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14クズな勇者は報いを受けました

本日2回目の投稿です。同時刻に番外編1を投稿しています。まだの方は是非そちらをご覧下さい。


なお、今回クズ勇者が断罪されます。やや流血やグロめのシーンがありますので、苦手な方は飛ばしてください。飛ばしてもわかるように次回の前書きで補足します。

 シャルが大会で優勝し、エレナと再び結ばれた、その数日後。

 勇者が大金で築いたハーレム用の屋敷の一室に

「ぎゃっぇっぇえええ!ゆるじでくだざい!いだいいだいいだいぃぃ」

 レオンの悲鳴が響き渡っていた。


 少し時間は遡る。

 レオンがシャルの手で意識を断たれてから翌日。

 レオンがようやく意識を取り戻し、目を覚ました時、レオンは己のハーレム屋敷の一室にあるベッドで寝ていた。力が抜けた体で辺りを見回すとレオンのハーレムメンバーである女たち“1軍”と“2軍”“候補”総勢10数人近くが勢ぞろいして真面目な顔をこちらを見つめている。

 どういう状況だ?とは思ったが、自分が負けたことを思い出し、彼女達が看病のためにここに運んでくれ、心配して看病してくれているとレオンは解釈した。


「あはは、みんな負けちゃったよ、恥ずかしいところ見せてごめんね。次は勝つよ。でも、ちょっと疲れて慰めてほしいんだ。頼めるかな?」

 そう困ったように笑顔で言う。すぐに好感度最大の女たちはいつもみたいに我を争うように俺にしがみついて甘えた声を出して奉仕するだろう。とりあえずむしゃくしゃする思いはこいつらにぶつけてストレス発散しよう。さて、どんはプレイで発散しようかとレオンは腐った欲望と妄想にほくそ笑んでいると、


「大丈夫です・・・スキルは“一切”ありません」

 そこに相手の能力の詳細を見れる珍しい鑑定能力を持つ“2軍”の商人モイナが言葉を発した。そして、


「そうか」

 という硬い声とと共に、ぼきんと、いきなり枯れた音がした。

「へ?・・・・あがぁぁぁあぁぁ!?」

 激痛がレオンを襲った。手の小指の骨をへし折られたということに気付くのに時間がかかり、暴れようとしてそこで初めて手足が鎖で拘束されていたことに気が付いた。

「な・・・な、なにをするんだ!?」

 混乱しながらもレオンが顔を向けると、指をへし折ったのは赤いワイルドヘアーに褐色の肌をしたワイルドな美人、英雄が一角“1軍”「剣神」ライラだった。かつて、その色気溢れる体を使い妖艶な言動でレオンに迫っていた姉御肌の彼女は憎悪で瞳を濁らせて続けて指を折った。

「痛いか?」

 ぼきん!

「ぐあぁぁあぁぁぁぁあ!?」


「あたいはあいつに、大事なあいつにこうしちまったんだ!てめぇの命令でな」

 ぼきん!

「いぎぃいぃぃぃ!」


「あいつの大切な指をへし折っちまったんだ!」

 ぼきん!

「っぎ!?がぁぁぁぁあ!」


「こんな風に!てめぇが!てめぇのせいで!!」

 ぼきん!

「がぁぁあぁあぁぁ!」


「このクズ野郎がぁぁぁぁぁ!!!」

「もう止めてください。ライラさん!」「落ち着いてください」

 右手の指を全てへし折った後、剣を抜こうとしたライラを2軍である僧侶のマーヤと薬師ミリーが強引に止めて、マーヤがレオンに回復魔法をかける。エレナには及ばないが強力な回復魔法と神聖魔法の使い手でもある。


「うう・・・マーヤ・・・ミリー・・・あ」

 痛みはひき、助けてくれてありがとうと言おうとした時、あの清純で気弱で毎回頬を染めながら熱い奉仕をしてくれたマーヤは仮面のような笑顔でこういった。


「もう、順番待ちはまだたくさんいるんですから。もっと生き続けて苦しんでくださいね」


「ひぇ!?」

 その殺気に背筋が凍る中、そして次に出てきたのは英雄である“1軍”で“賢者”のシャロンだ。血のつながらない義兄を愛していた少女で、今は義兄を捨て、忘れ、レオンの前で甘えるだけの愛玩娘になっていたのだが。


