2━20(終).後始末
最初は千夜視点じゃありません
『はぁ!? 何をどうしたらそんな所に行けるんだよ!』
『説明は後だ、こんなデカブツあったら困るだろ? 壊すのが手っ取り早いけど、爆発なんとか出来ないか?』
『あー……クランマスターなら、なんとか……』
『グレイマンさん凄いな、それじゃ、頼んでみてくれ』
千夜とフレンドトークをしていた霧羽は、フレンドトークが切れると、近くでロボットを破壊していたグレイマンに近づいていく。
「クランマスター」
「ん? 霧羽か、どうした?」
「千夜があの上にいるらしいんですけど」
「あの上って、あの上か?」
グレイマンが、巨大兵器を指差し、霧羽が頷く。
「んで? 奴はどうするって?」
「邪魔だから壊すらしいですけど、爆発なんとか出来ないかって」
「ああ、そういうことなら俺の出番だな。が、一人じゃ無理だな…まぁ、後二人いるし大丈夫だろ! 約一名心配だがな」
「おい、そりゃ俺のことかおっさん」
グレイマンの後ろからぬっと現れた華天が、講義の声をあげるが、グレイマンは頼んだ、と言ってガン無視した。
その後、《虹薔薇の騎士団》一、話の分かる人間である、青薔薇ことアスルからネルにも事情が伝わり、三強が巨大兵器を三つの点で囲むようにして待機した。
「よし、霧羽! 準備出来たぞ!」
「了解! 千夜、思いっきりやれ!」
『任せとけ』
巨大兵器の上で待機していた千夜は、真上に飛び上がって巨大兵器を見下ろす。
「時間ギリギリだな、食らえ! 『竜の息吹』」
【覇氣】、【破壊撃】、そして【溜め】を使った、千夜渾身の、最大の攻撃。全てを消し飛ばすが如き光の奔流が、巨大兵器を貫いた。
光出す巨大兵器の顔の前、グレイマンはニヤリと笑って大剣を振るった。
「『アッシュ・カタストロフ』!」
放たれるのは、全てを飲み込む灰の波、爆風を飲み込んで灰へと変えていく。
巨大兵器の右斜め後ろ、周囲を凍らせながら、ネルは静かに瞳を閉じていた。
「『絶対零刃』」
縦に振られた細剣から放たれた斬撃が、一瞬で爆風や金属片を周辺の空気ごと凍らせ、一拍おいて小さな氷の粒になった。
巨大兵器の左斜め後ろ、自身の眼前の地面に、八本の無刀を突き刺した華天が、仁王立ちしていた。
「『八刀陣・封殺壁』!」
八本の刀を起点として、火や光、水、風等で出来た巨大な壁が出来上がり、爆風を外に出さないように押し止めた。
千夜と三強の活躍により、巨大兵器は被害をほぼゼロにして破壊することが出来た。
王都襲撃事件
・軽傷者212人。
・重傷者38人
・死亡者0人
・建物半壊、全壊多数
多数のプレイヤーの活躍により、死亡者は一人も出なかった。しかし、建物の大多数が半壊、全壊の建物も出ており、暫くの間は復旧作業となるだろう。
「失敗か………」
ファルノートから離れた場所の上空。
小型飛空挺に乗ったヴァイスは、今回の襲撃が完全に失敗に終わったことが分かった。自身の目的も達成出来なかったが、まだ時間はある。暫くは準備期間だと、自身に言い聞かせた。
「面倒だなまったく、帝国も、アンタも」
「………ウルか」
甲板にいつの間にか現れた人物を、ヴァイスは苛立ちを隠そうともせずに睨みつける。
「おお、怖い。怖い。なんで同盟って道を選べないのか、俺には理解出来ないよ」
「何も知らない貴様では、それも仕方ないことだろう。黙って従っていればいいのだ」
「断る。いざとなったら━━━」
続きを話す暇もなく、ヴァイスの方から飛んで来た弾丸を、ウルは蹴りで弾き飛ばす。
「……逃走させてもらうわ。じゃあな」
背中から落ちていくウル。しかし、落ちた程度ではウルが死なないこと、というか、落ちないことを知っているヴァイスは、忌々しげに舌打ちした後、挺の進路を帝国に向けた。
王国と帝国。両者の戦いは、一部の者にとっては、まだ始まってすらいないのだ。
◇
王都襲撃から3日。復旧作業は未だに続いている。
俺は桂月や、《黄昏の灰》の人達と、復旧作業クエストをやったり、屋台をやったりして過ごしている。ちなみに今日は、桂月と何故か城に来ている。
なんで城?
「なぁ桂月」
「なに?」
「俺なんで城にいるんだ?」
「王都を救ったことに対するお礼と、表彰と褒
美と━━━」
豪華なソファーから立ち上がって、出口へと向かう。
桂月に足を掴まれた。
「何処に行くの?」
「帰る」
「駄目」
「いや、お礼とかいいから、表彰とかやだから、別に褒美とかいらないから」
「そういう訳にもいかない」
「嫌だね」
止めるなら全力で止めることだな、こちとら壁を破壊してでも出て行くぞ。
「お待たせ……え?」
王女様が来るまで、俺と桂月は物を壊さないようにしながらてを抜いて戦った。
この国の第一王女、フェリシアに、表彰やら褒美の件を断固拒否した。
「分かりました。でも、お礼は言わせてくださいね。王族と民、そして国を代表して、王都守っていただき、ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をするフェリシアに、少し驚く。まさか、本当に固辞出来るとは思わなかった。
「ふふふ。何か相談があったら言ってくださいね。何時でものりますから」
「成る程。そうきたか」
褒美は後日要相談ってことかな? あ、それなら
「それじゃあ、ちょっと欲しい物が━━」
◇
『本当に宜しいんですか?』
「あぁ、マスターの紅茶を早く飲みたいし、二階の部屋の一つを使わせてもらうから」
王女様に頼んだのは、寝泊まりが出来る、カウンター付きの空き店舗だ。マスターのお店として、マスターに使ってもらおうと思って頼んだ。
二階のほうの一室を俺が使わせてもらうことにすれば、俺への褒美にもなる。
「なんなら、俺とマスターでクランを立ち上げたりしてもいい」
『こちらとしては願ったり叶ったりです。ありがとうございます』
「その代わり、俺と桂月には半額で頼む」
『無料と言わない所が千夜さんらしいですね、分かりました』
「もうすぐ合流できそうか?」
『えぇ、明日にでも』
俺より早いな。ま、そのほうがいいか。
さてさて、暫くはのんびりしたいな。青い空を見上げながら、俺はそう思った。
━━2章.“battle of the Imperial City ” 終━━
神々ノ視点はお休みです。
申し訳ありませんが、暫く投稿が不定期になります。




