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転生令嬢は平凡なので悪役に向いていないようです ──前世を思い出した令嬢は幼馴染からの断罪を回避して「いつもの一杯」を所望する──  作者: 京泉
第二章 「悪役」と「ヒロイン」の物語

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「悪役」だから 公認悪役令嬢です

「お菓子をどうぞ」「野イチゴの紅茶よ」「遅い時間のお菓子は背徳感あるけど美味しいのよね」


 ほんのり赤みがある紅茶が淹れられた見るからに高そうなカップと、一粒でパンが買えそうな砂糖菓子が乗せられたこれまた高そうな菓子皿が並べられ、キャラスティは引きつりそうな表情筋を両手で押さえた。


 通されたのは王妃専用の応接室。

 アイボリーで統一された部屋に意外とシンプルだと感じたのは最初だけで、王妃の身の回りを整える品なのだから飾られた調度品も家具も最高級品なのではないか、何気なく触れて小さくとも傷なんぞ付けたらと震えが起き、キャラスティはそろりと家具達から距離を取った。


 促されたソファーは細かい刺繍が施され、柔らかいのに程よく弾力があり、自分のベッドよりも寝心地が良さそうだ。ソファーで心地が良いのだからさぞかしベッドは天国仕様だろう。


「城の空気に当たってしまっている様ね。外の空気を入れましょう」


 クレアの一言で侍女達が窓際に立ち、大きめの扇子を扇いだ。扇られた空気がフワリと野イチゴの香りを運び、圧倒的高級感に囲まれ居所がないキャラスティの緊張の糸を緩めて行く。


「顔色が戻ってきたわね。真っ青どころか真っ白だったもの。落ち着いたかしら?」

「王妃殿下のお手を煩わせて申し訳ありません」

「煩ってなんかいませんよ。私がキャラスティとお話がしたかったのですから」


 落ち着いたかと聞かれて、落ち着かないとは返せるはずがない。落ち着ける訳がないのだ。目の前に居るのはこの国の女性の最高地位に立つ「王妃」。

 たった一つの失敗で気分を損ねさせればキャラスティの未来だけではなく一族の未来をも終わらせてしまえる権力を持つ。


 何が失敗に繋がるか計り知れない状態で出された紅茶も菓子も手を付けないのは失礼だと分かっていても、中々手が伸びないでいるキャラスティを見かねたクレアが隣に移動して来た。

 「では、一緒に飲みましょうね」とカップに手を添えられて驚いたが、キャラスティはされるがままクレアに委ねた。


「あらっ、子供扱いしてごめんなさい。アレクスが幼い頃は好き嫌いが多くて、こうして一緒に食べたのです。特にソラマメには苦労したのよ」

「あのアレクス様が、ですか?!」


 つい、口を突いて出た言葉に「しまった!」と恐る恐る伺うが「あの、アレクスがよ」と笑うクレアに、怒らせてはいないとキャラスティは胸を撫で下ろした。


 甘い香りと渋みを一口、二口と含めば漸く緊張が解れて行く。

「大丈夫ですよ」と肩を抱かれればクレアに実家の母親を思い出してキャラスティに笑顔が戻った。


「もう大丈夫そうね。そろそろ行きましょうか。このお菓子は持って行きなさい」

「有難うございます⋯⋯あっ、藤の花ですね」


 手の平に乗せられたのは薄緑に紫の藤の花が描かれた丸いボンボニエール。

 クレアはボンボニエールを大事にハンカチに包み、嬉しそうなキャラスティに目を細めた。


────────────────────


 ハリアード王国国王、ダリオンの執務室。


 エミールからディクス公爵家での報告を受けたダリオンは溜息を吐きたいのを抑えていた。


 アレクスの立太子は卒業後に予定されてる。

 王族に生まれ、正室第一子の男子だからとそのまま「国王」の継承者になれる訳ではなく、学園で求心力と統率力を示し、物事を見極める目と広い視野を身に付け、将来の人脈を作る事が条件だった。


 今までのアレクスであれば、予定通り卒業後に王太子となり、いずれ国王になるのは何の問題も無く見えた。

 それが、この数ヶ月のアレクスと将来側近となる四大侯爵家の嫡子に対して風向きが変わっていた。


 ある一人の令嬢に入れ込み人目も憚らず戯れている。


 立場のある身だ。色恋に溺れる姿は失態でしかない。

 上級貴族達の嫉妬からくる陰口程度ならば言わせておけば良い。上に立つ以上、言われた分「力」と「説得力」を身に付け跳ね返せなければ引き摺り下ろされ、潰されるだけだ。


「アレクス、レトニス。お前達は自分の身に起きている事は把握しているのだな?」


 「はい」とかすれ気味に答える二人にダリオンは訝し気に目を細めた。


 ならば何故無抵抗に操られているのか。精神操作も毒への抗体も後継者教育で身に付いている二人なのに無抵抗過ぎるとダリオンには疑問だらけだった。


「陛下、私もこの目で確認するまでは半信半疑でした。実際、ディクス公爵家でのお二人は「別人」だったと言えましょう」

「王族が得体の知れない物に操られていると言えんだろう。国が、崩れる」


 とうとうダリオンから溜息が漏れた。


 アレクス達が不思議な少女に惑わされているのであれば、彼らを国の為に切る事も厭わない。

 そうしない為にも、もう見えない振りをしてはいられなくなった。


「怪しい「魔法」を使う娘を捕らえればよろしいのでは?」

「まだアレクス達だけが惑わされているだけだ。それなりの理由を付けなければ国民の反感を受ける。それにディクス公爵が後見人としてハリアードに来たのだ。奴の面目もたたぬ程の「何か」を仕出かしてくれれば話は違うが」


