第26話 遭遇、第二のエルフ
メンバーの選別が終わったところで顔合わせの時間もないまま、俺たちはエリーゼ軍に組み込まれることとなった。急じゃない? いや、初対面の人たち相手に自己紹介とかも苦手だけどさ。
俺たちは貸し与えられた馬に乗りどこかに向かい始める。急じゃない? 作戦会議とかないの? ちなみに「転生者基本ギフト」に「乗馬」は入っていたらしい。今まで馬は無理だと思って結構歩いてきたぞ。おい。
すると先ほど副官サイラスに剣を向けていたベテラン風の冒険者が乗馬したまま近寄ってくる。確かルーカスとか呼ばれてたか。
「よう。立派な鎧だな、兄ちゃん! 聞いたことあるぜ! 『白騎士』が山みたいな魔物を一刀両断したってな!」
一刀両断はしてない。どこでそんな話になったんだよ。
「そうなんですよお! うちの『白騎士』ケントはめちゃくちゃ強いんですから! あの感じの悪い鎌使いと違って!」
ルーカスは声を上げて笑った。少しでもランドタートルのことを知っていればそんなことは尾ひれのついた話だとわかるはずだ。恥ずかしいなあ。
「冗談が上手いなあエルフの姉ちゃん! 俺もあの手の亜種を倒したことはあるが一刀両断は無理だな。あの時は頭を潰した。ただ、あの鎌使いが感じ悪いのは同感だ」
そうやって「リスクジャンキー」のルーカスと話し込んでいるとエリーゼの本隊から伝令の馬が駆けてきた。先導する護衛の騎馬の少しあとからもう一騎の騎馬がやってくる。軍服に身を包んだ薄い緑がかったショートヘアの女性が近づいて……耳尖ってない?
「げえっクロエ! なんであなたがここに!? うへえっ!?」
「エルフの品位を損ねないでください。フィーナ」
「追放された身として気まずい気持ちが言葉として表れ出てるんですけど!」
知り合い? にしては随分とまともで利発そうな……えへんえへん。なんでもない。うちのフィーナだってすごいもんね! すごいよね。色々。
「ああ。あなたが『勇者の鎧』の。ご愁傷様です。鎧もそうですが、フィーナのことも」
「なんですかー! 私がその外れない鎧同然の疫病神みたいな言い方はー!」
悲しいことに全否定できないんだな。鎧を外すにはフィーナの助けが必須。切っては切り離せない関係にある。疫病神は言い過ぎだけど……あれ?
「あのー。クロエさん? あなたがこの鎧を外すことができたり、できなかったり……いやー、もしかしたらの話ですけど?」
「ケントが裏切ったーああああ!」
「私にはできません。そもそもその『勇者の鎧』はかつての魔王の配下が装備していた『覇者の鎧』を装備者の安全面に配慮し改良を加えたものです。結果期待した性能にならなかったので、自身では外せないのろ……縛りを課すことで成り立つ特殊なものなのです。基本的に任務以外でエルフは里を出ないので解除できるエルフと遭遇することはまずないでしょうね」
呪いって言おうとしたよねこのクール系エルフ!? でもその話だと解除エルフは誰が連れてくんの!? ああ、フィーナか! 追放されとるやんけ!?
「当然追放者のフィーナがそのエルフを呼び寄せることはできません。どうです? 私と取引しませんか?」
知ってるー! これお使いループだー。「勇者の鎧」を解除エルフに会うのにクロエの依頼を達成するのが必要で、どうせ解除エルフにも依頼を頼まれて、その先でも……やだー!
