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転生令嬢は平凡なので悪役に向いていないようです ──前世を思い出した令嬢は幼馴染からの断罪を回避して「いつもの一杯」を所望する──  作者: 京泉
第二章 「悪役」と「ヒロイン」の物語

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「ヒロイン」なのに 上がらない好感度

 父親の「もう一つの仕事」を知った夜。

 なんて素晴らしい事だと胸が高鳴った。

 無条件に自分を愛している父親は「祝福」の力を使わなくとも何でもしてくれる。

 そしてバルド・ディクス公爵はその仕事の相方⋯⋯いや、共犯者。

 片方が裏切ればもう片方も咎を負う。

 そうならない様に牽制し合い、守り合う両者の関係は公爵家が後ろについたのと同じだと笑いが込み上げた。


──気に入らないものはお父様とおじ様に消して貰えばいい。


 ランゼは掛けシーツに潜り溢れる笑い声を上げる。


──私の場所を奪ったのが悪いのよ。「悪役」のくせにチヤホヤされてムカつくったらないわ。


 思い浮かべればそれだけ憎しみが募る。

 それはランゼが「当たり前」に手にしなければならない物を他者が手にしている事へのただの嫉妬。


──キャラスティを消すには⋯⋯フレイとアメリアが先ね。


 ランゼの「前世」「アイミ」はカースト上位のグループに入る為に地味な友人から上ランクのグループに乗り換えていた。

 地味な友達が上のグループとは互いの関わりがないのを良い事に有る事ない事を上ランクの人達に「相談」の形で打ち明け、近付いた。

 ランクを上げる度に同じ様に「相談」しては乗り換えを繰り返し、カースト上位グループの一員になった時は念願が叶った達成感と満足感に満たされた。

 「アイミ」にとって友人は自分が上がるための踏み台に過ぎなかった。


──私はこの世界のヒロイン。上位なの。他はどうせモブと悪役だもの、要らないし目障りなものは消さなきゃ。


 この世界の上位グループである攻略対象者の攻略がうまく行かないのはイレギュラーな行動をしている目障りな「キャラクター」のせい。

 

 先にフレイとアメリアを消せば親しい友人を無くしたランゼに同情が向けられるだろう。

 キャラスティが居なくなればリリックとベヨネッタは「ゲーム」の様に嫌がらせをしてくるはず。


 ベッドを降りたランゼはメモを取った。


・フレイとアメリアを「玉」として攫わせる。

・二人が居なくなった後、キャラスティに近付き「仲良が良いフリ」をする。

・警戒心が無くなった所で「玉」にする。

・キャラスティを消した後はリリックとベヨネッタが、嫌がらせをしてくるように誘導する。

・「相談」をレイヤー達に持ち掛けて近付く。爵位の高い親友を作れば攻略対象者との接点も増える。


 ランゼは自分で書いたまどろっこしい筋書きに苛々した。

 本当はキャラスティを直ぐにでも消したい。だが、その前にフレイとアメリアを消さないとならない。焦りはあるが慎重に事を運ばなくては父親とバルドは終わりだ。


 ペンを止めたランゼの視界に鏡台が入り込んだ。

ハリアードに来る前日に映った「お姉ちゃん」は姿を現さない。

 何の意味があってあの時に姿を現したのか。なぜ「ブローチ」を置いたのか。未だに分からない。


──ブローチ⋯⋯何か忘れてる気がする。


 いくら「前世」があろうともランゼは年相応。

 「前世」と「今世」、単純に足算された年齢が人生経験の数とはなり得ないもの。

 魂が同じなのだから性格が影響され、「前世」の知識と経験が役立つ事はあっても、今世でも知識と経験を積まなければ身に付かないものであり、子供であれば子供の知識しか持てないものだ。


