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12/19

10死闘が開始されました

アクション突入です。

 そして、大会当日がやってきた。

 場所は王都にある大きな闘技場だ。参加者は数十名。いずれも腕に自信がある顔立ちをしている。見ると、あの憎き勇者もしれっと参加している。よかった、気まぐれ起こして、いなかったらどうしようかと思っていた。

 大会は1対1のトーナメント方式。

 トーナメント表を見ると、俺と勇者は反対のブロック。勇者と当たるのはどうやら、決勝戦になりそうだ。うぅん。とんとん拍子に舞台がセッティングされていくな。


 俺の初戦は一回戦第三試合。初戦の相手は斧を持った筋骨隆々の大男だ。凄い威圧感を放っている。

 俺は今更ながら緊張で唾をのむ。勝てるだろうか?師匠に鍛えてもらったこの力は本当に通用するのだろうか?勢い込んできたが、勇者以前にあっさり負けやしないだろうか?

 そんな不安をよそに俺の運命をかけた試合の初戦が始まった。


 結果をいうと圧勝だった。もう師匠に比べたら圧倒的遅さ。相手の大振りのところを一閃。首筋に刃を当てると、あっさり相手は降参した。

 その後俺は仮面かぶった爪男、女戦士、中年双剣士という強豪たちと闘うものの、次々撃破。順調に決勝までコマを進めた。昔の俺だったら、1・2回戦で敗退していただろう。

 だが、今は彼ら強豪と戦いつつも一歩も引けを取らず勝つことができた。ありがとうございます。師匠。


 で、当然、決勝の相手は勇者レオン。こいつも危なげなく勝ち抜いてきた。

 俺はその試合をすべて見学したが、ひどいものだ。

 たまに危険な部分はあるが、最後は一気に逆転、派手に圧倒的に戦い勝利しており、観客は盛り上がっている。

 しかし、俺の眼から見ればわかる。危険な部分はわざとだ。しかも本気ではない、わざとピンチになり、すぐに相手を嬲るように反撃し、勝てないと相手が心が折れはじめたら実力差を見せつけるように勝つ。誇りも敬意も一切ない。ただのお遊び。実に不愉快な闘い方だ。そのためか負けたみんなとても悔しそうな顔をしている。それを見てにやけた笑いをしている勇者レオン。

 ああ、嬉しいよ。変わらずむかつく奴で、性根が腐りきってるやつで、これなら思い切りたたき潰してやれる!


 決勝戦。名前を呼ばれ、石畳の上を歩いて、会場中央に歩いていくと、しばらくして大勢の観客から大歓声が上がる。勇者様のご登場だ。

 観客はすでに勇者の強さに酔いしれている。勝つのも勇者だと思っているのだろう。どうやって勝つかしか思っていないようだ。歓声の中には明らかに俺に同情する声も上がっている。

 見ると、応援席の一番前の特等席にあたりに美女達が大勢集まり、黄色い声を上げている。あいつらが例のハーレム軍団か。その中にはエレナもいた。エレナは俺に目も向けず、満面の笑みでクソ野郎の名前を叫んでいる。割り切ったつもりだが、ちょっと心が痛む。

 ああ、割り切ろう。とにかく、目の前のこいつだ。


「久しぶりだな」

 俺は勇者に声をかけたが、目の前の男はきょとんとしていた。

「ん?どこかであったかい?もしかして僕の彼女のお知り合いかい?」

 その顔は演技でもなんでもない。俺の主観では3年前だが、この世界、勇者の主観では3か月程しか経っていない。なのに覚えてすらもいない。

(あれほどのことをしたけど、覚えてもいないってか。わかっていたけどな。こいつのクズっぷりは)

 はっ、俺は薄く笑う。

「よかったよ。お前がそういうやつで。やりすぎても罪の意識を感じないしな」

「へぇぇ、格好いいじゃないか。頑張ってくれよ」

 クズ勇者はへらへらと笑っている。3年前と違うぞ。そのにやけ面を今度こそぼこぼこにして・・・この観衆と女達の前で受けた屈辱全部叩き返してやんよ!