「ぐきゃぁぁぁぁ!!痛い痛い!!!やめてー!シャロンちゃん!痛いよ!ごぎやぁあぁぁ!!!」

「お前のせいで穢れた私の義兄さんに捧げるはずの初めてが消えた穢れた穢れた義兄さんの初めてが穢れたお前のせいだ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ」

 レオンの叫びに、一切反応せずシャロンはかつての愛くるしい表情はなく虚ろな瞳で呟きながら調節した雷撃魔法をかける。死ぬことはないが、激痛を味わう威力に調整された苦痛目的だけの雷である。

 当然、レオンは勇者のあらゆるスキルを使い、力ずくで拘束を逃れようとしているが、魔法も力も一切反応しない。当然拘束はびくともしないし、彼女たちに影響もない。

(なんでだよなんでこんなことになっているんだよ!?なんで力でないんだよ!スキルがでないんだよ!こいつら俺の道具だろう!?ほら、目を見ろよ!上がれ好感度!もう一回上がれよ!上がってくれよぉぉぉぉ!?)

 混乱するレオンはまだ勇者の力が消失したという己の身に起きたことに一切気が付いていないのだ。


 あの時、ハーレムメンバーたちは闘技場でレオンが倒れた時点で、レオンの能力から解放された。

 そして、そのスキルがなくなった時、彼女たちはエレナ同様、勇者の何らかの能力で己で愛する者を手ひどく裏切り、勇者に一方的に愛情を注ぎ、奉仕する真似をさせられていたことに気が付いたのだ。

 取り押さえたエレナが慌てて逃げ出したことにも頓着せず、目が覚めて事実を認識した彼女らは絶望、恐怖し、半ば発狂した。


 震えながら自分を抱きしめ崩れ落ちて混乱する者

 かつて愛したものの名を呼び、泣きながら謝罪する者

 へたり込み失禁した事にも気づかず呆然とする者

 身体が拒否反応をおこし、その場で嘔吐する者

 呆けた笑みを浮かべて何かを呟く者。


 そんな壊れかけた彼女たちの中から誰かが一言つぶやいた。


「ねぇ、あのクズ。痛めつけて苦しめようよ」


 彼女たちのだれが言い出したか、その言葉で憎しみは灯り、怒りは拡散し、殺意は伝染し、狂気に感染した。己の体も誇りも愛する者も全てを穢され、奪われた一同の顔は狂気に彩られ、皆は揃って一斉に実行にうつった。あっという間に眠る勇者を隠れ家に連れ込み、拘束。

 そして、壊れかけて狂気に染まった女性達の拷問が始まったのだ。



 そして、時間は現在に戻る。

「はい。元気になりましたね?次はシャーリーさんの番です。モイナさん?」

「はい。大丈夫です。やっぱりスキルの反応はありません」

「そうですか。サリナさんの言うことは本当だったんですね」

 あれから気絶出来ないほどの激痛を与え続けていたシャロンは一旦、他の仲間に止められた。その瞬間、気を失ったレオンは僧侶のマーヤの回復魔法と薬師のミリーの合成薬で復活した。しかし、その精神までは復活していなかった。

「や、やめてくれよぉぉぉ。もうしないからもうしないから。反省しましたから」

 心折れたレオンは3人に母親に縋る子供のように泣いて、許しを請う。

「反省・・・したんですか?」

「うん!」

 無視されず帰ってきた返事に、許してもらえたのかと笑顔で答えるレオン。

「もう、しませんか?」

「はい!二度としません!」

「本当に反省したんですね?」

「はい!反省します反省します反省します!」

 必死に声を上げて媚びるレオン。僧侶マーヤと薬師ミリーと商人モイナは一度顔を見合すと、レオンににっこりほほ笑んだ。

「ああ・・・」

 助かった。そう思った。しかし、

「それがなんです?シャーリーさん。次どうぞ」

 あっさり無視され、次の拷問が始まる。希望を少し抱いた分、絶望はさらに深まる。そしてレオンは恐怖に顔を染める。目の前にやってきた、恐ろしく濁った眼の美女を前に。


「怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨」

「!い?ぎゃぁっぁぁあぁぁぁあ!やめて!やめてください!ごめんなさい!ごめんばさい!ごめんなさいぃぃぃぃぃ!!

