第42話 ポコちゃん参上!
リュカが「肉入り」と呼んだ人質入りの操り鎧。
どれがそれがわからない現状、そこに容赦なく毒剣を叩き込むことはできない。
どう立ち回ればいいか、ガストンの戦い方を参考にしようとした瞬間。
「ぬゥン!!」
ガストンが片手で持った大斧で覇者の鎧の一体を真っ二つにした。マジ?
「何してる、新入り! 中身が入ってりゃ刃を引っ込める! なかったらそのまま振り抜け!」
当てずっぽうでとりあえず斧で叩いてみてるってことかよ。脳筋過ぎんか。
仲間の様子を見るとフィーナは鎧から逃げ回りながら【麻痺】で、エミリーは命令魔法で中の人間の動きを止め「肉入り」鎧を顕在化させている。
(それだったら!)
それでも動きの鈍らない鎧に毒を注ぎ込んだEX狩刃で斬りつける。
おそらく中身がない鎧。万が一に備えて毒の出力は抑え気味に装甲を溶かしていく。
だがその手加減する俺に自動操縦の鎧は容赦なく剣を振り下ろす。こっちには勇者の鎧がある。多少のダメージは覚悟の上だ。嫌だけどな!
だが次の瞬間。鎧の剣は宙を舞う。モニカのメイスが籠手ごとぶん殴り剣を弾き飛ばしたからだ。
ナイス! 骨折程度なら後で治してあげればいい! ……俺は例の司祭に毒されているのか?
「腕、痛かったらごめんなさい! 治しますので!」
「サンキュー、モニカ! だけど多分こいつは空っぽだ!」
EX狩刃の毒が内部の空洞を露わにする。俺は毒の出力を最大にし、思い切り振り抜く。
真っ二つになる覇者の鎧。
「フィーナ! エミリー! お前たちは片っ端から中の人間を無力化しろ! 中身が重しになって無人の鎧の見分けが付く! モニカは可能な限りそいつらの武装解除してくれ!」
だがいくら壊しても無人の鎧は湧き出てくるようにその数が減ることはない。それに「肉入り」鎧の剣をいくら取り上げても操られた彼らは拳一つで襲い掛かってくる。
動きが緩慢なため避けるのは簡単だが、鎧だけ無力化する術がない以上無人鎧を相手取りながら回避に専念するしかない。
「面白い対処法を思いつきますね。ではこれはどうでしょう?」
リュカの声と共に鎧たちが一斉に剣を捨てる。動きも「肉入り」と無人の鎧の判別ができなくなるほど調整されてしまったようだ。
「これどうすんですか! ケント!」
「俺が聞きたい! ガストンはどうしてる!?」
周囲を見回すとガストンは三体の鎧に囲まれている。次々と繰り出される鎧たちの攻撃。
「どうです? 出力を調整したこの対Aランク覇者の鎧は?」
「別にどうもしねえ」
一斉に三体の鎧が剣による突きを繰り出す。だがガストンはそれを避けるわけでもなく、防御することもなく全て身体で受け止めた。弾かれ、折れる鎧たちの剣。マジ?
