1 翡竜オンライン
高級フルダイブVR機器が世に出て10年あまり。一昨年には劣化版の普及機が販売され、大ヒット商品になった。
そのVR機器はついに学校の授業に試験導入されて、その第一陣が僕たちだ。
今年発売開始になった国産の新フルダイブVRMMORPG『翡竜オンライン』。
授業専用のソフトを開発するより、このゲームを活用した授業にしたほうがいいと判断されて、夏休みに異性のパートナーとの課題をこなすことになっている。
僕は高校1年生の朝比奈竜也。
「竜也君は、私のパートナーだから。これは最終決定だから、ちゃんとアンケートで私を指名しなかったら、覚悟しなさいよ、頼むんだからねっ」
「あ、ちょっと待ってよ」
「いいから、絶対損はさせないわ。お願いしてあげるんだからねっ」
いきなり僕にそう宣言したのは、クラス一の美少女、北川沙理ちゃん。
顔はめちゃくちゃ可愛い。性格もいい。ロリ巨乳で、守ってあげたい女の子ナンバーワンなのに、その態度はちょっとツンデレ気味だった。
服装はセーラー服にツインテールでニーソックス装備だ。
もちろん僕には選択権などなく、夏休みの課題のアンケートの一番目の指名に沙理ちゃんの名前を入力して、後日、パートナーに正式決定した。
パートナーはアンケートをもとに、なるべく希望にそった子と一緒になれる。
夏休み初日、時間は午後1時前。
僕の手元には、VRヘッドギア『VRマックス』型番はVR-MAX-250010という汎用機がある。
今や最先端企業のほとんどが導入済みだと言われているけれど、現時点では品薄で、一般流通で入手するのは困難を極めている。
僕たちは政府の政策による学校経由という特殊な入手方法で、運よく遊べる。
多くの人々は買える価格帯のVRマックスは指を咥えて見ているだけか、高級な1世代前の機械を買うしかなかった。
すでに翡竜オンライン、英語名Hiryu Onlineのアプリはダウンロード済みだ。
ネットではHOと略されるか単に翡竜と呼んでいる。
翡竜は2か月前に正式オープンして以来、絶大な人気で、すでにぶっちぎりで今年のベストオブVRゲームのナンバーワンだと言われている。
ゲーム内での沙理ちゃんとの約束の時間は、1時半。
それまでにキャラクター作成、いわゆるキャラクリとチュートリアルを済ませておかないと。
専業主婦の母親と義妹とお昼を食べて、雑用も終わらせた。
自分のベッドに横になり、ヘッドギアを装着する。
「リンクアップ!」
これが開始の音声定型句だった。
脳波が同調されてギアが起動、メインメニューが視界にオーバーレイ表示された。
「翡竜オンライン、起動」
『翡竜オンラインを起動します』
マスコットAIのミニマムちゃんが応答する。
さあ、いよいよゲームの始まりだ。
僕はほとんど具体的な情報を仕入れていない。
ぶっつけ本番、初見プレイだって悪くないだろ。
ゲームのオープニングになった。
人間、エルフ、ドワーフ、獣人、さまざまな種族で露店街が賑わっている。
騎獣、カバ、サイみたいなの、小型のドラゴン、ワイバーン、荷車を引く地竜。
全体的にはアニメ調だ。
明るい色彩で彩られた、アニメ塗風の世界観になっている。
グラフィックはかなり綺麗だった。
美しいエルフの姫様。
小さな可愛い妖精。
もふもふなテイムモンスター。
ゴブリン、オーク、魔族たち。
人間族とモンスターたちの戦闘。
魔法が飛び交い、剣が振るわれる。
激しい戦場に、突然巨大な影が差す。
カメラが上にパンすると翡翠色の巨大な飛竜、すなわち『翡竜』が大空を舞う。
翡竜の猛烈な火炎がモンスターの群れを焼き払う。
人々が喝采を上げる。
沸き立つ王都の群衆から引いて、美しい城壁の王都の全貌が見える。
遠くに、飛び去って行く翡竜が霞んでいく。
――翡竜オンライン。
なるほど、こんな感じなんだね。
キャラクター・クリエイトの画面になった。
「どうしよっかな」
すると可愛い妖精が出てくる。
「あたしは、ガイドの妖精、ピクシエルだよ」
「あ、よろしくお願いします」
「プレイヤーさんには、あたしによるガイドと音声と文字によるガイドから選べますが、どうしますか?」
「え、じゃあ、せっかくだからピクシエルちゃんにお願いするよ」
「わっかりました」
種族。
ヒューマン、エルフ、ドワーフ、ジャイアント、ハーフリング、獣人は猫、犬、兎、狐。
「えっとどうしようかな、種族値とかは?」
「種族は見た目だけです。特性とかは特にないです」
「あ、そうなの?」
「はい」
じゃあいいかな。
「憧れのエルフに、するよ」
髪型。
ちょっと長め、女性でいうボブカットぐらいに調整した。
髪色。
金髪。エルフといればパツキンと決まってる。
瞳色。
薄い水色。なぜならオープニングのエルフっ子がそうだったから。
肌の色。
ほぼ全色選べるので、色白を選択。エルフは基本そうだよね。
ダークエルフもかっこいいけど、今回は普通のほうにする。
身長。
えっと、一番小さいやつ。
以前アニメで見た回避しまくりの子がちっさくてあたり判定が小さいという設定だったので。
「これでいいかな」
「よろしいですか?」
「うん」
「では、名前を決めてください」
「あ、はい」
名前か。うーん。ずっと悩んでたんだけど、ここで決めなければならない。
「そーだな、何かおすすめとかある?」
「そうですね。ワイリスとか?」
「ワイリス?」
「はい。ドラゴンの仲間ワイバーンにちなんでワイリスです」
「なるほどね」
「どうでしょう?」
「じゃあワイリスでいいや」
「わかりました。これでよろしいですか?」
画面に設定した内容が表示されて、確認される。
「はい」
「では、チュートリアルに進みます」




