第61話 強制リセット
山田さん本人の場合で特筆すべきことは、山田さんが致死ダメージを受けた場合、絶命直前に「再起の杖」の「時間巻き戻し」が強制発動する。
「強制発動」は彼女の意思で発動するものでないため、戻り時間の指定も行わない。
じゃあ、どこまで巻き戻るのかというと彼女が「再起の杖」を入手した時まで戻る。
つまり、彼女は何度もリセットボタンを押し、最初に戻るを繰り返すことになるんだ。死亡エンドが無くなりますよ、ってのは素晴らしいチートと思う人もいるだろうけど、俺はごめんだよ。
なんでそう思うのかってっと、「強制的に」リセットボタンを押されるからだ。何度やってもリセット。数回、いや、二十回くらいまでなら耐えられるかもしれないが、無限に続くとなると地獄だろ。
山田さんが「強制リセット」の仕様を認識しているってことは、少なくとも数回は「最初に戻っている」ことが確定と見ていい。
1回目の「強制リセット」はきっと何が起こったか分からないはず。人によると思うが、三度目の「強制リセット」くらいで気が付くと思う。
「山田さん、話をしてくれてありがとう。気がふれたとか思われても仕方ない能力だし、話すのにとても勇気がいったよね」
「ううん、もっと早く松井くんに伝えようと思ったの。だけど、うまく進んでいる松井くんに余計な迷いやミスリードになっちゃうかもって思って」
彼女の言うことももっともだ。俺の場合、イルカがいるから彼女の繰り返しで得た情報と祖語が生じ、その結果、彼女の体験と伝聞を取るか、イルカ情報を取るかで迷いが生じる。
イルカ以外のことでも、俺がグルゲルに会う前に彼女の情報を聞いていたら変な勘違いをしていた可能性があった。
山田さんがグルゲルのことについて知っていた情報は「夜の時間帯に力を発揮し、戦闘モードになると周囲の味方を巻き込んでしまう」から攻略組から抜けた、だったのだ。
今聞いたらグルゲルらしい適当な理由で抜けたんだなあって分かる。だけど、事前にこの情報を聞いてからグルゲルと会っていたらどうだ?
変な誤解が生じたに違いない。
山田さんの「繰り返し」が分かったところで彼女から提案があった。
それは、彼女が体験したことを「全部教えてくれ」ではなく、俺が疑問に思っていることや知りたい情報で彼女が過去の繰り返しで得た情報がないか、にしないかいかってことだったんだ。情報が間違えている可能性もあることと、こと攻略情報に関しては既に俺の方が情報量が多いとのことだったからね。
しかし、その前に聞いておきたいことがある。
「余り聞きたくないけど……教室で山田さんが声をかけてくれなかったら、俺、あの時点で死亡エンドだったよね?」
「うん……、私が毎回最初にやることは松井くんを無事に教室から出てもらうようにすることだったの」
「も、もたもたしていた俺が招いた結果だから……助けてくれてありがとう」
「う、ううん、かなりかかっちゃって……」
ディープダンジョンのガチャを行わないままだったら、「見せしめ」に死亡エンドになるのか。
まあ、ディープダンジョンならあり得るよな。一人死ぬのを目の当たりにしたら、必死になることは想像に難くない。
対象が自分だったとなると笑い話にならんがね……。
山田さんがあの時声をかけてくれなかったら、俺は死んでいた。
彼女の繰り返しの記憶の中で俺は何度も何度も死んでいるのだから、俺が生き残ることで彼女の記憶しているストーリーとは大きく異なってくる可能性はある。
人と関わらない俺がストーリーに与える影響は微々たるものだろうけど、バタフライ効果って考え方もあるから、小さな波紋が大きな波紋になるかもしれないだろ。だからこそ、彼女も慎重になっていたのかも。彼女は「今回」のストーリーを「次回」に生かすことだってできるんだから。
彼女が俺を助けるチャンスはスタート時のみ、失敗したらまた次回になる。
俺の考えを読んだかのように彼女が補足をしてくれた。
「私は『毎回』、今度こそクリアしようと思っていたの。『攻略組』に参加したこともあったわ。数回参加したけど、却って邪魔になっちゃうことが分かっただけだったけど……」
「そうだよね、自分からクリアできず、で死亡エンドは、『戻る』と分かっててもやりたくないよな」
「うん……精神的にまいっちゃった回もあったの……」
「それでも毎回、俺を助けようとしてくれてありがとう」
死の感覚ってのを味わったことのない俺には彼女の苦しみが理解できない。きっと、もう二度と味わいたくないものなのだろうな。
安易に「次回」とか考えた自分を殴りつけたい。
自分の運命を聞けたことだし、彼女なら知っているかもしれない情報について尋ねてみよう。
「多分、『真理』なんじゃないかと思うのだけど、『神殿』を使うことのできるクラスメイトっていた?」
「聞いたことないわ。『神器』にもクラスチェンジできるような能力があるものはなかったと思う」
「防具作りとか、バフ効果のある秘薬を作ったりできるクラスメイトはいたりする?」
「あ……なんで私、今まで気が付かなかったんだろ。ポーション類とか錬金術みたいな能力を持っている人はいないわ」
な、なんと。錬金術系統がないのは驚きだ。
スキルになるのか特定の職業にならないと習得できないのか、そもそもないのか……謎が深まる。
「防具作りができる子はいるわ」
「ポーション作りができる神器がないのは、ワザとだよな、きっと」
「うーん、そういう『神器』がモデルになった世界にはなかったのかも?」
「そっちの方が自然だよね」
俺の心が荒み過ぎていたらしい。「世界の書」やらでイルカがディープダンジョンの元になった世界のことを語っていたが、一切覚えていないぞ。
ヘパイストスの槌のように万能鍛冶神器があったからといって、万能錬金術神器はあるとは限らない。
神器って言うくらいだから、伝説的な物品なのだろうし、ほいほい狙った性能を作ることはできないもんな。




