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第24話 密命

 魔物の討伐依頼を終えて拍子抜けした後、俺たちは早めの夕食を取ることにした。馬車の中だと携帯食料しか食べてなかったし「一番高い肉で!」と肉料理を注文したのだ。


「エミリー、肉だけじゃなくて野菜もちゃんと食え。モニカみたいに大きくなれないぞ」


「ケントのバカ! サイテー!」


「エミリーさん? 好き嫌いはいけないんですよ!」


 フィーナは黙ってエミリーの皿に嫌いな野菜を移している。以前から「エミリーの成長のため」と言い張って行っている行為だ。


 和やかな夕食。こんな団欒があってこそ「白騎士冒険団」の親睦が深まる。はずでした。


 俺たちのテーブルに兵士が投げ込まれてきた。飛散する料理。


「冒険者でもねえガキを優先して六位の俺らが後回しだとお? どういうことだ! 返事次第じゃ命はねえものと思え!」


 大斧を背負ったスキンヘッドの冒険者が怒鳴り散らす。兵士も果敢に言い返す。


「将軍は討伐時間が五位までの者たちをお連れしろとおっしゃいました。アリウス様が冒険者であろうが、なかろうが関係のない話です」


 うるせ~! ふざけんな~! 何の催しかは知らんが二位の成績。悪くない結果だろう。なのでせっかく奮発した肉料理が! 肉料理がなあ!


「おい。六位のハゲ。二位の『白騎士冒険団』の食事の邪魔をするとはどういうことだ?」


「二位だあ? テメエらもあのガキに負けてんじゃねえか」


「お前は俺らにも負けてんだよ! 数字が読めねえのかハゲ!」


 するとハゲは背中の斧に、俺はEX狩刃(エクスカリバー)に手をかける。


「解放、春炳(ハルペー)


 突然実体化した大鎌の刃がハゲの首筋に添えられる。謎の聖騎士アリウスだ。


「僕の順位に文句があるなら僕に直接言うといい。さて、命を懸けて何を言いたい」


 ハゲは床に座り込んでしまう。一人で軍の依頼を達成してしまったアリウスがおそらく規格外なだけで、六位パーティのハゲもそれなりの実力者なはずだ。おそらくその実力差を感じさせる圧倒的な殺意で黙らせたのだろう。その波動は俺にも響いた。


「五位までのパーティは優先的に上位の仕事を受けられるそうだが、君たちは興味が無いのかい? 変わっているね」


「あるあるある! ありまーす!」


 フィーナが元気に挙手をする。そういえばもうそんな時間だった。飛び散った料理は名残惜しいが依頼で稼いでもっと豪勢な飯を食えばいい。あーあ。肉。


 いそいそとアリウスの後を追う俺たち。肉を食うのに頭がいっぱいで場所を失念していた。たどり着いたのは町の中心地にでかでかと張られたテント。偉い人の本拠地だろうか。




「私は将軍の副官を務めているサイラスと申します。始めに言っておくと、この度の依頼に関しては守秘義務が課せられます」


 早々に一組のパーティが退室する。依頼内容すら聞いていないのに。


「こういう訳ありな依頼を最初から受けないパーティもいますからねえ」


 小声でフィーナが補足してくれる。


「それで? その将軍様っていうのはどこの将軍様なんだい?」


 大剣を椅子の脇に立てかけた軽薄そうなベテラン冒険者風の男が問いかけた。


「それも依頼を受けていただいてからです」


「ああそうかい」


 それだけ言うとその男は大きく伸びをしてリラックスした体勢に入る。フィーナ曰く王族軍だが相手も表向きは国軍の偉いさんなのに。自由だなあこの人。


 すると別のパーティの魔術士風の男が質問を投げかける。


「依頼内容を確認してから受注を判断することは?」


「できません。全ての依頼内容は受注後にお話しますし、途中で離脱できない仕組みをとっています。答えられるのは褒賞のみ、一人頭百万ゼドルです」


 何これ? うさんくせ~。一応事前に説明するだけ良心的かもしれないが、何も説明できない依頼なんかおかしいだろ。依頼料も余計怪しさを誇張する。


 魔術士風の男はパーティメンバーと話し合った末に退室していった。まあ信用できないよね。


 かくいう俺たちはというとフィーナが「王族にコネを作るチャンス!」と言い張って俺の手を離さない。フィーナが俺の手とエミリーの手を掴み、俺はフィーナに手を握られながらせっかくなのでモニカの手を握る。モニカは赤面し、もじもじとしている。こう、いじわるしたくなるところあるよね。モニカって。


「ではアリウス様、『白騎士冒険団』様、『リスクジャンキー』様……皆さまはこの内容に同意されるということでお間違いないですね?」


 サイラスが念押しをするのでアリウスが皆を代表して返事をする。


「文句ないね? 次の段階に進んでもらおう」


「あ、はい」


「それでいいぜ。さてどんな仕事だかねえ」


 俺だけモニカの手を握る力を強めてみたり弱めてみたりと遊んでいたので生返事になる。


「ではこの者たちに【紋章】(エンブレム)の呪文をかけよ!」


 待機していた部下の魔術士がテント全体に何か魔術を行使した感覚がある。が、特に何かあった実感がない。ああ。俺たち全員で手を繋いでたから「健康体」スキルの共有でさっきの魔術が効かなかったのかも。


 次の瞬間。最初に質問をしたベテラン冒険者風の男が大剣をサイラスに突き付けていた。


「何のつもりだ? 家紋の【紋章】(エンブレム)だと? さてはてめえら国軍じゃないな?」


「剣を納めてください。ルーカス様。【紋章】(エンブレム)によって同じ陣営になった我々は互いに意図して傷つけ合うことはできないはずです」


 ルーカスと呼ばれた男は舌打ちしながら大剣を地面に突き立てる。


 するとテントの奥と俺たちのいる空間を隔てる布を従者がめくって、豪奢でありながらも装着者の動きを阻害しないすらりとした鎧に身を包んだ少女が現れた。


「上位パーティ五つに対して九名ですか、まあいいでしょう」


「はっ!」


 桃色の髪と瞳をしたその少女は十五、六歳ほどの見た目に反して、既にかわいいを超えて美人という貫禄がある。さらに単純な美人というよりも優雅というか、エレガントな雰囲気をその所作からかもし出している。要するに元いた現代日本じゃお目にかかれない貴人だ。


「フェブラウ王国第三王位継承者、王女エリーゼ様である! 頭を下げよ!」


 アリウス、「リスクジャンキー」の四人とやらに遅れて手を繋いで遊んでいた俺たちも片膝をついて頭を下げる。あれ。俺だけ膝が逆だ。


「まずは国軍と偽っていたことをお詫びします。そして魔物の討伐もお疲れさまでした。その上で端的に言いましょう。今王室には奇妙なスキルを持った部外者が出入りしています」


 嫌な予感がしてきた。ガレセアであれだけ苦労して叩きのめしたのに。


「彼らを手引きしているのはフェブラウ王国第四王位継承者ジュリアン。そしてその者らの名は『パンドラ』と言います」


 俺たち「白騎士冒険団」は互いに顔を見合わせる。「パンドラ」を潰したと思ったらまた「パンドラ」かよ。一人いたら三十人いるタイプのやつらか?


 だがジークがいるとするならば話は別だ。堕印奴隷(ダインスレイヴ)を奪われて以来塞ぎこんでるEX狩刃(エクスカリバー)も元気を出すってもんだ。


 乗り掛かった舟だ。やってやるさ。

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