79 レオナルドの帰省 次の約束
クラウスはシュヴァリエ侯爵家への滞在を非常に楽しんだ。
屋敷だけでなく領地内も案内してもらい、ホクホクとした気分になった。
軍人学校でレオナルドと出会うまで、クラウスは独りだった。寂しかった。
でもここでは、皆温かく迎えてくれた。何より隣にレオナルドが居た。
普段よりもはしゃいでいたが、それが分かるのはレオナルドだけだった。
レオナルドは、本来行いたかった勉強やレポートができなかったが、クラウスが楽しそうなので、まぁいいかと思った。
とはいえ、ずっと怠けていたわけではない。
身体は毎日動かした。
クラウスと遊ぶと自然と身体を動かすことになっていたが、それ以外にも、早朝に二人でランニングや簡単な手合わせは行った。
シュヴァリエ侯爵家で行える範囲で、行った。
また勉強もした。
クラウスに課題をやらせながら、レオナルドは領地の近況について書類で確認していた。これは事前に使用人に用意させていたものだ。
領地の状態を知らねば社交にも差し障りが出る。
しかし、逐一軍人学校の宿舎に届けさせるわけにもいかない。
そのためレオナルドはここで、貴族学院でつつがなく過ごせるよう諸々の確認をした。
気になる箇所があれば、クラウスを連れて自身の目で確かめにも行った。
クラウスはよく分からないまま連れ出されたが、楽しかった。
クラウスが思うがままに感想を口にすると、レオナルドはそこから情報を深掘りすることもあった。
この頃には、クラウスの感性や勘はレオナルド自身では気付けないものを拾い取ることがある、と考えるようになっていた。
勉強の際、レオナルドは流石に侯爵家でクラウスを椅子に縛り付けなかったし、クラウスも勝手に出歩くような真似はしなかった。
ただクラウスは、座り続けるのに飽きてしまってはいた。
そんなときレオナルドは庭に移動し、クラウスに外の匂いを嗅がせてやった。
また、目の届く範囲ならうろうろしていいと言った。
レオナルドのその様子は、ドッグランに犬を放す飼い主のそれだった。
庭に放たれたクラウスを見つけ、アレクシスは話しかけた。
アレクシスはレオナルドの日常を聞きたがり、クラウスも楽しく話した。
おいしいお茶菓子を食べながら、レオナルドと楽しく過ごしている日々をアレクシスに伝えた。
クラウスはアレクシスのことを、レオナルドから苛烈さを引き、穏やかさと落ち着きと柔らかさを足したらこんな感じだろうか、と考えた。
自分の兄たちとの違いを感じたが、寂しくはならなかった。
レオナルドを大切に思うアレクシスに懐いた。
レオナルドは少し離れたところからそれを見て、「餌付けされたのだろうか」と思った。
クラウスはこの滞在で、レオナルドの家族や使用人から好意的に受け入れられた。
また遊びに来るように何度も言われた。
アレクシスからは「弟をよろしく」と笑顔を向けられた。
レオナルド一人の帰郷なら、余裕を持って侯爵領を出るはずだった。
だがクラウスがいたため――クラウスがあまりにも楽しそうに過ごすため、ギリギリまで侯爵家に滞在した。
侯爵家から軍人学校までの帰り道は馬車を用意され、それを使い帰った。
さすがに二人で馬を使い帰ることは、やんわりと止められた。
帰り道、レオナルドは馬車に揺られながら教科書を読んだりレポートの草案を書いたりしていた。常に勉強していた。
だが、クラウスが話しかけてきたら答えたし、「ここからは大きな川が見えるぞ」「あそこの森にはこんな獣が住んでるぞ」など、適当にクラウスの気を紛らわせてやった。
キラキラした瞳で外に広がる世界に想いを馳せる姿に、「気になるなら次はそこに行くか」と言った。
クラウスは「次」の約束に、嬉しそうに「おう!」と言った。
この後も長期休暇のたびに、クラウスはレオナルドについてシュヴァリエ侯爵家に遊びに行くようになった。
レオナルドの帰省編・完
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次回からは長期行軍訓練編。
タイトルは、「四泊五日、開始」です。