 今はまだ引き返せる。


 「ゲーム」の通り「ヒロイン」は何でも叶うと慢心し、今世を生きる事を怠っているランゼには想像力も知識も経験も身に付いていなかった。


 引き返す考えなど一欠片もない。


 ランプの光を受けて鈍く光るブローチの宝石達。

 ランゼはその曇りに気付く事は出来なかった。


────────────────────


 クレア王妃から貰ったボンボニエールの中にキラキラとした砂糖菓子が詰まっている。


 いつもの四人の姿がいつもの中庭に有った。

 キャラスティは夜会での出来事と、エミールに連れて行かれた王宮でダリオン国王に目通しした事を三人に話していた。


 キャラスティが「国王公認悪役令嬢」だと胸を張れば吹き出して一層賑やかな声が上がった。

 「程々にしなさいよ」とリリックが窘めれば「一番「悪役」に向いていないわ」とベヨネッタが笑う。


「ベネの言う通りよ。キャラは自分が「悪役」になれば私達が「悪役」にならなくて済むとか思ったんでしょ? お見通しよ。そんな事考える人は「悪役」に向かないわ」

「レイまで私の心読むの上手くなってる」

「リリーもベネも簡単に読めるわよ」


 頷く二人に返す言葉がないと一粒砂糖菓子を口に放り込み高価な菓子なのだと丁寧に溶かしながらキャラスティは口を尖らせた。


「ありがとうね、キャラ。でも、絶対一人でやろうなんて思わないでよ。「ゲーム」だなんだって正直言って馬鹿馬鹿しい話なんだから危ない事したら怒るからね」


 グーに握った右手を上げたリリックの怒る仕草に再び賑やかな声が上がった。


「楽しそうにやってるな」

「テラード様、ブラント。会議は終わったのですか?」

「うん。お茶、貰える?」

「あっ! わたしが淹れるわ。さあブラントここに座って! 私の隣よ」


 レイヤーは苦笑しているブラントを隣に座らせ、いそいそとカップに紅茶に似た色のお茶を注いだ。

 キャラスティの隣に座ったテラードがふわりと上がった香りに「懐かしい」と呟いた。


「ほうじ茶?」

「この世界には緑茶があるのに探しても無かったので緑茶葉を焙じました」

「ああ、そうか緑茶を焙煎した物がほうじ茶だったっけ」


 芳ばしい香りに「懐かしい」と繰り返しテラードはブラントに助けを求められレイヤーを宥めているキャラスティを眺めた。


 転生者。

 レイヤーとテラードは早い内に「前世」を思い出した分「前世」からの性格と「今世」の性格が融合している。

 レイヤーはその身分から自信家で傲慢な部分はあるが、陽気で友人想いなのは「前世」からの性格だろう。

 テラードも飄々とし、軟派ではあるが、一歩引いた物の見方とお節介な所は「前世」からのものだ。


 だが、キャラスティは「ゲーム」のキツイ性格でも嫉妬深くも無く、サッパリとして人に興味が無さ気だった「前世」のサクラギの性格でもない。

 思い出したのが最近だからと言う訳でもなく、レトニスに想いを寄せるところを「前世」の記憶によって避けていた時期が影響した性格かとテラードは推測したが、レトニスに聞く限りキャラスティは子供の頃からやたら自己肯定感が低く一人でいる事が好きだったと言う。

 「子供の頃、良くしゃがんでじっとしてるから何をしてるのかと声を掛けたら「蟻を数えてた」って言うんだ。可愛らしかった」と照れながら話したレトニスに「それでときめくお前もどうかと思う」と突っ込んだのは記憶に新しい。


──と、言っても友人が居ないわけでもないんだよな⋯⋯。


 テラードは黙々と言うのだろうか、淡々と生きている。そんな印象をキャラスティに感じていた。


──この世界のランゼとキャラスティ、どちらかと言ったらキャラスティの方が「ヒロイン」らしい。蟻、はともかく⋯⋯。


 「ゲーム」において主人公は出来るだけ「平凡」で「無個性」に近づける。プレイする側に想像の余地を作り、投影出来るように。

 その通りにテラードはキャラスティにサクラギを投影している。

 たまにサクラギが見えるキャラスティに胸が騒ぐのはサクラギとキャラスティを重ねて見ているからだとテラードは何度もそう思い込もうとしていた。


──ダメだ。これを認めたら切なくなりそうだ。


 頭を軽く振るテラードに気付いたキャラスティが隣に座り直しほうじ茶を一口飲んで「ほぅ⋯⋯」と息を吐いた。


「ほうじ茶って落ち着きます。縁側⋯⋯テラスで日向ぼっこしたくなります」

「縁側いいよな。先輩は縁側でビールが最高ってよく言っていたよ」

「ああっ言いました! ビールがあれば何でも最高なんです」


 テラードは出逢った頃に比べると笑顔を見せるようになったキャラスティに目を細めた。

 向けられた笑顔がふいっと外され、いつの間にかリリックとレイヤーがブラントを取り合いしている方へ向けたキャラスティは視線に気付いたベヨネッタと頷き合うと緊張した面持ちでテラードに向き直った。


