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第39話 冷遇!グルースレー!

 いきなり中身入りコップを兜にぶつけられるというご挨拶に流石の俺も黙ってはいられない。


「グルースレーってのは礼儀知らずの街らしいな!」


「あの程度避けられねえひよっこに礼儀なんざ必要ねえなあ! 女連れのボンボンが! パパに買ってもらった鎧か?」


 出張所内が爆笑の渦に包まれる。受付嬢はばつが悪そうに目を伏せている。バッドホームな職場だねえ。


「かと言ってギルドの備品を投げるのは関心しないな。返してやるよ!」


 誰が投げてきたかはわからなかったが、勇者の鎧アイで飛んできた方向を割りだし勇者の鎧アームで極限にまで高めた投擲力で木のコップをぶん投げた。


 金属の兜に直撃したスコーンという小気味のいい音と共にテーブルに座った男たちのうち一人が椅子から崩れ落ちる。


「テメエ!」


「やる気か、コラァ!」


 声の聞こえる先からはガラの悪い冒険者たち。だが対「ヘレシー」戦に駆り出された冒険者たちよりも弱そうだ。下手したらハゲよりも格下か?


 そんなやつらがなんでそこまでイキってるんだと一瞬思ったが、考えるよりも先に理解できた。


 ざっと見ただけで二メートル超えの大男が立ち上がったのだ。気絶したやつと同じパーティーか。


「ここらの冒険者でまだ俺らに歯向かう羽虫がいたとはなあ。さては新入りか? 悪いがここはガキの遊び場じゃねえんだ」


 男は大斧を二本背負っている。普通の戦士が両手で振り回すような代物を片手で扱うのか、このデカブツ。


「悪いが俺たちはBランクパーティーだ。ここに入る権利くらいあると思うが」


「Bのいくつだ?」


「……B10」


 再び爆笑の渦。Aランク以上は領主とか国のところに就職しちゃうから実質現場じゃBランクが偉いんじゃないのかよ!?


「ちょっとケント! あんた知らないの? 危険地域や大都市の現場はBランクパーティが多いの! ってことはBランクの序列はより厳しくなるってことなのよ! なにB10ランクなんかで粋がってるの! このバカリーダー!」


 そうなの!? でも確かにAランク冒険者が現場を離れるとなると、残ったBランク冒険者内の序列で上下関係が生まれるよな。ってことはこいつのランクは……!?


「そんなことも知らねえのか? ランクを金で買ったんじゃねえだろうなあ!?」


「女連れでチャラチャラしやがって! 冒険者はそんなに甘くねえんだよ!」


 大男は片手で背後を制する。すると出張所内は一瞬で静まり返る。


「よく知ってるじゃねえかお嬢ちゃん。顔にでも傷が出来たら大変だぜ。すぐに引退するんだな」


「レディーに話しかける時は目線を合わせるものよ。跪きなさい!」


「バカ! 何やって……」


 エミリーの命令魔法だ。この大男はこの出張所を支配するほどの力を持っている。そんなやつを怒らせたら……どうなるんだ!?


「なるほど。性格は冒険者向きか? 長生きはできなさそうだがな」


 効いてない? 勇者の鎧でやっと耐えられるあの命令魔法に対して微動だにしていない。これでまだAランクじゃないっていうのか?


「その白鎧。お前がリーダーならさっさと失せろ。グルースレーで冒険者としてやっていくのはお遊びで出来ることじゃねえんだ」


「……」


「二度とツラ見せんな。甘ちゃん騎士ごっこはよそでやんな」


 一方的な言い分に頭に来た。


 俺は踵を返し出張所の外に出る。急な俺の行動にフィーナもエミリーも反応できない。


 既にモニカは外で待機していた。フィーナもアレだがこのシスターもなあ。


 それはさておき、俺はさらに振り向き出張所のドアを開けた。


「よう。これで二度目だな。二回ツラを見せるとどうなるんだ?」


「俺の忠告が理解できなかったようだな? B3ランクパーティ『ベルセルク』のガストンにどうしても喧嘩を売りたいわけだ」


「どうもこうもない。数字にとらわれない本当の実力ってもんをお前らに証明してやるんだよ。ここで一番貢献度の高い依頼は?」


 出張所がざわつく。どうやらここにもガレセアの「ランドタートル」のような存在がいるようだ。


「西の森のキメラです。でもこの間依頼を受けられたB6ランクの方は帰って来られませんしB10ランクの方々では……」


 ここから西の森っていうってなると俺たちが来た方向か?


 死んでたB6ランクっていうのは来る途中で見たスキルを奪われたやつだ。


 まさか「パンドラ」は依頼のキメラで釣った冒険者のスキルを奪ってるんじゃないだろうな? 二重の意味でその依頼に乗る必要がある。


「わかった。受けようか、その依頼」


「本当に危険なんですよ! 今話した通りB6ランクでも依頼を達成できなかったんです! それをB10ランクでは……」


 大男ガストンが鋭く受付嬢をにらみつけ、それ以上の情報提供を阻止する。


「『本当の実力』を試すなら事前情報は必要ない。そうだな?」


「上等だ。乗ってやるよ!」


「何言ってんですかケント! 今からでも謝る……のは癪ですけど、どうにか場をおさめないと! ほらユーステス! あいつの名前を出せばどうにかなるって話じゃないですか!」


 やべえ。興奮してキメラ討伐に乗り気になってしまったがユーステスの名前を出せばよかったのか。あいつ領主かなんかの息子だろ? 今さらだけどネームバリューで冒険者程度……どうにかなるだろ!


「……ユーステスだあ?」


 ならなそう!


「お前ら、あの領主のクソ息子の仲間か。跡継ぎになりたくないだの騒いで飛び出した挙句戻ってきたのか。恥を知れってんだ」


 フィーナは失言をしたことにあわあわしている。


 エミリーは生身の人間相手に命令魔法が効かなかったことにショックを受けている。


 ならば俺が決断を下さなければならない。


「恥を知るのはお前らの方だ。お前らだってB10ランクの時はあったはずだろ。それを何だ。追い抜かれるのが怖いのなら素直にそう言えよ! デカブツ! お前らのビビッてるキメラは俺たちが討伐する。それにユーステスは強いぜ。有象無象にそう言われるのを覚悟で帰ってきたってことだろ!」


「そこまで言うか。なら死んで来い。おい、グルースレーの登録証を発行してやれ。キメラに食い散らかされても判別が付くようにな」


 ガストンに言われ慌てて受付嬢が登録作業を始める。




 自分でしておいて何だが、大変なことになった。


 冒険者ギルド出張所の顔役と喧嘩し、現状一番危険な依頼と思われるキメラの討伐をしなければならない。外のモニカが聞いたら卒倒しそうだ。


 無論。登録証の作成という目的は達成できたが、現状ではまともに冒険者として活動できないし、ユーステスの顔だって立たない。


 かくして俺は卒倒したモニカを「健康体」スキルで治療しながら、元来た森に戻る準備を始めるのだった。

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