「ケント! 私が成り上がって無理やりにでも解除させます! その女の口車に乗ってはダメです!」
「今までの言動からその者が本当に信用に足るか熟慮してみては? そもそも成り上がるとは何ですか?」
二人のエルフが馬上から手を伸ばす。馬は素人なんであんまり近くで走らないでください。怖い。
今まで旅をしてきたフィーナ。ろくでもないエルフだが、成り上がり願望だけは本物だ。ランドタートル討伐で賠償金を得るに至った金に関する嗅覚や、何故か隠している魔術の才能だって手放すのは惜しい。
だから俺はフィーナの手を……
「恐れながら参謀殿! 時間がありません! 冒険者たちに作戦の説明を!」
取る前に伝令の男にさえぎられてしまった。このクロエとかいうエルフ、王族軍の参謀なの? 偉くない?
「冒険者の皆さま。失礼しました。私はエリーゼ様の参謀を務めているクロエと申します。短い間になるかとは思いますが、よろしくお願いいたします」
そう言うと馬上でクロエは作戦の説明を始めた。そういう魔術なのか、遠くの冒険者にも作戦が聞こえているらしい。
ぶっちゃけ王女エリーゼ発案のこの作戦、彼女の見た目にそぐわぬゴリ押し度合いに少し驚く。何か作戦って言うには雑。そりゃあ走りながら説明するよ。
俺たち王族軍は「ヘレシー」の拠点である大洞窟に物資の輸送部隊を装って殴り込みをかけるらしい。「ヘレシー」輸送部隊は捕縛済みで部隊もそれに偽装しているとか。
そして冒険者たちが選抜された理由。それは輸送部隊を護衛する「パンドラ」実働部隊を装うためだと。まあ王族軍の兵士なんて偽装してても行儀よくしちゃいそうだもんなあ。
「そういうわけで『パンドラ』と遭遇した際は当然皆さまにも戦っていただきますので、心のご準備を」
そういうと参謀クロエは冒険者たちのいる前線に居座る。ここ最前線よ。参謀なんでしょ?
「参謀も『タイムリーに指示を出せるように最前線に立て』とエリーゼ王女は仰せです。まあ私の腕で賊に遅れをとることなどないでしょうけど」
なんかエルフって自信過剰な性格多くない? 二人しか会ったことないけど。まあ任務とやらに駆り出される分実力もあるとは思うんだけどね。
そして輸送部隊を装った王族軍が進軍を続けていると正面に一騎の騎兵がいた。出迎えだろうか? おそらく「パンドラ」だろう。だが様子がおかしい。俺たちを威嚇するように両手に持った曲剣を大きく広げている。
「よう! 早かったな! そこは褒めてやる。だがよお、ちいっとばかし早すぎるんじゃねえかあ? おい!」
すかさず突進してくる騎兵。その馬は全身が鎧で覆われている。まるで金属そのもので構成されているような外観。
気付いたら俺を先頭にした隊形が組まれている。
はあ!? 一位のアリウス先輩はどこ行ったんだよ!? 叫びそうになりながらも突っ込んで来る騎士の曲剣をEX狩刃で弾き飛ばす。途端に腐り落ちる騎士の剣。
「っはあ! これが毒剣EX狩刃! やるねえ!」
通り過ぎて行ったと思った騎兵がすぐ後ろから斬りかかる。すかさずEX狩刃が自動迎撃。直接は見えないがその場で百八十度急速回転したとしか思えない。普通の騎馬の動きじゃない!
「これが騎士の最強形態! 俺は! 俺こそが! 人馬一体を超越した人馬合体だぜええ!」
どこから転移してきたのか、そこかしこでワープホールが発生し冒険者と「パンドラ」構成員の戦いが始まる。進軍の速さで見破られていたのか。
「『健康剣豪』だなあ! 俺と死合え! 俺は『究極騎士』アクセル! てめえも名乗れえ!」
「『白騎士』ケントだ!」
「『健康剣豪』だろおが!」
EX狩刃の自動反撃で剣を腐食させても、次から次へと鎧の手から次の剣が生えてくるのが追われながら振り向いた際に見えた。これでは本体に毒が届かない。バカなようだが強敵だ。
王族軍と「パンドラ」の乱戦。その始まりは唐突だった。