 そこにゴーン!と試合開始のドラが鳴る

 かくて俺の全てをかけた死闘が開始された。




 開始の合図とともに、俺は猛ダッシュで仕掛ける。

「おおっと、ダブルスラッシュ!」

 一瞬、驚いたレオンだが、即座に高速の二連斬撃を放つ。これは戦士としては基本の技。だが、勇者の技量で放つとそれは必殺に昇華される。眼にもとまらぬ、そして大木すら切り落とさんとする威力の二連続攻撃。

 俺は何もできずに切られ、地に倒れ伏したりは・・・しなかった。その斬撃をきれいに弾き飛ばしたのだ。

 観客席からはおおっと歓声が上がる。

「へー、やるじゃないか。ちょっと面白くなってきたね」

 少し驚いた顔の勇者がにやけ顔をいやらしい笑顔に変える。

 作業から遊びに対応が変わった瞬間である。


「これはどうかな?サウザンドブレイド!」

 続いて無数の高速斬撃が俺を襲う。

 しかし、それを体捌きと肘と手首だけ動かすだけの軽く素早い斬撃で捌く。強力な技だが、あの師匠の地獄の組手に比べれば何ともない。あっという間にミンチになりかねない強力な連撃を見て、対処してきたのだ。この程度ならば問題ない!

 怒涛の剣撃を捌き切る。大技の後にできたわずかな隙に俺は返す剣で斬撃を放つ。

 だが、それはきぃんと勇者の纏う防護魔法によってあっさり弾かれた。

「残念だったねー。あいにく僕の体には高度な防御魔法が張られてるんだよ。でも削られたし、あと少し頑張れば突破できるかもしれないね」

 にっこり笑うクソ勇者。だが、俺は気づいていた。あれは頑張っても破れるものじゃない。自分は絶対の安全を確保しつつ、相手に希望を持たせ、必死な相手をいたぶり、最後は希望を砕いて圧倒的な強さで叩き伏せて、絶望の顔を笑うのがこいつのやり口。

(やはりこいつは顔以外は最低のクソ野郎だ!)

 改めて、怒りに燃え、攻撃を再開する。


 ぎん!ぎぎぃん!しきぃん!

 しばしの間高速の剣のやり取り、互角の戦いが続く。

 そして上がり続ける観客の歓声。あっさり倒されるかと思った無銘の男が、思いのほか健闘しているので、盛り上がっているのだろう。

 無数の結びあいの中、偶然にもレオンの強力な払い受けが入り、俺は思わず吹き飛んで体勢を崩す。そこにレオンが奥義を発動させた。 


「ウェポンブレイク!」


(やばい!?あれは武器破壊の奥義か!?)

 大振りなので、本来は簡単に避けられる。しかし、今俺は態勢を崩しているせいで、逃げられない。とは言え、受けたら剣が間違いなく破壊される。だが、生身で受けるなど論外である。武器破壊とはいえ、生身で受けたら、骨が粉砕される。

 数瞬の躊躇いの後、俺は仕方なく武器で防ぐことを選択し、がぎぃぃぃぃっぃんという凄まじい音と衝撃がさく裂した。腕の骨が折れるのではないかという衝撃だったが、その手に握られた黒剣は・・・


 無事だった。


「な!?」

 レオンも予想外だったのか、驚愕の表情をとり、軽く飛んで俺との距離をとる。

 俺はさっと、黒剣の様子を見たが、まったく傷が無い。

「・・・師匠ありがとうございます」

 なまくらだなどと師匠は言ったが、とんでもない。正体は不明だが、これは名剣のたぐいだ。勇者の、それも聖剣の武器破壊の技を無傷で防ぐなど、通常の武器ではありえない。

(相手が聖剣ということで武器破損を心配して、攻撃や防御は慎重にしたが、これならば無理しても破損の心配が無い。相手の行動も読め始めてきたし、後は一気に仕掛ける!)

