番外編2 賢者の日記
この回で正式に完結となります。
後半になり、登場した銀髪美少女のシャロン視点で、エレナと出会う前の過去からエピソード後の未来までの出来事を書いています。
シャロンの日記
+月×日
今日は驚くことが起きた。私が英雄に選ばれたのだ。私は“賢者”。あらゆる魔法属性と膨大な魔力を持つ魔法のエキスパートである。
私が英雄なんて信じられなかった。正直、魔王討伐などこわくて仕方がない。だが、亡くなった父が返しきれなかった、義母の前夫の残した借金を返済することができる、
それに、これはいいきっかけになるかもしれない。
義兄さん。兄妹だけど血がつながっていない義兄さんと結ばれるための。
いつまでもただの妹じゃない。魔王を倒し、英雄となった立派な姿を見せて、一人の女として見てもらいたい。そしてただの兄と妹の関係から抜け出すのだ。
-月×日
王都にて勇者と英雄5人が揃った。英雄の皆さんは皆大人で美しく、才能ありそうな女性ばかり。それに対し私はちんちくりんな体形・・・うぅ、劣等感。
そんな中、エレナさんという“聖女”に出会った。きれいで、背も高く、胸も凄い、でもすっごく優しい人。
私の委縮を感じたのか、親しげに話しかけてくれた。人見知りのところがある私だが、この人にはそんなことはなく、私たちは歳の差は在れどあっという間に仲良くなれた。
だが、肝心の勇者。彼は苦手だ。たしかに美形だ。だが、なんだろう何か怖い感じがする。あまりかかわりたくないな。
¥月×日
勇者さんと英雄の皆さんと旅をして、しばらく経った。
私も戦力として大分成長した。大きく変わったのは勇者さんとの関係だ。
彼は素晴らしい人だ。性格、容姿、何もかも素敵でたまらない。彼もそんな私を可愛がってくれる。日記を見返したが、何で勇者さんに苦手意識を感じていたんだろう。馬鹿な昔の私。
そういえば最近義兄さんのこと思い出したりしないな。
○月×日
今日は勇者さんと実家に戻った。そこで私は***************************************************************************************************************************************
(ペンでぐちゃぐちゃにされて文字の判別が不明)
●月×日
気が狂いそうあの男●してやる●してやる●してやる●してやる●してやる●してやる●してやる●してやる●してやる●してやる●してやる●してやる●してやる●してやる●してやる●してやる●してやる●●●●ね!!●●●●ね!●●●●ね!●●●●ね!●●●●ね!●●●●ね!●●●●ね!●●●●ね!●●●●ね!●●●●ね!●●●●ね!
◎月×日
いくら痛めつけてもあの男への怒りと憎しみは一向に消えない。だが、それ以上に義兄さんへの罪悪感が大きくなり始めてきた。他のみんなもそうだ、拷問後は暗い顔で落ち込んでいる。
あの男は私達を変態プレイで辱めること以外にも、私達に大切な人へひどいマネをさせて、その絶望の姿を見て喜ぶという性癖があったのだ。私同様みんな自分の想い人や大切な人に取り返しがつかない真似をさせられたらしい。
最年長で最も頼れるライラさんは明るく皆を励ましてくれているが、私は知っている。夜皆が寝静まった頃、誰かの名前を呟きながら「すまないすまない」と泣きながら誰かに詫びていることを。
△月×日
あれが完全に壊れた。それはどうでもいいが、問題はこれからのことだ。あれからみんなとずっと話し続け、いくら傷ついてもひたすら詫びて償いをするという結論に落ち着いた。
あれのことはライラさんが最後まで面倒を見ることになった。自分も辛いのに、あんな男のために自分のこれからの時間を割くだなんて。その強さと優しさに思わず泣いて感謝を述べた時、優しく抱いてくれて「頑張ってな」と明るく、でも何故か悲しいような苦しいような複雑な顔で言ってくれたのが心に残った。
▽月×日
実家に戻った。今更何しに来たんだといきなり義兄さんに拒絶された。とりなす義母のおかげで話ができ、洗脳のことも含め、事情を説明して謝った。
だが、義兄さんの反応は冷淡で一方的だった。ふざけるな、それに洗脳されていてもお前はお前だったんだろうと。返す言葉もない。あの時の行動は私の意思ではない。でもそれを証明出来ないのだ。
いっそ、あのクズを連れて来るべきだったか?と思ったが、すぐに心の中で首を振る。居場所はライラさんからどこかの田舎としか聞いていないので分からないし、そもそも今はもうあの男のスキルは完全に消失している。それに、あんなに壊れて、まともに会話もできない男を見せてもドン引きされるだけだろう。
ああ、なんて甘いことを考えていたんだろう。洗脳されていたと言えば優しい義兄さんは許してくれるだろうと勝手に信じていた。なんて馬鹿だ。償いに来たのではないのか?操られたからといって、あんなひどい真似をしてどうして簡単に許されるのだと思ったのだろう。自分の身勝手さに情けなさを感じる。
▲月×日
何回か謝罪しても、義兄さんからはあの優しい義兄さんから怒鳴られ、拒絶された。辛い。どんな目にあってもひたすら謝り償うなどと言ったが、数日で心が折れそうだ。周りには優しいエレナさんも頼れるライラさんもいない。助けてくれる人はいないのだ。苦しいよ。
■月×日
