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転生令嬢は平凡なので悪役に向いていないようです ──前世を思い出した令嬢は幼馴染からの断罪を回避して「いつもの一杯」を所望する──  作者: 京泉
第四章 転生者の物語

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闇と光

「それ」はいつでも人と共に存在していた。


 慢心して傲慢である時。自分以外が恵まれていると嫉妬する時。強烈な憤怒を感じる時。自身の怠惰に甘える時。全てを手に入れようと強欲になる時。意味なく食べ尽くす暴食の時。快楽のみを求め色欲に溺れる時。

 「それ」はいつだって、人の心に忍び寄っていた。

 そして「それ」は人の心の隙間を縫って入り込み、負の感情を糧とした。


 長い間細々と糧を得ていた「それ」にとって彼女は最高の形代だった。その自信は傲慢そのものであり、自分以外が得をすることに嫉妬し、思い通りにならない事に憤怒して限りなく怠惰を享受し自分に甘く、欲しいものは全て手に入れようとする強欲さと贅沢な食事を貪る暴食を繰り返す。

 なにより彼女が執着しているもの。色欲。

 それは「それ」には理解し難いものだった。恋慕があるわけでもないのに手に入れたがり、手に入れた後も満足を知らない。


 常に満足を与えてくれる満足しない彼女に「それ」は感じたことのない感情が芽生えた。彼女こそ我が「聖女」なのだと。



 目覚めは最悪だった。


 聖女の宴を終えた後、ランゼは良い気分のまま寝室へと帰りベッドへ潜り込んだのだが、眠りから覚めた時には昨夜の高揚感など微塵もなくなっていた。


 気分の悪い夢を見た。ぼんやりとして覚えていないが夢にキャラスティが出てきたのだから寝起きは最悪だ。

 おまけに汗でベタつく身体と髪。化粧を落とされず寝たせいで肌がチリチリする。


「カレン! お風呂の準備はできているの!?」


 いつもならランゼが寝ている間に身体を拭いたり着替えをさせ、寝起きには水を差し出すはずのカレンの姿が無く「カレン!」と、もう一度声を上げて呼ぶがやはり返事はなかった。

 こんなことは初めてだ。

 今までカレンは自分の言いつけを聞いていたのに。いや、むしろ自分の言いつけを守らせていたのに。

 居ないなんておかしい。

 そう思った瞬間、ランゼに怒りが湧き上がった。まさか……自分の本来の立場に気付いたのか。

 カレンは「恋ラプ続編」の「ヒロイン」。その事に気付いたのだろうか。

 そんなことは許さない。絶対に。

この世界は私が「ヒロイン」。絶対の存在なのだ。


「湯の支度をしなさい! そうね⋯⋯お前とお前、私のお風呂のお世話を「させてあげる」わ!」


 扉の前に控えていた従僕に命令すると、彼らは「光栄です」と恍惚に頬を染める。

 逆らう奴は誰であろうと容赦しない。カレンにはお仕置きが必要だとランゼはギリッと爪を噛んだ。

 ハリアードでキャラスティに奪われた「ヒロイン」。キャラスティが奪ったのだからカレンから奪って何が悪い。ランゼは何も悪くない。

 ランゼは災厄と呼ばれる「悪魔」さえ取り込んだのだ。思い通りにならない事などないのだから。



 「それ」はランゼの負の感情を喜んだ。

 やはり「我が聖女」は格別だ。


 ランゼの心はとても美味しい。その味を知ってしまえばもっと食べたくなる。

 ⋯⋯ランゼになればずっと食べられるのではないか? 「それ」がその事に気付いてしまったらもう我慢できなかった。


 ランゼが従僕に身体を洗わせる光景に「それ」は舌なめずりをする。

 従僕の彼らからは何も感じない。恍惚の表情を浮かべていてもその心は空っぽ。その点ランゼからは芳しいまでの欲望が溢れているのだ。


 早く「ランゼ」になりたい。彼女になれば傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食⋯⋯色欲。全てを味わえる。