「テラード様⋯⋯「ブローチ」の事、何か分かりました?」

「ああ、それが、作ったものを「マナ」に渡したのは思い出しているんだ。だけど、その後どうなったのかは分からない⋯⋯先輩の⋯⋯」


 テラードは「最期」と言い掛けて言い淀んだ。話す必要は無いだろうと。

 喪失感の中幸せを願ったサクラギの最期をテラードは覚えている。グンジはサクラギを大切に想い、愛していた。

 「マナ」もサクラギにすがり泣いていた。

 グンジとサクラギに「ごめんなさい。ごめんなさい」と何度も何度も叫んで。


「テラード様?」

「いや、ごめん「夢」は自分の意思で見られないから。「マナ」の「ブローチ」が先輩の気掛かりなのは確かだろうね」

「そうですよね⋯⋯。私も意識して寝るようにしているのですが何も見られなくて⋯⋯」

「俺も意識するようにしてるから何か分かったら直ぐに教えてね」


 「はい」とキャラスティが少しだけ残念そうに表情を曇らせる姿がテラードには後ろめたかった。

 「マナ」に渡した「ブローチ」がまさかこの世界で自分達を惑わせる原因になったのかと。


「頑張ります」

「だな。それしかないよ──うっわっ!」


 キャラスティの頭をポンポンと撫でる手を急に捕まれたテラードが「前にも似た状況があった」とバランスを崩した。


「テラード⋯⋯軽々しく触れるな」

「遅かったなレトニス。挨拶みたいなものだろ? こんなの。俺は嫌がられてないし」

「──っ! キャラも、嫌なら嫌だって言わないと伝わらないよ? 嫌だよね?」

「え⋯⋯別に⋯⋯恥ずかしいけど嫌じゃない、かな」

「⋯⋯俺は嫌がられたのに⋯⋯初めてのデートはアレクスに先を越され、初めての夜会はエミールさんにエスコートを取られ、初めてのドレスだってユルゲンとだし⋯⋯初めてのダンスはシリルとブラントだった。

テラードお前は「前世」からの付き合いだとか言ってるじゃないか」

「うわあぁぁ⋯⋯」


 レトニスの愚痴にキャラスティが盛大に引く。

 嫉妬の目で睨まれたテラードは「断罪」を怖がられていたのだから仕方ないだろうと肩を竦めた。


──レトニスが嫉妬してるんじゃ、レトニスルートはどっちが攻略対象者だか。


「俺だって初めてがしたいっ!」

「っ!? 言い方ーっ!」


 「言葉を選べ」とキャラスティは真っ赤になってレトニスから距離を取る。

 

 レトニスは避けられていた反動で鬱積が解放されてからは顕著に直接的にアプローチを掛けて来るようになった。

 キャラスティは避けていた申し訳なさから甘んじて受けるつもりではいるが、とにかく重い。

 想いが重い。


「うわっレト、キモチワルイ」

「前にも言いましたが紳士的ではありませんね」

「私も良くないと思います」

「レトニス様、懲りないわねえ」


 友人達の冷えた視線を受けてレトニスは何が悪いのかと不機嫌にそっぽを向く。


 はた、とレトニスが本題を思い出したと咳払いした。


「そうだ、今日はシリルとユルゲンが「彼女」に付いているんだ。それでいつもと違って彼女の友人も一緒だって」

「フレイとアメリア? だったら二人が「魔法」に掛からなくていいんじゃない?」

「だと、いいんだけど。キャラも陛下のお墨付きだからと言っても、無謀な事はしないで」


 いくらランゼも友人の前で「魔法」は使わないだろう。

 それが甘い考えだったとキャラスティはすぐに後悔する事になった。

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もし、感想欄に書くのは恥ずかしいけど「応援してるで」 と言ってくださる方がいらっしゃいましたらお気軽にどぞ
マシュマロ置いておきます_(:3 」∠) _

マシュマロは此方
──────────(=゜ω゜)──────────
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