 女呪術師シャーリーが普段昏い瞳をさらに濁らせた泥のような目で呪を呟きながら呪詛を唱える。いかなる効果か、レオンは泡を吹きながら、苦悶の声を上げながらベッドの上をのたうち回る。

 そしてまた、いつの間にか気を失ったのか、気が付くと薬師ミリーだけがいた。

「よかったー。治したし、体力回復する薬も投与したから“おかわり”いけるよね」

 その虚ろな笑顔に、まだ口が回らない状態で、レオンは必死に懇願する。

「おにぇがぁい。らんれもひまふからゆるひへくらはぁい」

「何言っているかわかんねーから。次の人ー」

「いやらぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!」



 彼女たちの狂気が鎮まるまで“それ”は続く。

 しかし、それはいつになるか当事者すらもわからない。

 たった2日で、かつてスキルなしでも多くの女性を魅了したレオンの端正で整った美貌は苦痛と恐怖で歪み切った醜いものに変貌していた。必死に懇願し、謝罪し、苦痛の悲鳴を上げても、誰も勇者を助けようとは、しなかった。

 大きな屋敷ということもあって、悲鳴は外に一切もれず、聞かれない。故に助けも来ない。

 そんなレオンを正気たらしめる唯一の希望は「スキルが戻ること」。万能のそれさえ戻れば、あんな女達を一蹴して、と期待しているが、その兆しはいまだない。


 そこに学者のサリナがやってきた。その知識量は桁外れ。黒い髪を腰まで伸ばした落ち着いた雰囲気が特徴のインテリ美人だ。レオンの指示でほのかな恋心を抱いた同僚にひどい目に合わせた彼女はへらっと笑いながらレオンの心を読んだように語りかけた。


「もしかして?スキルが戻ること期待しています?」

「・・・」

「でも、無駄ですよ?貴方のスキルは戻りません」

「・・・へ!?う、うそだ!」

 希望を砕く言葉に、思わず声を荒げるレオン。

「本当です。弱まったとかならともかく、“一度完全に失ったスキルは戻らない”んです。勇者ですら例外はありません。実例こそ少ないですが、昔から何件もあったんですよ。このケースは。最古の例は神話時代の書にある“古今無双の赤髪の大英雄の話”ですね。その時、その英雄は傲慢で無法者に堕ちた別の英雄のスキルだけを漆黒の剣で斬り、生涯無能な人物として過ごさせたそうですよ」

「・・・」

 “黒い剣”の単語に、まさか?とレオンの脳裏に最後に戦ったあの男の姿が浮かぶ。

「あまり例が無いので知られていませんが、これは高名な学者が長年研究し、実験し、証明したもので、他の学者や賢人達にも認められた結論です。考えてみてください。普通、いつ物騒なスキルが戻るかわからない危険な勇者をいつまでも痛め続けて放置しますか?」

「・・・」

「ある意味幸運でしたよ。スキルの力が弱り、封印されたとかだったら、恐ろしくてとっくに殺していたところです。でも完全に消えた、と分かったからこそ、こんな真似をしているわけです」

「あ・・・あ」

「だから、まだまだお楽しみが続くわけですよ。まぁ、貴方が楽しんでやったことです。立場は逆ですが是非楽しんでください」

 かつての彼女にない笑みを浮かべるサリナ。

 それを見て、現実を理解したレオンの心に亀裂が入る。混乱した身体はうまく言葉を出せず、涎を垂らしながらあうあうと口を動かすのがやっとだ。


(ひっ、嫌だ嫌だあんな痛いのもう嫌だ!なんでこいつらあんなひどいこと平気できるんだよ!?いかれてる!俺は勇者だぞ?魔王倒した勇者様だぞ!女抱きまくって何が悪いんだよ!糞みたいなザコいたぶって楽しんで何が悪いんだよ!もっと楽しいことたくさん待ってるのに!何でこんな目に合わなきゃいけないんだよぉお!!()()()()()()()()()()()()()()()、なんで酷い真似されなきゃいけないんだ!?能力とられたんだぞ!もういいじゃないか!なぁ?なんで、こんなにひどい目に遭わされなくちゃいけないんだよぉ!あの痛いの嫌だぁ!いやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!)


