぉぉぉぉ。す、すごいねこれは!」

 全て勇者の剣で防がれ、避けられる。すごく驚いて、危なげに見えるが、俺は感じ取った。

 こいつ遊んでいる。いつでも倒せるのに、わざと遊んでいやがる・・・!


「くそぉぉっぉぉ!」

 俺はこの1年間、鍛えに鍛えた技術、対人用の技や対魔物用の技もがむしゃらに振るうが、それも勇者の剣技の前に一切通用しない。

 その間、勇者は余裕の表情で俺の剣を捌きながら、勇者を応援するエレナと会話をしていた。

「レオンさーん!頑張ってくださいー」

「ああ、エレナ。君の愛のために負けないさ」

「う、嬉しい!私も愛してます!レオンさん!」


(なんだよこの茶番)

 俺の眼に悔しさから涙が浮かんでくる。愛した女は憎むべき男を応援し、愛する女を奪った憎むべき男にはなめられているのに傷一つつけられない。

「畜生!畜生!!」

「はは、ごめんごめん泣かせるつもりはなかったんだ。泣かないでくれよ。っと」

「ぶふぁぁぁぁあぁ!?」

 俺は勇者の足払いで無様に地面を転がる。慌てて起き上がり、見ると勇者は追撃かけずにへらへらと見下し笑っていた。

「くそがあぁぁぁぁあぁぁぁ!」

 もう技も何もない。怒りを込めて思い切り斬るが、あっさり防がれ、鍔迫り合いの状態で互いに肉薄する俺と勇者。そこで勇者はにたぁと厭らしい笑みを浮かべ、小声で言った。

「いやぁ、必死で無様な反応ありがとう。面白かったよ♪寝取られ泣き虫ザコ君♪」

「あぁ!?」

 その途端、密着した状態で強引に突き飛ばされ、後ろにたたらを踏んだところ、

「おや、胴体がお留守だよ」

 隙ができた脇腹にあざ笑う勇者の鋭い一撃が入った。

「げぅ!ごほっ」

 どさっと一撃で倒れ伏す俺。疲労と激痛と呼吸困難で立つこともできない。

「これで僕の勝ちかな。いやぁ、危なかったよ。油断していたら負けていたね」

 無傷でキラキラと爽やかな笑顔で言う勇者。なんて白々しい。

 心は荒れ狂うが、身体が言うことを聞かない。這いつくばり、土まみれの汚れた状態で震えながら涙目で見上げて睨みつけることしかできない。


 それを見て、にやつく勇者と倒れる俺の傍にエレナが走り寄って、「シャル」と声をかけた。


「うぅ・・・エレナ」

 やっぱり俺のところに戻ってくれたのか・・・と思った次の瞬間


「はぁぁぁぁ・・・もうはっきり言うね。シャル、私はもう貴方に愛情もないの。私の心はもう勇者のレオンさんにあるの。だから、もう恋人の顔して近づかないでほしい。今のシャルみっともないし、すっごく気持ち悪いよ」

 エレナは心底見下した目で吐き捨てるように宣言した。


「あ・・・あ・・・エレナ」


 そして


「ぺっ」


 ぴちゃ


 忌々しげな顔で唾を俺の顔に吐き捨てた。


 俺は一瞬何をされたのかわからなかった。


「これでわかってくれたよね?さぁ、行きましょう。レオンさん♪」

「じゃぁね・・・っと名前なんだっけ?まぁ、いいか。いこうかエレナ」

 一転して幸せそうな笑顔を浮かべたエレナは差し出された勇者の腕をとり、俺の顔を見て嬉しそうに笑う勇者と共に立ち去っていった。


 身体の苦痛と心の衝撃に耐えきれず俺は意識を失った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 行く先々で勇者の所業吹聴して回って勇者とエレナの居場所無くしてあげないと 真実やし
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