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2英雄が恋人になりました

 ここは村の教会。

 王国から来たという紫の立派な法衣を着た髭のおじさんが一定の年齢の村人を集め、「魔王復活の予兆が出た。今より英雄の力を持つ者を調べることにする」と言いだし、調べ始めたのだ。


 そしてエレナの番になったところ、おじさんの手に持った水晶玉がビカビカ輝き始めて、叫び声をあげた。

「間違いない!この女性こそ勇者に仕えし5大英雄の一人“聖女”である!」

 しばしの沈黙・・・そして村人から一斉に歓声が上がった。

 俺とエレナは現実感がわかず、呆然としていた。


 そして、その日の夜。村中は大宴会になった。

 今や安全とはいえ、英雄に選ばれた家や村には国から手厚い補助金が出る。そして英雄が生まれた土地というのはそれだけで知名度が抜群に上がる。村長はウハウハで、エレナの両親も自分の娘が伝説の英雄に選ばれたことに歓喜している。村人も自分たちの知る者の中からおとぎ話の英雄が生まれたとあって、大興奮。

 その日は村長が太っ腹なところを見せ、宴会という名の祭りが開催されたのだ。

 皆が盛り上がる中、俺はなんというか素直に喜べなかった。だって、それは俺の好きな人との少しの間の別れを意味するのだから。


 俺は祭りから抜けだし、近所の公園という名の広場に行くと、中心部の大木のふもとに座り、きらめく夜空をぼーっと見ていた。いつもは賑やかな空間だが、今日はお祭り騒ぎで皆会場に向かっているので、今は俺だけだ。


 しばらくして、

「シャール♪」

「おおう!?」

 無防備だから驚いた。何時の間にやら、後ろにエレナがいた。

「な、何やってんだよ。今日の主役がこんなところに居たら、駄目だろ?」

「もう、みんな酒盛りになって騒いでいるもの。いなくても大丈夫よ。それより騒ぎすぎちゃって疲れちゃった。隣座るね」

 俺の返事も待たずに、隣に座ると、横にぴっとりとくっつく。すぐ近くの頭部からふわりといい香りが漂う。思わず顔を埋めくんくん嗅ぎたくなる変態欲求を無理やり抑え、冷静を装う俺。

「・・・行きたくないなー」

 ぼそっとエレナがつぶやいた。

「行かなきゃ駄目だろ。行かないと大変な目に合うし」

 自分で言ってあれだが、もう少し、気が利いた言葉が言えないのだろうか。

「うん、だから言っただけ・・・でも今回の魔王がいる場所って」

「北の山脈だっけ?」

 この国からは大分離れた僻地の場所だ。馬車を使っても相当時間がかかる地域のはずだ。

「うん、訓練も含めれば1年は帰れないって」

「1年か・・・長いね」

「うん」

 それから俺らはつまらない雑談に興じた。ただ話すだけでも満ち足りた幸せな時間。

 それがあと少しで無くなってしまう。嫌だ。段々気持ちは募り始め、俺の異変に気づいたのか「どうしたの?」というように純真な瞳で、吐息を感じるほどの距離で俺を見つめるエレナ。

 その瞬間、俺は少し距離をとり、思わず気持ちを吐露してしまった。

「あのさ!・・・・魔王討伐から帰ったら、お、俺と結婚してくれないか?」

「え・・・?」

 エレナは呆然とした顔で俺をまじまじ見た。


 ・・・あれ、や、やっちゃった・・・か?俺いきなり何言ってんだ?こういうのって段階あるだろ。何突っ走ってんだ!?

 エレナは表情を変えず、じーっと見てる。なんで反応しないんだ?

 もしかして「え?何言ってんの?何か勘違いしてるみたい。どうやって断ろうかな?」とかそういうこと?「わたしたち家族みたいなものじゃない」とか言われる?ああ!もう!やばい!何でいきなりこんなこと言っちまったんだ?俺。

 と無数の悲惨な可能性を思考して、告白を後悔し始めていたら。


「今なんて!?もう一度!言って!」

 目を見開いてぐいと凄い圧で迫るエレナ。近い近い。

「いえ・・・その・・・好きだから・・・魔王倒して一区切りついたときに結婚して、家族になってほしいと」

 エレナはしばらく沈黙していたが

「嬉しい・・・」

 エレナはぽろぽろと涙を流して泣いていた。

「最近、シャルすこし冷たいところがあるから。もしかして町でかわいい子見つけて、私のこと飽きたのかと思ったの」

「ち、違う!それは絶対に違う!俺はお前だけだ」

 いや、エレナが魅力的すぎて見れなかっただけなのだが、それは恥ずかしいので黙っておくことにする。

「うん!喜んでお受けします!帰ったら、結婚してください!」

 エレナは満面の笑顔で答えてくれた。俺の心に得も知れぬ感動がわき始める。

「・・・っよっしゃぁぁあぁぁぁぁ!」

 思わず絶叫する俺。びっくりするエレナ。

「も、もうシャルったら喜び過ぎだよ」

「いや、嬉しくて嬉しすぎてさ。たぶんエレナが思っている100倍好きだからさ!もう嬉しくて」

「ほへ!?で、でででも私もそうだから。叫んでないけど、シャルが思っている1000倍私喜んでいるから!」

「いや、俺が」「私の方が」とくだらない口げんかをしている内、俺らは距離が近づき、言葉がなくなり、どちらともなく抱き合って俺とエレナは長い間キスをした。

 この瞬間、俺は今世界で一番幸せだと思った。


 次の日

「行ってきまーす!」

 元気いっぱいのエレナは王宮の人たちの豪華な馬車に乗って旅立っていった。もう村人総出でお見送りだ。まぁ、無理もないか。俺も1年後に備えて、もっとあいつにふさわしい男になろう。そう決意した。

 その時は思いもしなかった、俺らの関係にあんな波乱がやってこようなどと。


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