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第41話 グルースレーの兄貴分

長く放置してしまってすみませんでした! 今後は体調に気を付けつつやっていきます。引き続きよろしくお願いいたします。

 俺たちとキメラの戦いを見ていた男がいた。


 ギルド出張所で散々俺たちに突っかかってきた大男、ガストンだった。


 まさかこいつ……「パンドラ」の一員じゃないだろうな?


「……見事だな」


 そんなこと言いつつ不意打ちでもする気だったんじゃないか?


「すまんが実力を試させてもらった。だがお前らがそうすべき対象だったことは理解しろ」


 やっぱりな。俺たちのスキルを見極めてあの行き倒れてたB6ランクの冒険者みたいに始末するつもりだったんだろ。


「俺一人で倒せない魔物ではなかったが、新入りがあいつ相手にどう立ち回るか見ておきたかったところもあるしな」


 なるほどな。スキルそのものだけではなく、俺たちを相手取る上でどういった戦い方をするか確認したかったと。


 やはりこの男、ただのBランク冒険者じゃない。実力を隠してギルドでスキル狩りをしてたってわけだ。


「みんな構えろ!」


「待て、どうしてそうなる」


 え? 今にも戦いだしそうなこと言ってたじゃん。実力を試したとかなんとか。


「俺たちのスキルを奪いに来たんだろ? だからわざと俺たちを依頼を受けるように煽った。そうじゃないのか!?」


「……違う。なんというか、お前が想像以上に煽られやすかっただけだ。別に俺は依頼を受けろとは言っていない。帰れとは言ったがな。スキルの奪い方も知らん」


 え? 言ってなかったっけ? だって「死んで来い」って……ああ、それは俺が依頼を受けた後か。じゃあそうするとこのデカブツは何をしに来たわけ?


「じゃあ何か? 俺たちのことが心配でそこで見守ってたと? 冒険者が死んだばかりのこの森で? アホか」


「そうだが? 冒険者が死んだばかりだからこそだ。おそらくキメラによってではなく、人間の手によってな」


 頭が混乱してきた。逆? 俺たちのことを見張ってたのはスキルを狩る好機を伺ってたんじゃなくて「パンドラ」から俺たちを守るため?


「な……なんで冒険者がギルドで『パンドラ』に目を光らせてんだよ! あんなの冒険者一組でどうにかなる相手じゃないだろ!」


「『パンドラ』のことも知っているのか。只者ではないな……さっきうちの『ベルセルク』のアホどもが失礼なことを言った。B10ランクでもお前たちは十分な実力を持っている。俺もお前たちを見くびっていたことを詫びよう。そして答えだ。お前の言う通り俺は領主フレデリックの命によって冒険者ギルドから『パンドラ』の情報を探って……」


「ああー!!」


 ガストンの説明を遮ってエミリーが絶叫する。うるっさ。鳥が一斉に飛び立った。


「ああ! 思い出したわ! こいつさっきはB3ランクとか言ってたけどAランク冒険者よ! なーにが『ベルセルク』よ! 本当は『月下の光刃』のガストンでしょうが! 万年Bランクがいくらでもいるこの世界でAランクに上がれたことがどれほどのことか自分が一番知ってんでしょうが!? なーに勝手に解散してB3ランク何かに甘んじてんのよ!?」


 あのー「げっかのこうじん」ってなんですか? 有名人? 一人で盛り上がらないでください。あとフィーナが飽きてモニカを虫でいじめ始めたので簡潔に。


「だから言っただろう。俺は冒険者の側から『パンドラ』を探っているんだ。『月下の光刃』を解散したのにもそれなりの理由がある」


 もう訳がわからんので一々口を挟まずにガストンの話を聞くことにした。ガストンはこの街の領主に雇われたヨハンナと同じタイプのAランク冒険者らしい。


 俺たちを最初出張所から追い出そうとしたのは俺が稀にいる金でランクを買った金持ち……つまり雇ったパーティに引っ付いてランクを上げたバカだと思ったかららしい。ひどい。


 そして表向きは後進の育成ということでB3ランクパーティ「ベルセルク」のリーダーをしつつ冒険者ギルドで「パンドラ」に通じているような人物がいないか目を光らせているとか。なんで弟分が全員あんなガラの悪い感じなんだよ。


 そして死んだB6ランクのこともあり俺たちのことが心配で付いてきたらしい。出張所での役回りの上での言動だったが煽り過ぎたのは反省しているとか。俺も言い過ぎました。ごめんなさい。


「しかし、なんでその『月下の光刃』を解散しちゃったんだ? Aランクパーティだったら半端な『パンドラ』相手なら敵なしだろ」


「逆だ。Aランクがパーティ単位で動いたら敵に警戒される。俺たちからしても苦渋の決断だったが、全ては復讐のためだ」


「復讐……」


 その言葉を発した瞬間ガストンの目は怒りに燃えた。それ以上聞き取れる空気ではない。


「それで? 『パンドラ』のことを知っているお前たちは何者なんだ? いい加減お前たちの番だろう」


 どこまで言っていいものか。でも相手はAランク冒険者だしなあ。ごまかしたらすぐ見破られそう。まあガストンがそこまで教えてくれたんだししょうがない。言うか。


「俺たちは王女エリーゼの依頼でここまで来たんだよ。この街に『パンドラ』が食い込んでるってな。先に潜入してるやつがいるとは知らなかったけど」


「バカを言うな。城内はヨハンナ。衛兵部隊はポコ。冒険者ギルドは俺の管轄だ。むしろ帝国に通ずる『ヘレシー』の拠点を叩く案があるくらいだぞ。どこに奴らが食い込む隙がある」


 そうなの? でもジュリアンが名指しで挙げた重要都市の一つだしなあ。でも対帝国の要衝とも聞くしガストンの言うことも否定できない。


 でも領主自らAランク冒険者を雇って対策をしているとは思ってもいなかった。


「隙? そんなものいくらでも作れますよ。自分で言うには嫌な例えですが、ネズミはどこからでも入り込みますからねえ」


 突然森に聞いたことのある声が響く。タマどころか実体のない鎧野郎、リュカの声だ。


 勇者の鎧が複数の魔力反応を検知する。眼前には覇者の鎧。どうやら話し込んでいる間にいつの間にか囲まれていたようだ。


「出たなクズ鉄野郎! 鎧を何体連れてこようとお前に勝ち目なんかねえぞ! そんなもん毒沼で……」


「まあまあ。挨拶代わりです。ほら見てください」


 リュカの鎧のうちの一体が鎧の兜を外す。そこに入っているのは鎧の中に俺にコップを投げつけてきたガストンの弟分。


「テメエ!」


 リュカは人質を取ることで毒沼の対策をしたみたいだ。ド外道め。


「さてさて。この肉入り鎧を用意するのには手間がかかりました……では、始め!」 


 一斉に鎧が接近を始める。


「グルースレーの住民。しかも俺の弟分にちょっかい出すとは……楽に死ねると思うなよ?」


 ガストンが両手の指を大きく鳴らし、背中の斧に手を伸ばした。

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