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第74話 やっちゃいました?

「改めてダキスタリア守護兵団、第一大隊隊長のオリバーだ。今回は事件解決に多大なる貢献をしてくれて感謝している」


「俺からも感謝するッス!」


 オリバーとタナカが同時に感謝の礼をする。


 いや文句が言いたいわけじゃないんだけど、一応事件を解決したわけだし部隊長とタナカが代表ってちょっと……格が、ねえ?


「褒賞をくれる偉い人はどこにいるんです?」


 酔いの残ったフィーナが俺の意見を代弁する。いや褒賞目当てで来たわけじゃないんだけど。


「ダキスタリアを治める十衆長の一人、特にフィガロ殿は君たちに感謝の言葉を述べ面会をしたがっていたが、俺の方で断っておいた」


「なんでー!?」


「君たちがフェブラウ王族直属の冒険者だからだ。国際問題とまではならないだろうが、面倒なことになるのは明らかだからな」


 う。俺たちの素性が全部バレてる。


 まあ他国の王族関係者が「パンドラ」絡みとはいえ介入して来たら嫌だよなあ。


「ふーん。所属を理由に褒賞をケチろうってわけですか。ケチ。ケチです」


「君たちは本来の雇い主から得るものを得ているだろう? それに君たちは身分を偽って入国してきたということを忘れないことだ。武功でそれがうやむやになったということもな」


 おっしゃる通りです……。


 だがそんなド正論にも狂犬フィーナは食ってかかる。


「それとこれとは話が別ですー! あなたたちで解決できなかったから外国人が出張って来ることになったんですー!」


「だからそのことについては十分感謝している。それに守護兵団からの礼の品がないわけではない」


「なんだー! 話せばわかるじゃないですかー! それで礼の品ってなんです?」


 いくらフィーナとはいえ……これはダメだ。


「モニカさん【麻痺】(パラライズ)をお願いします。こいつを黙らせないと」


 ビシィ!


「あうっ」


 モニカの鋭いチョップがフィーナの首筋を打ち、フィーナはそのまま気絶した。


「いやそうじゃなくて【麻痺】(パラライズ)を……」


「すみません~それは習得していなくって」


 だから首チョップ? そっちの方が習得難しくない?


「……話を続けてもいいだろうか?」


「はいお願いします」


 お見苦しいところをお見せしました。


「礼の品とはこの刀だ。銘こそないが確かに霊剣の域まで達した逸品で『冒険王』トドロキ・ケンジが所持していた品だ」


 そんな「冒険王」の所持品なんてとてつもない価値が付くんじゃないか?


「なんでそんな貴重な物を俺たちに……?」


「それは誰もこの剣を鞘から抜けないからッスよ!」


 タナカが横から口を挟むとオリバーの表情が引きつる。


「確かに霊剣かそれ以上の神秘が宿った名刀ッスけど、刀身の確認もできないんじゃ観賞用にもならないッス! だから守護兵団でも持て余してたッスよ!」


「丁寧な説明ありがとう。タナカ」


 苦々しい表情でオリバーがタナカに告げる。


 わかるよー。制御できない部下というか仲間がいるその感覚は。


「正直な話、守護兵団も転移者の能力を頼りにした少数精鋭の義勇軍という性質上、あまり豊かな組織ではないのだよ。だからこのようなものしか用意できなかった。すまないな」


「ひいじ……『冒険王』が使ってた品なんて感無量だよ。それにしてもなんで抜け……抜けたんだけど」


 オリバーとタナカは目を丸くして驚く。


 異世界に来てから今まで言ってみたかったセリフがあるんだよな。それを言う絶好のチャンス!


「何かやっちゃいました?」


「やってるッス!」


「おう! お前が次のご主人か……ってなんだここは? 俺が眠る前は一面の荒れ地じゃなかったか?」


 飛び出してきたのは俺よりちょい下の高校生ほどの男子……の姿のおそらく守護精霊。多分旧日本軍のものだろうけど着込んだ軍服が特徴的だ。


「俺、辰切丸(たつぎりまる)! よろしくなー兄ちゃん!」


「よ、よろしく……」


 珍しく頓狂な名前じゃない刀だ。


 そしてよくわからんが、ひいじいちゃんの愛刀を手に入れてしまった。


「なんだ。まあ、我々としても想定外だが気に入ってくれれば幸いだ。話がかなり逸れたが、我々の調査結果を聞いていって欲しい。『パンドラ』と戦う上での参考になるだろう」


 そうだった。そういえばそれが目的でここまで来たんだった。一度辰切丸(たつぎりまる)を収める。


「ここからそう離れていない山奥に大穴が空いているのが発見された。スキルの力でやっと降りられるほどの深さだ。そしてタナカの証言にあった監獄『アバドン』と大きさの辻褄が合う。つまり君たち転移者はこの港町と目と鼻の先にある地下に閉じ込められていたというわけだ」


 脱出間際に最下層の小部屋が潰れたのは「アバドン」そのものをぺしゃんこにして物的証拠を残さないためか。そして穴だけが残ったと。


 それにしてもあれだけの大きさの監獄を一人で管理し運営するノナの実力は相当なものだ。めちゃくちゃアナログな方法で鍵を突破されてたけど。


 でも守護兵団だって行方不明者の探知をしていたはずだ。そういったものからも逃れていたとなるとやっぱり末恐ろしい女の子だな。


「こういうタイプの魔術は一度取り込まれると術者を倒すか、術者の意思でない限り脱出することは困難だ。この一件で術者と縁ができてしまったとなると、今後はあまり単独行動はしないほうがいい。何がきっかけで転移させられるかわからないからな」


 縁ねえ。できちゃったかもなあ。何か気に入られてたし。


「以上が報告と忠告だ。俺はこれから十衆長の呼び出しがあってな。どうせ報告するのは同じ内容だが」


 偉い人より先に俺たちに報告してくれたの? なんか誠意みたいなものを感じてしまうな。


 フィーナが散々文句言ってすまんかった。あと俺の心の中でも。


 そして忙しそうにオリバーは部下を連れて司令部を去ろうとする。


「忠告ありがとう。よくわからないけどこの刀は大切にするよ」


「してくれよなー! 新ご主人!」


 EX狩刃(エクスカリバー)よりグイグイくるタイプだな。この守護精霊は。


「後は俺に任せるッスー!」


「やだなあ」


 俺は次の目的地がドワーフの隠れ里だということをタナカに伝え、情報通のところに案内してもらうことになったのだった。

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