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第43話 一猫去ってまた一猫

 気が付くと俺は鎧のままベッドの上にいた。


「夢……?」


 丸々とした二頭身の猫にどつき回される夢。いや夢じゃない。夢じゃないって。


 気絶から回復するとすぐさま次の一撃で気絶させられる地獄。


 しかしどうやって俺は気絶ループから解放されたんだ……?


「あらあら~。お目覚めですか~? 何とか一命を取り留めましたね~」


 ヨハンナの声。つまり俺は治療を受けていたということか?


「もしかして俺、半殺しになるまでぶん殴られてた?」


 俺の「健康体」スキルが発動せず、気絶したままだったということは大怪我をしたということだ。このスキルに治癒能力はない。


「まあ八割殺しくらいですかね。でも持ち前のスキルのおかげで後遺症も残らずに済んでよかったです~」


 どれだけやられたんだよ。しかも「健康体」スキルがなければ後遺症が残るレベルって。


「あのクソ猫……あれは一体何なんだよ?」


「グルースレーの衛兵隊長のポコ。おつむはパーですけど実力はあなたが実感した通りです。実は『月下の光刃』元メンバーなんですよ~」


 えええ? 「月下の光刃」元メンバーってことはあれでAランク冒険者なの?


 猫の冒険者っているんだ……いるわけねえだろ!


「いつまでも休んでもらっていては困りますよ~。謎の鎧の猛攻はまだ続いています。ポコは精鋭部隊と深入りし過ぎて行方不明。ガストンは冒険者たちと住民の避難を行っています。それでは戦えるようになったらすぐに出立してください~。あなたのお仲間が必死で戦っていますので~」


「妨害の魔法は使えないのか? 森でやってみせたやつ」


「あれは一時的にしか作用しないんです~。ではいってらっしゃ~い」


 すかさず目の前にワープホールが開かれた。容赦ねえなあ。でもみんなを放っておくわけにはいかない。ゆっくりと立ち上がり手足の感覚を確かめる。


「ありがとう。ヨハンナ! 大体察して来たけどあんたも『月下の光刃』元メンバーだよな? 飼い猫の教育はしっかりと願いたいね!」


「あらあら~。見抜かれていましたか~?」


 礼と嫌味を言い残してワープホールに飛び込む。


 にこやかに手を振るヨハンナ。


 だってヨハンナ含めて一連の流れで見たAランク冒険者ってどっかおかしいし、お互いにツッコもうともしないし。もう同類だと考えるのが自然だろ。




 転移の際のめまいにもいい加減慣れた。すぐに目を開けるとそこは街のど真ん中。


 目の前には覇者の鎧……の亜種。闘士の鎧と呼ばれていた代物だ。


EX狩刃(エクスカリバー)!」


 毒液マックスで振り抜き即座に一体真っ二つにする。


「なんだこりゃあ!?」


 石畳が敷かれた道路を埋め尽くさんばかりに闘士の鎧がうごめいている。前は精々三、四体程度だったろ!?


「フフ、あなたのEX狩刃(エクスカリバー)の毒を解析してみましたが、対策をするより数を増やした方が話が早いという結論に至りましたので。数の多さに驚きましたか? ただ『目の前の敵と戦え』というだけの命令だけならこの程度、いくらでも」


「リュカ、お前のひねくれた性格はわかってる。当然前回の動きから見て嘘があるってことも。例えば……数の話とか」


 一瞬「パンドラ」が「キャンプ」と呼んでいた洞窟のことが頭をよぎり、剣を握る手に力がこもるが何とか抑える。冷静に、冷静にだ。策士気取りなら策に溺れさせてやる。


「森の鎧、次々と撃破された鎧、今街に溢れている鎧。それを全部同時に制御できているとは思えないな。なんたって前回は三体であたふたしてたじゃないか。実は今動いている数が精一杯。鎧が壊れるごとに追加を転移させているだけじゃないか? いつ在庫が切れるか焦ってたりしてな」


 鎧を斬り捨てながら半分推測、半分妄想のでっち上げをぶつけてみる。外しても状況は変わらないし、当たったらムキになったリュカの敵意が俺に向くかもしれない。そうすれば時間が稼げる。


「それがどうしました? 僕が制御できる人形の数よりも目の前の状況を心配してみては?」


 グルースレーの城に向かって進軍していた鎧の軍勢が足を止め、次々と俺に向かってくる。


 道の幅からして俺を足止めしながらそのまま進めるはずなのに、俺を包囲し次々と斬りかかってくる。案外図星だったのか?


「いなくなったと思ったらあんなところに固まってるわ! 吹っ飛べ!」


 聞き慣れたエミリーの命令呪文。意図せぬ不意打ちに俺も転んでしまう。鎧たちも次々と倒れ、吹き飛ばされる。


 もうちょっと状況を見てからぶっぱしてくんない?


「モニカ! 【加速】(アクセラレーション)!」


 フィーナの詠唱で急加速したモニカがその勢いを利用してメイスで鎧をひしゃげさせる。


 フィーナもフィーナで妨害魔法だけじゃなくて補助魔法も使えたのか。攻撃魔法が使えないところと性格以外は頼りになるんだけどなあ。


 モニカについて今さら言うことは何もありません。そうだ。今度メイスを新調してあげよう。


「ケントがやられるわ! モニカ! 援護して!」


 エミリーの指示が飛ぶ。今にも闘士の鎧の一つに剣を突き立てられようとしている俺。俺のことひっくり返したの君だからね?


【聖閃】(ホーリーレイ)!」


 聖なる光が鎧を貫く。そのまま【聖閃】(ホーリーレイ)の連撃でモニカは鎧の数を減らしていく。そういえば本業はそっちでしたね。シスターさん。


「フン! 何の鎧だか知らないけどこの天才魔法少女のエミリー様が考案した対鎧魔法を味わいなさい! 弾けろ!」


 待てよ。俺は? 俺が弾けたらどうすんの。


 闘士の鎧の接合部が次々と破壊され文字通り鎧の手足が弾けた。俺は無様にゴロゴロと石畳を転がり攻撃範囲から逃れていたのでセーフ。


 見た限りほとんどの鎧を破壊できたように見えた。リュカの野郎がどんな顔をしてるか知らないが吠え面が目に浮かぶようだぜ。


「ケント! 無事だったんですね! 猫にボコられ続けて動かなくなった時はどうなるかと思いましたけど。ヨハンナさんがケントを転移で連れて行った後しばらく戦っていましたが、急に鎧がいなくなって……」


「そうそう! 急に転移したのかと思ったらアンタのところだったのね! 街のそこかしこを襲って大群がいるように見せかけて随時転移させていたと見たわ!!」


「みんな無事でよかっ……ん?」


「うりゃああああああ! 打ち漏らし発見!」


 脳天をかち割られるような痛みと共にクソ猫の叫び声が聞こえる。


 薄れゆく景色の中で例の猫が部下を置いて街の外周を一周してきたことを理解したのだった。


「な……んで?」


 二度目の敗北。俺は再び意識を失った。

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