「はあ!? 逃げた!?」


 昼が過ぎてもカレンは姿を現さず、庭にもアレクス達の姿は無く、セルジークもハルトールも聖女宮を訪れない。

 不審に思ったランゼは夜の間アレクス達を閉じ込めていた北の塔の報告を聞いて声を上げた。


⋯⋯どう言う事よ!⋯⋯

──記憶の種が枯れた──

⋯⋯はぁ!? あれは植えたアタシしか取り出せないってあんたが言ったんでしょ!?⋯⋯

──聖女、女神──

⋯⋯何言ってんのよあんたの聖女は私でしょ!?⋯⋯


 相変わらず意思の疎通が上手く取れない悪魔の答えにランゼの苛立ちが増す。


⋯⋯まあいいわ。逃げたってまた捕まえればいいのよ。絶対取り戻しなさい! アイツらを探しなさいよ!⋯⋯

──女神──

⋯⋯だから! なんなんだよそ、れ⋯⋯


 悪魔が答えた瞬間、ランゼの脳裏にカレンとキャラスティが浮かんだ。

 キャラスティは男装しているが、その紫紺色の髪は隠せていない。

 カレンに手引きされたキャラスティは北の塔へと入り、悪魔を退けていた。

 倒れているアレクス達を前にした二人は何かをしているような素振りをしていたがキャラスティがソファーへと倒れ込んでから暫くすると、アレクス達に植えた「記憶の種」が真っ黒な靄を発して消えて行ったのだ。


⋯⋯何だよこれ。なんでキャラスティがいるんだよ⋯⋯

──女神──

⋯⋯!? はあ!? まさかキャラスティが女神だとか言うのかよ!?──っ! ウソだろ⋯⋯


 憤りのついでに突然甦った昨夜の夢。ランゼは言葉を詰まらせた。

 夢でランゼはキャラスティに向けてなんと言っていた?


 ──「あの時」のように邪魔者は死ね!──


 「あの時」とは⋯⋯「前世」の事だ。

 「あの時」。階段から落ちたのは⋯⋯お姉さん⋯⋯姉を特別扱いしていたサクラギ⋯⋯。

 

 ──キャラスティはサクラギ。

 

 怒りで全身の血が沸騰する。これまで攻略が上手く行かなかったのはやはりキャラスティのせいだったのだ。

 「ゲーム」の製作者だったのだからイベントを起こす事も避ける事も先回りする事も容易に出来るではないか。


 ランゼはガリガリと爪を噛む。


 キャラスティは「ヒロイン」を奪うだけでは無くフリーダまで追いかけて来て今度は「女神」。それはそうだろう。この世界の製作者「神」なのだから。


 噛み過ぎてボロボロになった爪先がじくじくと痛む。


 気に入らない。気に入らない。気に入らない。製作者のクセに「ヒロイン」を奪ったサクラギ⋯⋯キャラスティはこの世界でも邪魔をする。

 

 キャラスティへの憎悪にランゼの瞳孔が大きく開いた。

 今すぐキャラスティを捕まえなければ。捕まえて絶望を与えてやる。

 

 ランゼは怒りに任せたまま拳を振り上げると扉に向かって叩きつけた。



 感情を吐き出すランゼに「それ」は歓喜した。

 夢や希望。思い遣りや自己犠牲。尊いものとされる感情は「それ」にとってただ不味いものでしかなく、「それ」に極上の満足を与えてくれるどこまでも深いランゼの欲望。


 欲しい。


 「それ」はランゼの憎悪を喰らい膨張して行く。


 それは聖女宮を覆い、空に黒雲を呼び寄せ灰色の雨を降らせる。


 その雨はランゼの欲望を吸い上げて黒く染り行く呪いの雨。雨に濡れた植物は枯れて大地は蝕まれる。

 雨を浴びる度に黒い闇を広げる世界。全てを呑み込む闇の塊となった時「それ」はどんな満足を得られるのだろうかと実態のない身体を震わせた。


──我が聖女──


 さあ、堕ちておいで。愛しいランゼ。

 お前が望むモノを与えよう。


 全てはお前の欲望のままに。


 ランゼは気付かない。気付く必要はない。もう手遅れなのだから。

 