 レオンは常人には理解できない思考を巡らし、声なき悲鳴を上げ、抵抗するように束縛された体でじたばたする。しかし、予定は変わらない。レオンの地獄が、再開された。



 その数日後

「えへへへへへえへへぇぽくゆうしゃーだじょー」

 そこには回復魔法で体こそ普通だが、心が完全に壊れた勇者がいた。

 目の焦点は合わず、唾液、鼻水と体液を垂れ流し、髪は真っ白、顔は回復魔法で治らない程、苦痛と恐怖でひきつった歪みきっていた。醜く、理性も知性もなく小便も垂れ流しへらへら笑う姿に恋心を抱くものはもはや存在しないだろう。


 そのみじめな姿を見てようやく心の狂気が消え、落ち着いた彼女らはかつての家族・婚約者・恋人・想い人のところに戻ることとした。彼女たちの拷問以外の空いた時間は被害者同士、傷を慰め合い、癒しあい、支え合い、抱き合い、話し合っていたのだ。

「どれだけ傷ついても、傷つけた愛しい人のためにこの人生をかけて償う」

 それが話し合った彼女らの出した結論だった。


 その後の勇者については“剣神”ライラが、それについては自分が責任を持って二度と皆に迷惑をかけさせない、正気に戻っても生涯をかけて絶対に皆に関与しないよう、しっかり面倒を見ると皆に宣言。

 そしてライラの指導で「勇者は敗北にショックを受け、田舎に引っ込んだ」と周囲に喧伝し、この屋敷も家具も売りに出し、勇者パーティーの痕跡を整理した後は皆、贖罪のために散り散りに去って行った。


 皆が去り、唯一残った“剣神”ライラは

 拘束が解かれた後、レオンは「いっぎゃぁぁぁたしゅけへー!ぷっひぃぃっ」と素っ裸で猿のように部屋の隅に走り、凄まじい形相で手足を振り回すあまりにみじめな元勇者に無表情で一太刀を与え気絶させると、引きずって庭まで歩き、屋敷の庭に予め掘ってあった穴にそれを放り込んだ。

 呻く勇者レオンにライラは「あばよクソ野郎」と刀を一閃。


 あっさり勇者レオンはその命を失った。


 ライラは勇者レオンの異常性にもう気づいていた。こいつはきっと能力が無くとも、いつか、正気を取り戻しても、結局はまた似たようなことを繰り返すと。

 そして、そんな性格の男に万一何か奇跡が起き、勇者と洗脳スキルが戻ったらまた悲劇が生まれてしまう、と危惧した。

 故に自ら汚れ仕事を心に決め、行動に出た。

 皆にこれ以上、余計な罪と心の重荷を背負わせないためライラは生かして面倒を見続けると皆に嘘をついた。これを知るのはライラと協力を依頼した気丈な性格の、他の仲間2名のみである。

 そして、人知れず仕事を終え、罪を一人背負ったライラは、最後に勇者を残したまま穴を埋め、事情を知る仲間の残した呪符で穴の表面上の痕跡をきれいに消した。その最後の汚れ仕事を終えた後、自らもかつて愛し、傷つけた者への贖罪に向かった。


 勇者レオン。

 天から勇者と呼ばれる万能ともいえる才能を授かり、魔王を討伐した栄誉を持ち、数多の美女・美少女に愛され、輝かしい約束された人生を歩むはずの彼は、己の女達に拷問され、壊され、殺された。

 後に彼が眠る屋敷を購入した者達が何名かいたが、いずれもその庭に遺体があることに気づかなかった。こうして勇者レオンは誰にも惜しまれることなく、誰にも気づかれることなく、この世界から一切の存在を消失するという悲惨な末路を遂げた。



長めの補足:書き切れませんでしたが、レオンは勇者に選ばれる前から、人の努力や積み重ねや幸せを壊し、一気に絶望に染まる顔や姿を見るのが大好きな一種のサイコパスです。勇者の強さと魅了のスキルを持ってからはさらに歪み、文字通り悪趣味に走り始めます。


反面、自分自身はほとんどひどい目に合ったことがないので、精神は自分勝手で自己中心的な子ども並みに未熟です。最後は“道具”に自分がしてきたことをされて、未熟な精神故、人一倍絶望と恐怖を味わい壊れたという皮肉な結末となりました。

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