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12愛された者は開眼しました

こちらは本日2回目の投稿です。

前と話がつながってない。とお思いの方は一つ前の回をご覧下さい。

「エレナ?」

 疲労と苦痛で霞む眼で見るとそこには目に涙を浮かべ、必死な顔でこちらを見て叫ぶエレナがいた。

「シャル頑張って!その男をやっつけて!シャル負けないで!!」

 そういうと、仲間の呪術師らしき女性に掴みかかり、手に握る黒い宝石を取り上げ、あらぬ方向に放り投げた。その瞬間、俺の手足にまとわりつく不可視の重しが消えた。

「何すんのよ!」「エレナ狂ったの!?」周りの女性陣から怒声を浴びせられ、拘束される。乱暴な拘束に傷つき、苦悶の声をあげながらもエレナは俺に必死にエールを上げ続けていた。


「・・・なんでだよ?エレナの好感度はもう最高設定なのに」

 見ると呆然と何かつぶやいているレオン。設定?そうか・・・やはりエレナに何かしていたのか。


 すでに満身創痍の中、ゆらりと俺は黒剣を強く握る。

 その顔に何を見たのか勇者レオンの顔が思い切りひくついた。


「なんなんだよ?お前?僕は勇者だよ?」

 俺は無言で構える。もう余裕はないのだ。渾身の一撃で決める。


「・・・もういいよ!クソ雑魚!お遊びは終わりだ。これでもう終わらせる!」

 何が怖いのか、恐怖に顔を歪めた勇者レオンが剣に膨大な魔力を集中させる。


「ああ・・・もう諦めていたんだけどな」

 しかし、その明確な危機の前でも俺はうっすら笑っていた。


「はは、くそが!消えろや!!」

 勇者レオンが歪んだ笑みで魔力が集束した光る剣を思い切り振りかぶる。


(なんだかなぁ。俺、諦めたようにふるまったくせに、まだ心の底ではエレナのことが好きだったんだ。事情は分からないが、そのエレナが泣きながら負けないでと必死に応援してくれた。それだけで心が騒いでいる。なんだろう今なら負ける気がしない)

 刹那の思考の後に零斬りの構えに入る。


(だって、惚れた女が傷だらけの男を必死に応援してくれているのに、ここであっさり負けるなんて男として格好つかないよな!なあ相棒!)


 身体は苦痛と疲労のピークではあるが、心は燃えるように荒れつつも、水面のように恐ろしく静かという矛盾した境地に達していく。剣に纏いし魔力が0に限りなく近い鋭さと細さにまで研ぎ澄まされていく。気負っていた体から無駄な思考と力が消え、見えない芯が張り詰めてきたのがわかる。そして、無意識に相棒と呼んだ黒剣からは尋常ではない禍々しい妖気が滲んできた。


「ブレイブスラッシュ!!」

 勇者レオンの光る剣が振り下ろされ、怒涛の光が襲い掛かる。おそらく勇者の最大威力を持つであろう技。まともに喰らえばあっさり死ぬだろう。だがまるで恐怖はない。

 だって“見える”から。


 俺は迫る光の“筋”を見切った。そして、その先にある勇者の中にある“極点”を感じ取り、その点のむこう側を斬るイメージで、爆発的な力をこめつつも一切の無駄を排除した理想的ともいえる最小最短最速の動きで、限りなく薄く研ぎ澄まされた魔力を纏った相棒を一閃した。




 その時起きたことを完全に理解できるものは勇者レオンもエレナもハーレムメンバーも、観客達の中にもいなかった。

 唯一、理解できたのは時間・距離問わず特定の空間を観ることができる秘宝“遠見の神鏡”にて異世界よりその試合を見ていた師であるアルデリアのみである。彼女は口に笑みを浮かべて一言つぶやいた。


「見事」


 この秘剣こそ 零斬りの本来の姿であり完成系である“因業断ち”と呼ばれる技である。

 シャルに授けた黒剣はなまくらと言ったが、その正体は“屍山血河”と呼ばれる最高位の呪剣である。元は高名な鍛冶屋の傑作といわれた名剣だが、アルデリアが千以上の魔を斬り捨てることで呪剣に昇華されたもので、彼女の持つ数ある秘宝具の中でも指折りの逸品の一つ。

 零斬りは魔法・硬度問わず全てを断ちきるとシャルに説明したが、この“屍山血河”を始めとする最高位の魔剣や神剣の異能と合わせることで、相手の魂、因縁、概念、運命、次元が異なる存在ですら断ち切る“切断の概念そのもの”となり、すなわち“因業を断つもの”となる。

 今回のシャルの“因業断ち”は神殺しの境地ではなかったものの、勇者の意識とその歪んだ根を切り裂くには十分な威力を持っていた。


 黒い残照を残した、その“因業断ち”は凄まじい威力を誇るブレイブスラッシュをあっさり切り裂き霧散させ、それのみに止まらず射線上にあるレオンの身に纏う堅固な防御魔法を切り裂き、肉体を傷つけないままレオンの意識を断ち切り、その“奥”にある“何か”も切り裂いた。

 

 会場が沈黙する中、ブレイブスラッシュの光が完全に消えた後、一拍おいてレオンが白目をむいて崩れ去った。

 観客は意味が分からず沈黙していた。圧倒的な勇者が傍目にもわかる凄まじい一撃を放ったと思ったら、ボロボロの剣士が剣を振るや否や黒い一閃が勇者の凄まじい一撃が霧消し、何故か剣の間合いから少し離れた場所の勇者が崩れおちたのだから。


 しばしの静寂の後、勇者が負けたという事実が皆の心に染み渡った時、凄まじい大歓声が上がり、ようやくシャルの勝ち名乗りが挙げられた。



長らくかかったアクションパートは終了です。純粋なざまぁ好きな方はお待たせしました。ざまぁはもう少しです。



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― 新着の感想 ―
[一言] よっしゃリンチタイムや! まずは全身の骨を折るところからや!
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