 「それ」がランゼの憎悪に同調した瞬間、聖女宮を覆う闇が一際大きく膨らみ、弾けた。



 その衝撃は聖女宮だけではなく、王都全体を揺るがし、聖女宮は一瞬にして黒い炎に包まれたのだった。


────────────────────


 本当にフリーダ王国とは不思議な国だ。


 キャラスティが灰色の雨に濡れた花に触れ「元の姿に」と祈ると花は項垂れた首を持ち上げ瑞々しい葉を取り戻した。

 次に花壇の土に両手を付いて祈れば割れた土が湿って柔らかな土壌へと変化する。

そして最後に祈りを込めて種を植えると芽が出て瞬く間に成長し、蕾を付け花を咲かせた。


「凄いですね⋯⋯こんなに強力な力を短時間で使えるようになるなんて、キャラスティは本当に女神様なのですね」

「セルジーク様」


 灰色の雨が降り出してから三日目。

 聖女宮の監視とランゼを捕らえる作戦を練っていたセルジークはキャラスティの力に感嘆の声を上げた。

 キャラスティが祈りの力で行っていた事は奇跡のような現象だ。

 元からフリーダ王国の国民は自然の加護を風火水土の形で受けているが、それはとても小さく、国を出てしまうとその加護は使えなくなるもの。

 セルジークはハリアードでその加護を使えたがそれはランゼの負の力によって出来たことだった。


「王妃様に使えるようにしていただいているだけです。リリー達も王妃様に「庇護の力」を使えるようにしてもらったのですよね」


 この国での聖女の仕事の一つ。

 その人の持つ眠った力を呼び起こし、自然の力を使えるようにする事。

 リリック、ベヨネッタ、レイヤーは「庇護の力」を持っている。

 キャラスティの力は「再生」なのだそうだ。


「なんだか不思議です。魔法のようで⋯⋯あれ? これって魔法ですよね」

「ええ魔法、とも言えるかも知れません。でも、その力は無限ではないのも確かです」


 便利だけれど無限ではない。多く使えば体が空っぽになってしまったのではないかと思うくらい脱力感に襲われるのだ。


「聖女から眠っている力を引き出されたハリアードの皆さんは⋯⋯とてもその力が強い⋯⋯私も皆さんのように、強くなりたい」


 セルジークとハルトール、レオネルには王族に生まれた時から自然から与えられた特別な力が宿っている。それは聖女のそれと似て非なるものだ。

 セルジークの力は代々受け継がれて来たものだが、聖女は血筋では無く自然界に選ばれた者が目覚めるもので、聖女に引き出された力は「加護を感じる」程度でしかないのがこれまでの通説。


 しかし、セルジークの母親であり聖女である王妃ハミルネに力を引き出されたキャラスティ達は直ぐに自分達と同レベルの力を発揮させていた。


「王妃様直々に施していただいたからではないですか」

「⋯⋯いいや、母上もその人の眠った力を呼び起こすだけ。貴女方は⋯⋯お互いを想う気持ちが一層にその力を強化しているのだと思います」


 黒い霧が漂う聖女宮を眺めながらセルジークは目を細め「私もそうありたいのです」と小さい笑みを浮かべる。


 キャラスティも同じように眺めて空間に向けて両手をかざした。


「キャラスティ、何、を──っ」


 聖女宮の異変から王妃ハミルネを始め、フリーダの聖女達は結界を聖女宮に張った。

 そのお陰で聖女宮から今も黒い霧が発生し続けていているが吐き出されている瘴気は抑えられている。

 ただ、聖女宮を抑えられても降らされている雨を完全に止ませる事は出来ずその雨は聖女宮だけでなく王都全体に降り注いでいた。

 雨で腐り始めた植物や大地の範囲は広がり、不調を覚える人々も日に日に増えている。


 だからキャラスティは少しでも雨の毒が薄まれば良いと雲に祈ってみたのだ。


 それは軽く考えただけ。


 キャラスティの両手が白く光ると閃光が走った。

 それは一直線に雲を貫くとやがて真っ黒だった雲が灰色に変わり、透明になった水滴が落ちて来た。


「──っ! キャラスティ、今のはっ」


 心なしか雨の毒性も薄まっているように感じる。


「ちょっと! 何、今の」

「キャラ、一体何があったの?」

「びっくりしたわ。今のキャラがやったの?」


「キャラ! 大丈夫!? どこも痛くない?」

「キャラスティ、今のは⋯⋯」

「なんかピカーってなってたよ」

「セルジーク、何があった」

「⋯⋯凄い光が走ったな」


「キャラスティ⋯⋯貴女は⋯⋯」

「び、ビックリ、しま、した⋯⋯」


 騒がしく驚きと心配で駆け付けた彼らにキャラスティは広範囲に力を使ったにも関わらずケロッとした体でただ、ただ驚きに目を瞬かせるばかりだった。

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もし、感想欄に書くのは恥ずかしいけど「応援してるで」 と言ってくださる方がいらっしゃいましたらお気軽にどぞ
マシュマロ置いておきます_(:3 」∠) _

マシュマロは此方
──────────(=゜ω゜)──────────
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