「ふゥん!」
ガストンが両手の斧を一回転して振り抜くと、三体の鎧は全て胴から真っ二つになった。
「Aランク冒険者というものを少し甘く見ていました。残念です」
本当に残念なのかわからないリュカの声。そして真っ二つになっても足を掴もうとする鎧の上半身を踏みつぶしガストンはこちらに歩み寄ってくる。
「中身入りかどうかわからない! アンタならどうする!?」
「どうもこうもねえ。敵の底は知れた」
ガストンは非武装にした鎧の拳を受けながら、兜をむしり取った。
「一撃受けてみりゃあいい」
いやあ。毎回覇者の鎧の拳を受けるのは勇者の鎧でもちょっと……ねえ? どうなってるのこの人。
するとガストンは鎧の首元を掴むと雄叫びを上げながら腰の辺りまで覇者の鎧を真っ二つにしてしまった。だからどういうこったよ。
「【妨害】」
突然その場にいなかったヨハンナの声がすると、次々と覇者の鎧たちが崩れ落ちていく。
「勝手に俺の身体を媒介にして魔術を使うな。ヨハンナ」
「火急の用件にて悪しからず~。それにガストン、あなた魔力を使わないでしょう?」
俺たちの意識に直接語りかけるヨハンナの声。
「似た鎧がグルースレーの街に多数発生しています~。今はポコと衛兵部隊で対処し切れていますが、これ以上増えると収集がつきません。ワープホールを開くので戻ってきていただけませんか~?」
「時間を稼がれたな。『パンドラ』のクソども、俺が街を離れるのを待っていたらしい」
目の前にワープホールが複数出現する。俺たちの分もあるみたいだ。
「後輩たちに甘いのは結構ですけど~。それで隙を作ってちゃあ世話ないんです~」
ガストンは急いでワープホールに飛び込む。
逆にそのワープホールから救助の人員が派遣されてくる。
それを見た俺はパーティメンバーの無事を確認しつつ、意思統一を図る。
「何が何だかよくわからん! けど街でこいつらが暴れてるなら止めるべきだ! 何でかってあいつらはクソムカつくからだ!」
思いの丈を吠える俺。みんなもあいつらと戦う意思は同じはず。
理由は全然違うと思うけど!
「絶対にタダ働きにはしませんからね。領主のフレデリックとやらからふんだくりますよ!」
いつも通り。どんな時でも平常運転のフィーナ。
「困った民に手を差し伸べるのが聖職者の仕事……やりましょう! 戦いは不慣れですが!」
嘘だあ。いつもちょっと引くくらい手慣れてる割りに謙遜が激しいモニカ。
「まあギルドの出張所が壊されたらキメラ分の貢献度も稼げないわけだし、しょうがないんじゃないかしら」
こちらもいつも通り。自身の出世が第一のエミリー。
フィーナ、モニカ、エミリーが思い思いの意見を口に出した。
「全員賛成ってことでいいな! 飛び込むぞ!」
ワープホールに飛び込む俺たち「健康剣豪大冒険団」……やっぱり別の名前がよかったかも。
目の前に広がるのは覇者の鎧を数で圧倒し制圧していく衛兵たち。対帝国の要衝と呼ばれるだけあって兵士の質も高いらしい。
「おい」
子どもの声と共に下方から空気を裂く突きが俺を襲う。すかさずEX狩刃に迎撃させるが弾かれてしまう。何とか軌道を逸らせたが、今度は何だ!?
目の前に突き出された物体を見て俺は目を疑った。木の棒? 木の棒にEX狩刃が負けるの?
「お前こいつらの親玉だろ。だって特別っぽい鎧だから。ポコちゃんにはわかる。ポコちゃんかしこい」
棒の持ち主は……ああ、めまいがする。
足元に二足歩行のトラ猫がいた。三十センチくらいの。二頭身のぬいぐるみのような生物が、その体に不釣り合いな長さの木の棒を手にしている。
丸っこい体にはピンク色のマントが、同じくまん丸の顔は俺をにらみつけている。
リュカが操ってるぬいぐるみとかじゃないよね?
「ポコちゃんにかかってくるとはいい度胸だ。血肉はらわた祭りにしてやるぞ」
かかってきたのはそちらさんでしょうが!? ついでに繰り出された鋭い突きをすかさず弾き返す。こいつは敵なの? 味方なの?
「やめろポコ! そいつらはギルドの新人だ!」
ガストンの声。これで辛うじてこの生き物が味方側であることがわかった。襲われてるけど。
「うるさい! 衛兵隊長ポコちゃんの手柄になれ! 声出せ家来!」
「ポコちゃん参上! ポコちゃん最強! ポコちゃん参上! ポコちゃん最強!」
衛兵たちが一斉に叫び出す。何これ。
呆気に取られていると繰り出された突きが兜に直撃し俺は意識を失った。




