28 アブライルの森
道沿いにナメクジのいる平原を通過、その先は森だった。
名前だけ教えてもらっていた『アブライルの森』だ。
針葉樹と広葉樹、それからシダ植物なんかも生えている。
暗すぎず明るすぎず、原生林って感じだけど、熱帯雨林と温帯雨林の中間ぐらいな感じ。
といっても森の種類なんてよく知らないけど。
神聖な雰囲気はちょっとだけする。
不思議と気持ち悪い感じはしない。
とりあえず道を進む。
道は馬車も通るため、そこそこ広く安全だった。
「こっち」
「へ? わき道に入るの?」
「そうよ」
「わ、わかった」
「はいにゃ」
僕たちは途中でそれて北側の細い道に入っていく。
道といっても獣道だ。
「森だけどヒルとか大丈夫かな?」
「ひ、ヒルにゃん? いやああ」
「妹ちゃん落ち着いて。モンスターのデカいのは先のマップで出てくるけど、そういういわゆる普通の不快昆虫とかは出てこないわ」
「ふぅぅ。よ、よかったにゃん……」
妹はやっと落ち着いてきた。
いやあ、さっきの巨大ナメクジでだいぶ精神ポイントを消費したからね。
がさがさ。
ん? なんかいるのかな。
「ひいっ」
妹が引きつった悲鳴を上げる。
飛び出してきたのは、普通の鹿だった。
人間ぐらいの大きさで、茶色、白い斑点、角が生えてて、細い脚、やせ気味の牛系統の生き物。
どうみても鹿だ。
「ほっ」
「エデンハイムディアね。見ての通り鹿よ」
「鹿さんだったにゃ」
「よかったな、変なのじゃなくて」
ただし鹿なんだけど、マーカーの丸の色は赤、つまり敵性存在、モンスターだ。
「ふぅふぅ」
鼻息の荒い鹿は、僕たちを認識すると、威嚇なのか頭を下げて角を突き付けてくる。
「この子とも戦うの?」
「そうね、残念だけど一応はモンスターだわ」
「そうなんだ」
鹿が突進してきて戦闘になった。
突進の精度が悪かったので、全員避けられた。
剣を鹿に振り下ろす。けっこう硬い。
鹿はたまに突進してくるけど、動きそのものは適当で、ぼーと突っ立っていなければ大丈夫。
突撃してきた鹿を避けてから、こちらの攻撃を加えるというワンパターンだった。
そのまま鹿を倒した。
「ふう、鹿さん撃破だよ」
「そうね。お肉、そこそこ美味しいって聞くわね」
「やったにゃ」
ドロップ『シカの肉』が出ていた。
妹も現金なものでお肉には反応した。
またがさがさ音がする。
「ごぶごぶ、ごぶ!」
「ごぶ、ごぶごぶ!」
「ごぶ、ぎゃぎゃ!」
ゴブリンLv15だった。チュートリアル以来の登場だ。
「ご、ゴブリン」
妹はちょっと嫌そうな顔をする。
アニメ調でリアルタイプじゃないので、そこまで不快な容姿はしていないけど、嫌いな人からすれば不快といえば不快だろう。
ゴブリンは3匹の群れだ。
緑色で体は僕たちよりさらにちょっと小さい。
腰に動物の皮を巻いていて、やはり皮を巻いただけの靴を履いている。
あとは全裸だ。
手には木の棍棒装備だった。
チュートリアルのゴブリンは黒い剣だったので、あいつよりは弱いのかもしれない。
「一対一で」
「「りょうかい(にゃ)」」
それぞれ相手を決める。
リズちゃんはワンドだけど、一応杖だって接近戦はできる。
僕とアルテは剣のほうが木の棍棒よりは強い。
「えいやあ」
「ぎゃぎゃん」
ゴブリンは僕の剣をもろに食らって、瀕死だった。
そのまま二撃目を入れて、ゴブリンを倒す。
「にゃにゃにゃにゃああ」
妹もレベルが低いけど、剣を何回も叩きつけるようにばしばしシバいて、ゴブリンを葬り去った。
よほどゴブリンも嫌いらしい。
「ファイア!!」
リズちゃんは杖で殴りつつ、魔法を発動。
ちょっと強いリズちゃんのファイアで消し炭、まではいかないけど、炎に焼かれゴブリンを倒した。
「勝ちました」
「はい、お疲れさま」
「勝ったにゃん」
今回のゴブリンのドロップはゴブリンの核x3だ。
1匹で1個くらいは出るようだった。
次に出てきたのは『ポイズンスネークLv16』だった。
紫色の数メートルくらいある蛇だ。
かなりでかい。
そのぶん動きが遅いみたいで助かった。
頭を振って口を開き攻撃してくる。
剣で受けたり、なんとか避けたりして、攻撃をかわす。
「えいやあ、防御は任せて」
「にゃにゃにゃあ」
「いくわ、ファイア!!」
三対一なのを有利に使い、正面は僕が受けて、側面から妹が剣で攻撃、反対側からリズちゃんがファイアを打ち込んだ。
連携はうまくいき、蛇を倒すことができた。
公式ショップで見たことがあるモンスターは他にもいた。
青いタカ『ブルーホークLv18』。
一度襲われたんだけど、剣でなんとか受けたらそのまま飛んでいった。
以来、見ていないので、この子は大丈夫。
そしてちょくちょく出てくるのが『グレートスパイダーLv15』だ。
大型犬ぐらいの蜘蛛だ。
色は黒で紫の点々がある。
お腹が丸くてちょっと恐竜の卵みたいな感じ。
「グレートスパイダーが出てきたぞ」
「よし気合入れて叩くわ」
「はいにゃん」
もう3匹目ともなれば、慣れはじめている。
妹もクモは別に怖くはないらしい。
「とおりゃあ」
「ファイア!!」
「にゃんにゃあ」
基本3人で囲ってボコる。以上。
作戦も何もあったものではないけど、けっこうすばしっこい。
先に囲ってすぐにボコるに限るということらしい。
ドロップアイテム『スパイダーの脚』はカニみたいで美味しいとの話なので、みんなやる気を出していた。
なかなか森には色々な敵が出てきて、戦い甲斐がある。
「まだかにゃあ」
「もうちょっと」
「それもう4回目にゃん」
同じような森が続いていたけど、ようやくのことで景色が変わった。
目の前には2メートルくらいの崖があった。
「この崖を上るわ」
「登れないほどではないけど、大丈夫かな」
「多くの子はここで引き返すけど、もうすぐよ」
「わかったにゃ」
妹も素直に従った。
けっこうボコボコしていて手や足を掛けるところがあったので、意外にも登りやすかった。
さらにちょっと歩いた先に、ついに目的地らしい場所に着いた。
そこは森の中の泉だったのだ。