 俺は剣を握り、師匠の教えを心中で復唱する。


(よいか?まず勇者との対決で避けるべきは長期戦じゃ)


(勇者のスペックは貴様のそれを遥かに凌ぐ。貴様を徹底的に鍛えたが、それでも本気の勇者相手では30秒が精々じゃろ)


(じゃが、その勇者という相手、勇者の力に頼り切った強者であって優秀な戦士ではないな。聞く限りじゃと遊び心が過ぎるようじゃ。おそらく最初は加減し、嬲り、刺激を楽しむような戦いをするじゃろうな。今の貴様ならばその程度ならば凌げるじゃろう。そしてこちらを雑魚と思いこみ、手を抜くその隙をついて零斬りを放て。だが時間をかけすぎると相手が飽きて一気に襲ってくるはずじゃ。隙探しに時間をかけすぎるな)


(そやつは自らの安全が確保しているから遊んでおる。万一の可能性があるとわかれば全力で来るぞ。溜め時間、射程を考えれば一発外せばもうチャンスはないものと思え。真の零斬りならばその心配はないが、今の貴様では使いこなせまい)


 再び襲いかかる勇者。俺は勇者の行動を先読みし、フェイントで空振りを誘発させて、俺は零斬りの体勢に入る。

(鋭くとがらせ、相手の中心を射抜くイメージで、切り裂く!よし、いける)

 練習で一番うまくいった時と同じ感覚だ・・・が、振りぬいた瞬間、突如手足に重い鉛が絡むような感覚が襲った。

「何だと!?」

 予想外の出来事に零斬りの速度は鈍り、勇者レオンの防具と防護魔法を斬り、胴体の薄皮一枚を斬るのみに終わった。だが、傷を負ったレオンは目を瞠り、慌てて飛びのいた。


 しかし俺はそれどころではない。

(なんだこれ?勇者の術か?一体いつしかけたんだ!?)

 そう、今なお、ずしりと手足に枷がかかったような重い感覚が俺を襲い続けていた。



 その頃、観客席に座るレオン専用ハーレムメンバーの中にいた黒髪の退廃的な美女が黒い水晶を握り、術を作動させていた。

「ちょっと、シャーリーさん何をしているんですか!?」

「ええ、勇者様が手こずっているようなので、呪術で支援を」

「そんなことしてレオンさんが怒るんじゃない?」

「大丈夫よ。これはあの人のためですもの。ふふふ」

 試合の邪魔をしてもレオンのためと言えば、皆は「それはそうね」と頷く。エレナもレオンさんのためならば仕方ないよね。と思い込んだが・・・それはおかしい、そう心の中でうずくような違和感があった。

 それは零斬りが勇者に掠った時に生まれたものだった。



 そして試合場では勇者の眼に鋭いものが混じっていた。

 自分がかすり傷とはいえ傷ついたことにしばし驚いていたレオンは次第に顔を歪ませ、

「君・・・防御無視の攻撃なんか持ってたのか。それは調子に乗るか。でもこれも残念。僕には耐久や生命力強化、ダメージ緩和に根性のスキルもあるからね。その程度の剣ならいくら当てても致命傷は免れるし、即座に回復もできるんだ。でも、まぁ、少し本気で行こうかな」

 すっと、勇者が傷口に手を当てるとかすり傷とはいえ血が滲んでいた胴体の傷はきれいに消えた。そして、眼から余裕の笑みが消え勇者の剣に魔力が集い、一閃。

 金色の斬撃が飛び、慌てて避けるが、謎の重みのせいでうまく回避できず肩に傷ができた。


 両手両足は謎の重みが、切り札の零斬りは外れ、警戒され、相手は接近戦を警戒し、相手の得意分野で叩く趣味を我慢して遠距離攻撃にシフト。しかも、先ほどより本気を出してきた。

 最悪の展開である。


 その時、俺の脳裏によぎったのは絶望ではない。強く美しい師匠の顔だ。あの人の地獄の特訓を思い出せば。まだ耐えられる。


「負けるかよ!」


 その決心を砕くように怒涛の攻撃が始まった。


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[一言] 援護ばれたら失墜やなやったぜ
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