心が折れた。かつて義兄さんと一緒にいった思い出の花畑の前で、私は泣いた。ワンワン泣いた。もうどうすればいいのかわからない。苦しくて悲しくて泣き言を、助けを叫んで、悲鳴をあげた。
いつの間にか気が付いたら義兄さんが傍にいた。どうしてか義兄さんがひどく傷ついた顔をしていた。どうして義兄さんがそんな苦しんだ顔をしているのだろう?怖くて苦しくて思わず逃げようとする私を義兄さんは引き留め、もう一度私としっかり話したいと言ってくれた。
そこで私達は改めて向き合い、ようやく少し歩み寄ることができた。
◆月×日
あの時から、義兄さんがと私は、少しずつ私たちは以前の関係に戻っていった。嬉しい。今日は義兄さんに旅とクズの家で仲間に教えてもらった自慢の手料理をふるまった。美味しいと喜んでくれて幸福な気分。あの勇者との旅とその後の生活は人生の汚点だが、仲間との出会いと、この料理の腕が上がったことだけは認めよう。
☆月×日
冒険者を始めることになった。理由は金がないためだ。魔王退治で褒賞金をもらい、借金は返せたが、これからの生活のためにも金は必要だ。私の貯金は自分の装備とあれに貢ぐために使ったため、そんなに残っていない。家もボロいし、蓄えもろくにないと、これでは将来が不安だ。そこで冒険者として金を稼ごうと決意したのだ。勇者と魔王がいなくなったせいだろうか、私の英雄の加護は最盛期に比べれば少し弱まったが、今なお普通の冒険者に比べれば数段上と自負している。
&月×日
義兄さんが冒険者として私と一緒に来ることになった。嬉しい。
本当は義兄さんは義母が一人になるのが心配で傍に居たかったそうだが、「私のせいで可能性と未来を閉じないで。私は我が子の枷にはなりたくないの」と義母自ら義兄さんに外で仕事をするように推したのだ。思えば義母さんは私の気持ちも考えてくれたんだろう。ありがとうございます。義母さん。
A月×日
なんと、今日は冒険者ギルドでエレナさんと偶然再会した。隣にはあの時あれを倒した剣士さんがいた。話したところ、エレナさんたちも私達と同じだった。あれによって決定的に壊された人生。
だが、今のエレナさんは彼の傍ですごくほわわんと、見るこちらも幸せを感じる笑顔をしている。昔人形になっていた時の、歪んだ媚びた笑みとはまるで違う。これは最初会った時の、本当の優しいエレナさんの笑み。きっとあの男の人がいるからだろう。
あの人がエレナさんにとっての私の義兄さんみたいな存在なんだろうな。
~月×日
今日は正式にエレナさんとシャルさんとパーティーを組んだ。エレナさんの回復魔法とシャルさんの剣の技はとてもすごい。これならばA級の昇格も近いかもしれない。義兄さんも2人のことを尊敬しているようでパーティーはとってもいい調子。
ただ、義兄さんが時折エレナさんの大きな胸をいやらしい目で追っている。ふざけんな。
√月×日
エレナさんとお出掛けしていたら、ナンパにあった。ナンパにはよくあうが、今日会ったその男は顔はよいが、馴れ馴れしく、しつこく、とにかく言動が不愉快極まりなかった。力づくで追い払ったが、何かあのクズ勇者を彷彿とさせ、苦々しい記憶と思いが沸き起こり、普段はしないが思わず地面に唾を吐き捨てた。すると、
「・・・あのさぁ。ねぇ、シャロンちゃん。気持ちは分かるけど、私の前でそんな真似するのやめてくれない?というか、するなよ」
と、いつもふんわり優しいエレナさんが感情が無いのっぺりした顔で今までにない口調で私に注意した。その恐ろしいこと。私はすぐに涙目で震えながら謝った。
どうやら、エレナさんは唾を吐き捨てる行為が死ぬほど嫌いらしい。義兄さんにも注意をしておかなければ!
□月×日
初めて義兄さんと結ばれた。人生最良の日。初めてでないのだけが凄まじく悔やまれる。
だが、あのクズ勇者の時より気持ちよさも幸福感も満足度も桁違いに上だった。生まれて初めてと言ってもいい。後で話をしたら、エレナさんもうっとり顔で私もそうだったわ。と艶っぽい顔でくねくねしながら言っていた。
その後、エレナさんと女性同士でちょっとHで下品なトークをした。あのクズは能力がないと、あれもクズってことがわかった・・・ちょっとはっちゃけすぎた。この話は男達には内緒♪
@月×日
今日はシャルさんとエレナさんの結婚式だ。
シャルさんは女性達が黄色い声を上げるほど凛々しく、エレナさんは男女ともにため息をつくほど凄い綺麗だった。
何より、心底幸福な笑顔だ。今日ばかりは見惚れる義兄さんも許してあげよう。あれは仕方がない。
S級冒険者になって、忙しくなる前に挙げたということで慌ただしいスケジュールだったが、大勢の人が集まっていた。勇者を倒したシャルさんと元英雄のエレナさんは力が上であっても驕らず、どんな相手でも真摯に対応し、見返りもないのに困った人を助けてる優しい人達ですから、この人気は当然ですね。
お2人とも本当におめでとうございます。次は私が続いてみせます!
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
初の長編でちょっと名前負けした内容となりましたが、いかがでしたでしょうか。
感想については長くなりますので、活動報告にてまとめさせていただきます。
色々思うところがあったかもしれませんが、読んで面白かったと少しでも思えた方がいらっしゃれば、大変うれしいです。




