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第21話 出稼ぎに行こう

「今回モニカには前衛をやってもらおうと思う」


「えええ!? こ、困ります……」


 だってなあ。前衛が俺だけ、後衛に補助魔法のフィーナと攻撃魔法のエミリー。そして治療士(ヒーラー)のモニカ。バランス悪くない? 俺は「健康体」スキルと勇者の鎧の防御力で大体なんとかなる。これ治療士(ヒーラー)いらなくない?


 かつて俺が前に出ると言ったな。あれは嘘だ。


 俺はずしりと重いメイスをモニカに手渡す。柄に触媒としての宝石がはめ込まれ、魔術の発動を可能としてあるものだ。フィーナに荒らされた口座に残った金を突っ込んで買ったので質は悪くないはず。頼むよホント。


 だが以前モニカが衛兵を叩きのめした動きは尋常ではなかった。モニカには自己回復をしながら戦う聖戦士をやってもらいたい。


「今回の依頼はゴブリンの討滅と住み家を破壊すること。Cランクの依頼だし問題ないはず。それぞれが力を出し切る間もなく終わるような依頼だ。俺はあんまり手出ししないから、モニカとエミリーの実力を試したいと思う」


「望むところよ。今さらゴブリンなんてリーダーはセンスがないのね」


「ああ。司祭様! 葬儀は簡素なものでお願いいたします……!」


 このシスター、例の司祭を信奉していないか?




 結果としてこの試みは想定外の結果に終わった。いい意味で。


 まずモニカ。モニカがメイスをフルスイングするとゴブリンの頭が弾けながら身体ごと吹き飛んでいき、振り下ろしは敵のこん棒による防御を貫通した。


「ごめんなさい~! でも痛いのは困るんです!」


 彼女の攻撃が弱点に届かない頭一つ分以上大きなオークが出た際は、的確に膝を潰しオークが崩れ落ちたところで頭部を叩き潰すというコンボを流れるようにやってのけた。彼女の所属していた教会とやらが戦闘員の育成機関でなければこれは天賦の才なのでは?


 そしてエミリー。彼女の魔法は少し変だ。


 フィーナやモニカが英語に聞こえる短い詠唱をして魔法を発動させているのに、彼女の場合は「吹っ飛ばせ!」だの「切り裂け!」「砕けろ!」「圧し潰せ!」という簡単な命令系の単語でゴブリンをなぎ倒していった。


 発動におけるタイムタグも皆無。フィーナに真似させてみたけど無理。「何ですかアレ」と首をかしげていた。


「君の魔法何か変じゃない?」


「変なのはこんな簡単なこともできない世の中の魔術士たちでしょう?」


 そうかなあ? ジークにAランク上級扱いされてたフィーナだってちゃんと詠唱してるのに、そんな直感的に魔法が使えるものなのだろうか?


 そして俺たちはゴブリンの巣窟と化している洞窟にたどり着くと爆薬の準備を始めた。


「そんなもの必要ないわよ。崩れろ!」


 ガラガラと洞窟が崩れ、ゴブリンたちの断末魔の悲鳴が聞こえる。爆薬が余っても困るんですけど。昔の特撮みたいに岩場で派手に起爆させてみる?


 すると瓦礫の中からオークを超える巨躯のトロールが姿を現した。ゴブリンたちが飼い慣らしていたのだろうか。だが瞬く間にエミリーの「切り裂け!」魔法で四肢を切断され、飛びかかったモニカの一撃で頭部を潰され死んだ。


 この布陣、いやこの二人強くない? 俺の指示でフィーナは暇そうにしていたが、彼女の補助魔法も加われば大抵の魔物は敵ではないだろう。というかエミリーの謎魔法が強すぎる。


「エミリー、採用だ」


「当然の結果ね! こんなテストをしないと実力を見抜けないリーダーには不安があるけど、まあ付き合ってあげるわ!」


 なんかムカつくなあ。このチビ助。どうにかフィーナとぶつけ合って俺に余計な負担がかからないようにしたい。




 数日後。全てのBランク依頼を達成してしまった。サイクロプス、四本腕のトロール、青目のワイバーン、ポイズンリザードキング。これくらいしか倒していないのに。


 理由は「緋色の夜明け団」がこまめに達成可能な依頼を潰していたことと、新編成があまりにも強力だったからだ。とくにエミリー。瞬く間に四本腕を切断されたトロールはかわいそうだった。


 これだけの人物が何故どこのパーティにも所属していなかったのか?


 多分性格の問題だろう。が、多少嫌味ったらしいことを言われる程度だ。


 いつ何をしでかすかわからないフィーナに気を配っている俺にとっては些細なことだと考える。


「あんたたち、借金があるわけ!? しかも三十年ローン!?」


「こいつがやりました」


 俺が目配せするとフィーナは自身の頭を軽く小突いて舌を出す。ぶん殴ったろか。


「気づいたらいきなり家を買ってくるから……」


「脳がゴブリンなの!? ここの街の上位の依頼は全部潰しちゃったじゃない。自然発生するのを待つわけ? そんなの無理! わたしはAAランクになって世に名を知らしめる存在よ!?」


 あー始まった。このチビ助は冒険者ギルドの最高ランクに到達するのが目標だとか。こいつも故郷を滅ぼすとか言い出さないよな。


「俺に考えがある。一獲千金とまではいかないが、国から請け負う仕事である以上ある程度のリターンは期待できるだろう」


 受付嬢から「白騎士冒険団」のリーダーである俺に直接話があった。ここから離れたザオバという田舎町に国軍が展開して大規模な魔物の掃討が行われると。ザオバは元々強力な魔物が出現する地帯で、腕自慢の冒険者が乗り込んで返り討ちになるか、そこで高ランクになるかのどちらからしい。


 国軍の将軍は優れた冒険者を集めているそうで、冒険者ギルドの各出張所にもその話が舞い込んできているとか。そこで「白騎士冒険団」にお声がかかるとは嬉しいものだ。


 俺が事情を説明するとフィーナが絶叫する。


「えー!? みんなのパーティハウスは!? 家具も小物も揃ってきたところなのに!」


「賃貸に出せ」


 わざとらしく「しくしく……」と泣き真似をするフィーナを無視してパーティの意思統一を図る。


「望むところよ! この大魔術士エミリー様の名前を売り込むチャンスだわ!」


「私は司祭様から『世の役に立て』と言われていますから……それでザオバの民が救われるなら私も微力ながら手伝わせてもらいます」


「えーん! 特注してもうすぐ届く机と椅子もあるのにー! あんまりですよー!」


 よし、満場一致でザオバに出稼ぎだ! それにしても国軍だけで対応できない魔物とは一体何なのだろうか? 数が多いとか?


 受付嬢にしばらくガレセアを空ける挨拶をする。事務的な表情の裏側に嬉しそうな感情が隠し切れていない。ああ、出てって欲しかったのね。


 一応俺たち「白騎士冒険団」はガレセアの英雄のはずなんだけど……まあエミリーが加入してから余計にトラブルが増えたからね。本当にすみませんでした。


 よし、心機一転ザオバで頑張るぞ! 俺たちの悪評もそこまでは届いていないだろうし! ていうか悪評って何? 自分で言ってて悲しくなってくる。日々頑張ってるだけなのに!

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