表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/102

27 クラウスの帰省 夜の茶会

 クラウディウスは、「まだ夜は早い。茶でも飲むか」と誘った。

 レオナルドは即座に「ぜひ」と応じた。


 クラウスは顔をしかめた。父と茶など飲みたくなかった。

 父といると、心がざらつく。

 幼い頃から「どうせ分かってくれない」と「分かってほしい」を繰り返した、彼自身も気付いていない胸の奥にある傷が痛むのだ。

 ――何度も擦れて、硬くなったはずの傷なのに。


 だが「いやだな」と思ったその瞬間、先日レオナルドと交わした会話と、彼が浮かべていた獰猛な笑みが脳裏によぎった。


『お前は何もしなくていい。ただ、邪魔をするな』


 そのときのレオナルドの声がよみがえり、クラウスの背筋に冷たいものが走った。



 本当は行きたくない。これ以上父と時間を過ごしたくない。

 けれど仕方なく、渋々ながら、黙って同行しようとする覚悟を決めた――そのとき。


「お前は来なくていい」


 クラウディウスが、クラウスをばっさりと切り捨てた。


 またも腹が立った。

 だがクラウスの感情が音になる前に、レオナルドが柔らかく言葉を重ねた。


「久しぶりなわけだし、お母君もクラウスと話したいんじゃないか? お茶でもしてきたらどうだ」


 その一言に、クラウスは固まった。何を言われているのか、よく分からなかったからだ。

 クラウディウスはクラウスの父親で、レオナルドはクラウスの親友だ。

 その二人が、クラウス本人を除いて、二人きりで茶を飲もうとしている。


 困惑するクラウスに、レオナルドは続けた。


「食事の席では、お母君とあまり話せていなかっただろう? 昼間も“私”が“君”の時間を奪ってしまったしね」


 その言葉遣い。申し訳なさそうに眉を下げ、目を細めるその表情。

 クラウスは、「あ、これは貴族モードだ」と気付いた。

 彼は"貴族モードのレオナルド"の笑顔が怖い。だから、この表情のときは逆らわないことにしていた。


 だから「おう」とだけ返事をして、素直に首を縦に振った。

 そして、レオナルドと父を残して晩餐室を出た。


 ……二人だけで茶を飲ませることに違和感を持つ俺がおかしいのだろうか?


 クラウスは、うーん、と首をひねりながらも、言われた通り母の自室へ足を運んだ。

 そして、どこか少し緊張しながらドアをノックする。

 マルグリットは、「お茶を飲みに来た」と急に言い出した息子を、笑顔で迎えてくれた。

 クラウスはなんだかその笑顔が気恥ずかしくて、胸の奥がムズムズした。

 ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

「いいな」と思っていただけたら、【☆☆☆☆☆】をぽちっとしていただけると、励みになります!


 次回のタイトルは、「偽らぬ誠実」です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