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第33話 またしても新天地へ

「申し訳ありませんでした!」


「本当に申し訳ない!」


 ザオバの町まで戻った俺たち冒険者たちは王族のエリーゼとジュリアンに平身低頭で謝罪されていた。


 だって王族ジュリアンが「パンドラ」と組んだって言ってたもん。


 例の「パンドラ」だか「ヘレシー」の拠点を叩くって言ってたもん。


 それが本当はジュリアン救出作戦だったって? 最初から言えよ。


「そんなこと最初から言ってくださいよ! 違約金は絶対支払ってもらいますからね!」


 俺の気持ちを代弁するようにフィーナが喚きたてる。今回ばっかりは俺は止めないぞ、もっとやれ。王族相手だからって遠慮するな。


「残念ながら今回違約金は発生しません。あなた方に初めにかけさせていただいた【紋章】(エンブレム)の呪文。それをかけられた時点でエリーゼ殿下とあなた方冒険者の主従は成立しています。王族が配下に違約金が払うことなどないのです」


 エリーゼの副官サイラスが口を挟む。


『何のつもりだ? 家紋の【紋章】(エンブレム)だと? 国軍じゃなかったのか?』


『剣を納めてください。ルーカス様。【紋章】(エンブレム)によって同じ陣営になった我々は互いに意図して傷つけ合うことはできないはずです』


 そういえばルーカスが怒っていたやつだ。強制契約で主従関係って……王族エグくない?


 でもあれって不意打ちで食らったけど俺たちがなんやかんや手を握って遊んでたから「健康体」スキルの共有で効かなかったんじゃなかったっけ。


【紋章】(エンブレム)なんかないですよ。だから賠償金と違約金を支払ってください」


「魔術士がちょっと見ればわかるわ。そうね、慰謝料もいただこうかしら」


「流石に王族の方を相手にたかるのはお駄賃程度で我慢してください……」


 なんやかんやで全員金銭を要求してるじゃねーか。ここは俺がビシッとキメてリーダーとしての示しをつけるか。


 俺たちを使い潰そうとした対価はデカいぞ? 何せクソデカい借金があるからな。


「俺たちは今回主従関係ではない傭兵として傘下に入ったと理解しています。なので……」


「納得いかねえ! なんでそいつらだけ追加で報酬がもらえんだ! クソが!」


 いつぞやのハゲが騒ぎ出した。生きてたんだ。でも俺の話してる間に割り込むな、ハゲ。


「なので傭兵として契約違反は見過ごせません、よって追加料金を……」


「主従関係だったとしても働きに応じた褒賞があってもいいんじゃないか? なあサイラスさんよお」


 今度はルーカスだ。あんたには世話になったけど……順番を、守れ!


「皆さま、お静かに。ジュリアンと協議いたしました。ある条件を飲んでいただければ褒賞の要求にも応じましょう」


 結局何も言えなかった。フィーナが俺を冷たい目で見ている。やめてくれ。元の世界でも発言が被って相手に譲ることが多々あったんだから。


「要求だと? 戦働きをさせておいてさらに要求があるってのか? 王族だからって容赦しねえぞ!」


「そりゃあないぜ。王女さま。まさかまた『パンドラ』と戦えって話じゃないだろうな」


 ハゲとルーカスが食ってかかる。


「いいえ。今回の一件で『パンドラ』の動きは慎重になるでしょう。ですからジュリアンが掴んだ『パンドラ』と繋がっているという領主の監視を行っていただきたいのです」


「あのー、あいつらに顔覚えられてるんですけど」


 やっと発言できた。行った先で即ガレセアで大暴れした時のようになってしまったらどうするんだ。


「言ったはずです。彼ら『パンドラ』の動きは慎重になると。相手がどう動いてくるか監視するのも新しい任務になります。それを受けていただけるのであれば褒賞の一人頭百万ゼドルに追加分を加算しましょう」


「いくらですか!?」


 真っ先に反応するのはフィーナ。その反射神経が羨ましい。夜寝る前に「あの時ああ言っておけばよかった」って思うことあるよね。きっとこのエルフにはそれがない。


「一人頭二百万ゼドルを追加します。なので『白騎士冒険団』には合計千二百万ゼドルの褒賞をお支払いすることになります」


「受領しましたあ!」


 リーダー、俺なんだけど。


 なんかみんな俺のこと「白騎士」じゃなくて「健康剣豪」って呼ぶようになったし、パーティー名「フィーナと愉快な仲間たち」にでも改名する? いや「愉快なフィーナと仲間たち」だな。


 あ、報奨金はフィーナが手を付けられないような隠し口座に預けないとなあ。




 グルースレー。それが次に俺たちが訪れることになる街の名前だ。


 都市としては大規模。ガレセアなんか村扱いだとか。


「グルースレー!? ガレセアのパーティーハウスからもっと遠くなっちゃうじゃないですかあ! 実家に帰りたいー!」


 お前は本当の実家を追放されてるだろ。


 任務の説明の際にようやくこのフェブラウ王国という国の地理がなんとなく分かってきた。


 最初の街ベルゼズンやガレセアは比較的王都の近くで、今いるザオバはそこから思いっきり東に突っ切ったところにある。グルースレーはそこからさらに東側。どうやらギュノン帝国との国境付近の防衛拠点だとか。


 故に中心地である王都近くの街とは違って比較的軍備の整った街になるという話。


 うーん。絶対にそこの領主とはいざこざを起こさないようにしよう。


 そして俺は今まで感じていたことを口にする。


「なあ。一つ提案があるんだけどさあ。あの……『白騎士冒険団』ってダサくない? しばらく移動でギルドの出張所に寄れなくなる前に改名したいんだけど」


「まあ、ダサいわね。そもそもあんたは『健康剣豪』の方が名前が通ってるじゃない。改名に賛成」


 それを聞いたフィーナが膝から崩れ落ちる。わざとらしいんだよ。


「二十ある候補から夜通し選んだのに! ケントのアホ!」


「それじゃあ『健康剣豪冒険団』になるんでしょうか……?」


 うーん。そもそも「冒険団」っていうのをどうにかしたいんだよ。


「それじゃあ『昏き紫水の探索者』(アビス・ウォーカー)っていうのは……」


「あんたも大概ね。却下」


 くうううう。自信あったのにい。


「それじゃあ。『魔術士エミリーの成り上がり団』っていうのは……」


「通るか、そんなもん!」


 以降グダグダとああでもないこうでもないと議論が続く。王族テントの兵士たちが邪魔そうにしているが、議論が白熱してくると気にならなくなってくる。


「あの……やはりケントさんありきのパーティなのでやはり『健康』に由来する名前がいいと思うのですが」


 ああ「健康体」スキルがあっても疲れてきた。もう最初のモニカの案をいじって終わりでいいよ。


「じゃあもう『健康剣豪大冒険団』でいいんじゃないか。いい加減この辺にしよう」


 半ばヤケクソで新パーティ名を提案する。ダメなら次は「追放エルフ悪逆無双隊」だ。


「まあ最近『白騎士』って呼ばれないですしね。賛成です」


「もうなんでもいいわよ。疲れたわ……」


「はい! 私もこのパーティらしくて素晴らしいと思います!」


 疲れ果てた俺たちと違ってモニカだけ嬉しそう。


 よかったね……本当に。

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