115 戦術合同演習 策を喰う
「さて、どうするか」
クラウスの班は、レオナルドの班に比べると初動が遅れた。
誰が話し合いをまとめるか。
貴族が三人居る中で、平民が自分からまとめ役を買って出ることはない。
家柄で言えばクラウスが中心となるべきだが、彼はこういったワークが得意ではない。
開始の合図から一拍。
ダリオの「ふぅ」というため息のあと、コックスが声を上げたのだった。
「さて、どうするか」と。
場を読んだ結果の判断だった。
「私が話し合いをまとめる。意見を出してくれ」
コックスの言葉を受け、ダリオが言った。
コックスは「助かった」と思った。
彼もどちらかというとダリオが苦手で、まとめ上げられるか不安だったのだ。
「とにかくまずは、動き方の案の数を出す。大まかに分けて、攻撃と防御、反撃の三種類。それをどんどん書き上げる」
ダリオのそれに頷き、コックスが発言する。
「いずれにせよ、鍵になるのはクラウスだな。魔術が制限されてても、うちで一番強い」
「クラウスを中心とした戦略を立てた方がいいな」
当のクラウスはまだ何も言っていないが、班の方針はすぐに固まった。
「クラウス中心の戦術と、定石を書く。あとは、敵への対応も欲しい。相手がどんな手を打ってくるかだが……」
「ま、相手も手堅く定石だろうな。それと、クラウスへの対抗策」
他のメンバーも、どんどんと意見を出す。
自然と、一人がそれを書き留め始める。
そんな中、クラウスはおずおずと小さく手を挙げた。
「クラウス?」
コックスの呼びかけに、クラウスは話し合いを始めてから初めて口を開いた。
「レオナルドなら、雨を降らすと思う。みんなが、びっくりするから」
“雨を降らす”
想定の外過ぎる発言に、一瞬空気が止まる。
クラウスに応じることができたのは、個人的に魔術の訓練を何度か共にし、クラウスとの交流を深めているコックスだった。
「……雨?」
「おう。あと、敵の班に対して向かい風を吹かせたり、砂嵐を生んだりもする」
同級生が、天候を操る。
「そんなこと、あり得るのか?」
コックスの疑問に答えたのは、ダリオだった。
「クラウスが言うのならば、レオナルドには可能なのだろう。その前提で策を練る」
彼は断定的に発した。
『できるかどうか』を論じるのは無駄だとでも言うように。
少しだけ目を伏せ、口元を手で覆う。
そしてすぐに顔を上げ、続けた。
「それと、その案はうちの班にも流用する」
「案を流用?」
ダリオの意図を確認するように、コックスは問い返した。
話を聞く三人の平民の分の疑問も、そこには乗っていた。
「レオナルドが使うだろう奇策を、うちも使うんだ。レオナルドにできることは、クラウスにもできる。――違うか?」
ダリオからの視線を受け、クラウスは目をぱちくりとした。
彼からこんなに真っ直ぐに見つめられたのが、初めてだったからだ。
「できると思う」
だから、ほとんど考えずに返した。
何ができるとか、どうやって真似をするかとか、考えずに。
真っ直ぐな瞳に、思ったままのことを返した。
「よし。なら、コックスとクラウスでレオナルドが取りそうな手と、その対応を記せ。書けたらそのままこちらに渡せ。それを我々の手としても書き加える」
ダリオの指示を受け、一人の平民――トマスが声を上げる。
「なら、俺もクラウスたちの方に混ざるよ。コックスがクラウスから聞き取ってくれたら、それを書く」
トマスはクラウスの説明が擬音語と擬態語だらけなのに気づいていた。
そして、コックスが最近、クラウスとよく話していることも知っていた。
つまり、コックスが一番クラウスの独特なコミュニケーションと馴染みがあると考えたのだ。
トマスの考えるとおり、コックスはレオナルドという翻訳者のおかげで、だんだんとクラウスの説明が分かるようになっていた。
コックスは、「よし」と自分に気合を入れる。
「クラウス、思いつく限りをあげてくれ。聞いて分かんないことは質問するから、よろしく頼む」
クラウスはそれに、大きく頷いた。
「おう」
こうして彼らは二つに分かれ、奇策とそれへの対策、そして定石を書き記し、レオナルドたちに次ぐ厚さのレポートを提出したのだ。
次回のタイトルは、「覚えた手を携えて」です。




