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第34話 YO☆BA☆I~!

 エリーゼ軍の部隊長レベルの位階になると作戦の目的が『ヘレシー』拠点の襲撃ではないことを知っていたらしい。


 だが俺たち冒険者枠が拠点を守る『パンドラ』を降し『ヘレシー』たちを捕らえることができたので、兵士たちは作戦が無事成功したと思っているようだ。


 作戦の真の目的が王子ジュリアンの奪還であることを知らずに。


 エリーゼ軍にも被害が出たが、作戦の成功と戦死者を弔うために祝勝会が開かれることとなった。


 ザオバ中の酒が買い占められ、兵士たちに振る舞われている。


 俺たち『健康剣豪大冒険団』と『リスクジャンキー』やハゲ、その他作戦に参加したメンバーたちは特別にエリーゼ軍陣営のテントに招かれ食事会をすることになった。


 正直なところ第三だの第四だのの王位継承者がどのくらい偉いか実感湧かないし、もう酔えないんだよなあ。残念なことに「健康体」スキルが飲んだ途端にアルコールを完全分解してしまうらしい。


 よって俺はエミリーが酒に手を出さないか、嫌いな食べ物を残さないか監視、指導することに専念する。


 男だらけの場だと危なっかしいモニカは「女だてらに最前線でメイスを振り回す戦いぶりに感動した」という女士官数人に守られている。聖職者が酒の場にいてええんか。


 ルーカスとハゲは飲み比べ勝負の最中。ヴァンは早々に潰れ、メリッサはその介抱をしている。


 いつも一緒のはずのフィーナは酒を浴びるように飲み、歌い、踊って士官たちに拍手されている。あの適応力はどこででも発揮されるんだなあ。エルフの里以外での話だけど。


「ぶっ潰れろ~ヘレシ~パンドラ~エルフの里~♪」


 あえてツッコまない。でもなんか……疎外感。満腹になったエミリーは机の上で寝始めてしまった。このチビ助を連れて宿に帰るかあ。


「あまり楽しんでおられないようですね」


 声をかけてきたのは桃色の髪の王女エリーゼ。慌てて引きつった笑顔を浮かべる俺。


「いいのです。彼らとの戦いで嫌なものも見たのでしょうから。しかし、今回の戦でのあなたの働きぶりは冒険者の中でも抜きんでていたとか」


「別に……敵側の動きを全部読んで作戦を仕込んでいた陛下ほどではないですよ」


 一瞬エリーゼの顔が驚きを示した後、困ったような笑みを浮かべる。


「ふふ。陛下だなんて。私も王位継承を狙う者の一人ですが他の兄弟姉妹たちも生半可ではありません。お気持ちだけ受け取っておきましょう」


「あ、いや、その……」


 やべっ。王族を呼ぶときは殿下なんだっけ。陛下は王様。とりあえず不敬罪みたいにならなくてよかった。


「私を王の器と見込んでくださっているのなら直参として存分に腕を振るってもらいたいものですが」


「……今は成すべきことがありますので」


 どうせ元の世界に帰れないんだからさっさと勇者の鎧を着脱できるようになって快適に暮らしたいの!


「ジュリアンも体質を克服し正式に王族として復帰することですし、継承の争いもより険しいものになるでしょう。自身も参戦するために『パンドラ』まで利用するとは恐ろしい弟です……あ、いざという時は私に従うのですよ」


 王位継承の争いって内戦でもするわけじゃないよねえ。いざという時ってどんな時?


「それでは。今回は本当にありがとうございました」


 それだけ言うとエリーゼは俺のテーブルを離れていった……エミリー連れて帰るか。




 金に一時的な余裕ができたので、男と女と部屋が分けられることとなった。女部屋にエミリーを叩き込んで男部屋のベッドに腰かける。現状の把握と整理でもしようとしたところ、聞き慣れた大声が二階の部屋にまで聞こえてくる。


「ケント~! なんで帰っちゃうんですか~!?」


 めんどくさそ。寝ていることにする。


「ふむむ……今がチャンスか……?」


 何が? 勇者の鎧の五感強化により聞き耳を立てていなくても声が聞こえてきてしまう。


「何がですか?」


 モニカもいる。なんだ二人とも俺を追って来てくれたのか。これは普通に嬉しい。下に降りようかな。


「ぶっちゃけ、モニカはケントのことを男としてどう思ってるんです?」


 !?


「どどどどうと言われても……将来を誓いあった仲としか……」


 !?


「うえええ!? いつの間にそんな仲に!? 読めなかった、このフィーナの目をもってしても!」


「ええ。手を繋ぎましたから」


「は?」


 あ。依頼の説明を受けてる時にしたあれ? 確かににぎにぎしたけども!


「フィーナさんもご存じでしょう? 年頃の男女は手を繋ぎあって愛を証明するとか……」


 !?


「……ははーん?」


 フィーナもあの時の手繋ぎだと理解したらしい。でも「ははーん?」って何? やめてよね。


 小声でそれらしく、フィーナはモニカにささやく。


「その先が、あるとしたら?」


「先!?」


 やめ……やっぱやめなくても……いや絶対想像している展開にはならない! やめろー!


「教えてくださいフィーナさん! 司祭様はおっしゃいました。やって後悔しろと!」


「……押し倒すんです。そして、襲います」


 このバカ野郎!? モニカにそんな言い回しをしたら、したら……ああ! 階段を駆け上がる音が聞こえる!


「……わたしだって手ぐらい……繋ぎましたし」


 フィーナが何か言っているがそれどころではない!


 バァン!


「ケントさああん!!」


 ドアのぶち破られる音。振り下ろされるメイスを納めたままEX狩刃(エクスカリバー)の鞘で受け止める。当然毒はない。やっぱりこう解釈するよねえ!?


「ケントさん、負けてください。これが愛の証明となるんです」


「愛!? ラブなの!? 俺を!?」


「人々の模範となるべくケントさんには責任を取ってもらいます!」


 トロールの頭を叩き潰すモニカの一撃はすさまじい。手加減しながら鎧の力を解放しなければ制圧できない。だが下手な手加減は余計な怪我をさせる可能性がある。おいおいおいどうする。


「既成事実を作ったのはケントさんです! 無理やり、あんな乱暴に……手を繋ぐなんて!」


「手を繋ぐってのは別に特別なことじゃないの! フィーナとだって繋いだ……あっ」


 一番言っちゃいけないことを言ったことを言ってしまった気がする。


「ケントさんの……ケントさんの……スケコマシー!!」


「うるっさい! 転べ!」


 エミリーが起きてきた。エミリーの命令魔法ですっ転ぶモニカと俺。


「フィーナも出て来なさい! それで全員正座!」


 うなだれたフィーナが階段を上がってくる。こうなったエミリーはフィーナですら逆らえない。


「フィーナ! モニカで遊ばない! モニカ! 手繋ぎなんて男女の仲の初歩の初歩なの! 詳しくはメリッサにでも聞きなさい! ケント! 嫌いな物ばっか食わせるな!」


 俺、悪くなくない?


 その後「リスクジャンキー」の面々も交えてモニカの男女観を矯正するのに朝までかかった。


 前々から思ってたけど覚えとけよ。モニカの上司の司祭とやら。

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