 危険ではあるが「事」が起きれば大義名分が出来る。惑わされたアレクス達が惨事を起こすギリギリラインの「事」を起こさせる必要がある。


「アレクス様達が惑わされた状態でも怯まず「そうなる事」を受け入れている、もしかするとその先を「知っている」かも知れない者が居ますよ。彼女に協力していただきましょう」

「シラバート伯爵っ! やめてくださいっ!」


 エミールの提案にレトニスが声を上げた。

 

 確かに「彼女」は知っている。それどころかこの世界を作ったとも言っている。その為にレトニスから「断罪」される事を恐れられ、距離を置かれて来た。だからこそ「魔法」にかかった自分とは関わらせたくない。


「レトニス君、彼女、キャラスティは君達が惑わされると知っているね。「先読」の力があるとか? それでトレイル家は隠していたのかな?」

「違います。隠してなんかいません。キャラは、キャラスティは普通です⋯⋯大切な人、なんです」


「二人とも落ち着きなさい。何にせよ、キャラスティ・ラサークは今やハリアード王国にとって重要人物の一人だ。国に不信感を持たれ、他国へ行かれては損失になる。協力については余が話そう」


 ダリオンの決めた事に意は唱えられない。守りたいのは自分の身ではない、キャラスティだとレトニスは悔し気に目を伏せた。



「クレア王妃が参りました」


 沈黙が訪れた執務室に程なくしてクレアとキャラスティの参上が告げられ、クレアの後ろに緊張気味ではあるが大分顔色が良くなったキャラスティが続く。


「陛下、キャラスティをお連れしましたわ。さあ、ご挨拶を」


 クレアに促されたキャラスティは震えを抑え、ダリオンが差し出した手を取り深く腰を下げ最上級のカーテシーで敬意を表した。


「キャラスティ・ラサークと申し、ます。拝謁いただき、恐悦至極に、存じます」

「登城ご苦労だった」


 ダリオンの心臓に響く低音の声に足が震えるキャラスティはクレアの隣に控えた。


「公爵家での働きをエミールより受けた。礼を言おう」

「畏れ多いお言葉でございます」


 どんな報告を上げたのかとエミールを見ると和かに手を上げた。あの場ではキャラスティは何も出来なかったのだ。考えなしに立っていただけ。

 アレクスとレトニスを守ろうとして守れなかった。エミールが居なければ二人の評価が下がりキャラスティも無事ではなかったのかも知れない。


「早速だが、キャラスティ・ラサーク。そなたはアレクス達が「魔法」とやらに惑わされる事を知っているな? そして⋯⋯その先にある物も」


 キャラスティはダリオンの鋭い眼光に震え上がった。

 思わずクレアに縋りそうになり両足に力を込め精一杯に気を張った。


「そなたの事は調べてある。至って平凡、普通。何処にでもいる娘だ。だが⋯⋯普通ではないものを持っている。それが何なのかは、今は問わぬ」


 向けられる一言一言に息が苦しい。心臓が締め付けられて痛い。


「アレクスとレトニスはこの国の未来を背負っておる。その「普通ではない」もので、そなたにはこの者達が惑わされた状態になり、失態を行う前に止めてもらいたい。多少厳しめにな。

それにより辛い思いをさせるやも知れぬ、もしくは危険が及ぶかも知れぬが、必ずそなたの身と一族の安全は保証しよう⋯⋯悪いようにはせぬ」


──それって⋯⋯つまり「悪役令嬢をやれ」って事かしら。


 ほんの数分前まで怯えていたキャラスティの震えが止まった。


 「魔法」にかかった状態の攻略対象者はライバル令嬢を排除しようと厳しい言葉を投げつけるが、そんなものはキャラスティにはダメージがない。

 それよりも「断罪」が怖かった。自分だけならまだしも両親や弟、祖母と祖父に迷惑を掛けるのは避けたかった。


 それらの心配をする事無く「悪役令嬢」が出来るのだ。

 リリックもベヨネッタもレイヤーも、キャラスティが「悪役令嬢」を担う事で辛い目に合わせなくて良くなる。


 何よりもレトニスを守る事が出来る。


 安全を保証された「悪役令嬢」。

 国王陛下より任命された国公認の「悪役令嬢」。

 もちろん、嫌がらせなんかは絶対にしないが。


 自分にも出来る事がある。キャラスティの頬が自然と緩んだ。


「キャラスティ?」

「はいっ、あっ、申し訳ありません」


 年相応の笑顔をやっと見せたキャラスティにダリオンとクレアが目を丸くした。


「やってくれるか?」

「はいっよろこんでっ! あっいえ、謹んでお受けいたし、ます」


「ふふっ、やはりキャラスティは「特別」ですね。控え目のようで思い切りが良い」

「キャラ⋯⋯あれは絶対変な事考えてる」

「ああ⋯⋯それは俺でも分かる」


 エミールが面白いと笑う側で守るつもりが守られる立場に置かれた二人は肩を落とした。

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もし、感想欄に書くのは恥ずかしいけど「応援してるで」 と言ってくださる方がいらっしゃいましたらお気軽にどぞ
マシュマロ置いておきます_(:3 」∠) _

マシュマロは此方
──────────(=゜ω゜)──────────
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