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第85話 毒々しい

 ここまで来たからには三部屋目に行くしかねえってもんだ。

 俺はナイトストーカーを仕留めた後、グルゲルと問答し一つの結論を導いた。

 「相性次第では(英雄でも)敗退する」ってね。グルゲル以外の英雄がどのような戦闘スタイルなのか分からないけど、一定以上のスピードがないとナイトストーカーに苦戦することだろう。俺じゃ無理。マーモなら謎の居合ぶおんぶおんとかで仕留めてしまいそうな気もする。

 突然どうしたんだって疑問に思っただろう? いやあ、三部屋目にして「相性」ってやつを実感するとは、なのだよ。

 三部屋目のボスは毒々しい奴だったんだ。

 モンスターの見た目は俺のイメージに一番近いとなると、ガーゴイルかなあ。

 形は人型だ。ヤギのような角に黒光りする岩のような体、顔付きは不気味に赤く光る瞳、耳まで裂けた口、そして長くとがった耳。

 悪魔? を想起するも、岩のような硬質な体からガーゴイルに近いかなと思ったわけである。

≪ピットフィーンド≫

 表示名は「穴の悪魔」。中学の時に読んだ「悪魔辞典」によると、地獄の公爵だったかな。

 デーモン? の中でも上位にあたるモンスターなのだと思う。777階だから最上位に位置するモンスターが出てきてもおかしくはないので、驚きはないが、奴の纏っているオーラが紫色でとても毒々しい。

 もちろん、表示色は真っ赤である。

「グルゲル、つかぬことを聞くが」

「ん?」

「あの紫色の毒々しい奴、触れたらどうなる?」

「ただれる、しびれる、クソほど痛え、継続する」

 ……最悪じゃねえかよ!

 考え得る手はちくちく遠距離で攻撃するくらいしか浮かばない。なんかさっきも遠距離攻撃のことを考えた気がする。

 結論としてはボウガンの練習をしましょうだったな。

 裏ボスクラスの777階で吉田君に強化してもらったボウガンでも大してダメージを与えることはできないよねえ。

「無理そうだな、帰ろうぜ」

「触れても死ぬわけじゃねえだろ。そのままぶっさせばいいだけだ」

「大怪我するじゃないかよ」

「リーシアがいりゃ、あの紫を無効化できたりするんだろうが、頼りたくもねえだろ?」

 その時俺に電流走る。ピコーンって豆電球が浮かんだ気がした。

 そうか、魔法で何とかできるかもしれないのか。

「ミレイー」

「ミレイだよー☆」

「あの紫のをなんとかしたいんだけど」

「うーん、ミレイは癒しの魔法は使えないよー」

「紫に触れて怪我しないようにするのもできなさそう?」

「うんー☆ できないよー」

 ダメだった。僕の希望はついえた。さあ、帰るか。

 

 そんなわけで二部屋目に戻る。待っていた山田さんが笑顔で両手を振って迎えてくれた。

「戻るのが、とっても早いね」

「うん、次のボスは無理そうだから帰ろうかなって」

 その時、むんずと後ろから肩を掴まれる。

「行くぜ。ヤマダもな」

「山田さんまで連れてどうしようってんだよ、危ないじゃないか」

「心配ない。紫があるうちは魔法も使わねえし、万が一、ヤマダが狙われてもオレの速度なら余裕で追いつける」

「そういう問題じゃ……」

 何をやりたいのか察してしまったが、そんな作戦は嫌だ。グルゲル一人でやるわけじゃないんだろ。

 マーモだって怪我させたくないし。

『仕方ないモ、モがこいつを護るモ』

「お、そいつは助かるぜ」

 え、え、待って、ほんとに待って。いつも気を利かせることなんてないマーモットがなんてことを主張しているんだよ。

「んじゃ、一緒に叩くか、悪魔を」

「肩を組まれていい感じの笑顔をされても誤魔化されないぞ」

「何言ってんだよ、どっちかが攻撃したら、ヤマダのところまで引く、回復したら交代だ」

「グルゲル一人じゃ、回復の合間があるから無理だもんな……」

「無理じゃあねえが、ヤマダが怪我するかもしれねえだろ?」

「そうね……」

 攻撃をマーモにまかせっきりだったから、新たに入手したバールも使いどころがなかった。

 グルゲルと一緒じゃないときはバールを振り回すこともあったんだが……最近とんと使ってないのよね。

 って、そうじゃない。行きたくない、行きたくないって言ってんだろ。

 紫色のオーラに触れて、痛みに耐えながらバールでバチコーンとできる自信がない。

 なし崩し的にピットフィーンドへ挑まされようとしているところへ、山田さんが助け舟を出してくれた。

「松井くん、紫って? 私が回復させなきゃ、って硫酸何かなの……?」

「そんな感じみたいだよ……」

「そ、それはダメだよ、硫酸に突っ込むなんて、想像しただけでもうダメ……」

「だよな、うん」

 青くなってブルブルと肩を震わせる山田さんに激しく同意する。

 なのにグルゲルが無情にも俺を引っ張ってくるのだ。

「オマエが慎重過ぎることを忘れてたぜ。なあに、一回攻撃してみろ。すぐ引っ張ってやる」

「え、あ、ま、まあ一度くらいなら試すのもいいかも、痛いのは嫌だけど……突破できたらエレベーターだものな」

「ようやく乗ってきたか。ヤマダ、頼むぜ」

「う、うん」

 結局グルゲルの勢いに押されてしまった形になった。

 ま、まあ、一発限りで引いてもいいみたいだし、痛みで動けなくなったとしてもグルゲルが山田さんのところまで連れてってくれるなら死ぬことはないだろ。

 

 再び三部屋目へ突入。

 気が進まないが、山田さんにまでついてきてもらったんだ。腹をくくるしかねえ。

 山田さんとマーモを部屋の入口付近に残し、グルゲルの背に隠れるようにしてゆっくりとピットフィーンドへにじり寄って行く。

「そろそろ反応する距離だな」

「んー、そうだったか」

 なんて感じで更に寄るが、ピットフィーンドはピクリとも動かない。毒々しいオーラは放ったままで、こちらを待ち構えているんだろうな。

 紫のオーラとの距離が2メートルのところまで来てようやくピットフィーンドが動く。

 奴がガシンガシンと両手の拳を打ち付けると、両の拳の先から長い爪が出てきた。

 爪というよりは幅広のショートソードのようだ。あれに刺されたら致命傷を負うことは間違いない。

 

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