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第53話 面倒だモ、投げろモ

 真っすぐ、真っすぐ、狭い道は続いている。

 事前にグルゲルの「心眼(仮)」で調べた通り、今のところ罠は一つたりともない。

 グルゲルの心眼(仮)は、座り目をつぶり、しばらく無防備になるリスクはあるが、広範囲に周囲の構造を調べることができる。

 目の前を調べるよりは精度が落ちるらしいのだけど、俺がつぶさに観察するより遥かに精度が高い。

 素人の俺と比べるなって話だが、スカウトってすげえなあ。いや、スカウトがすげえんじゃなくグルゲルがすごいんだ。

「どんだけ続くんだ、この道」

「あと数分だな」

「分かるのか」

「風だ。風の流れがあるだろ」

 風だと言われましても、屋内だし風を感じることなんぞないのだが……。

 こんな時はイルカに尋ねるに限る。

「イルカ、俺にも風を感じることはできる?」

「テラスから飛び降りることを推奨します」

 こ、こいつううう。

 などとやり取りをしていたら、狭い道の突き当りまで到達する。

 道の先は次の階へつながる階段になっていたのだ!

「鈴木君はここから101階に向かったのかな?」

「行ってみりゃわかるだろ」

 グルゲルのおっしゃる通りである。行ってみるべし。

 ちなみに、正規の? 俺たちがボスを倒したフロアからも101階へ続く階段はある。

 イレギュラーな道である狭い道から次の階へ進んだらエレベーターに乗り込むことができないから、戻るとすれば95階まで戻らないといけなくなるな。

 もし鈴木君がこの道を進んで先に向かったとしたら、戻りが遅くなるのも納得だ。彼の性格からして95階に戻るってのはなく、105階まで進んじゃえだろうから。

 

 ◇◇◇

 

 さてやって参りました101階です。一応、表示も確認し101階であることは間違いない。

 罠解除の技能がなくとも、落とし穴から101階に来れば進むことができるというわけかあ。釈然とはしないが、救済措置は用意されている、のか?

 しっかし、あからさまに怪しいドクロの目の窪みに触れるのは躊躇するって。

 榊君たちはスルーして進んで固まるトラップを踏んだわけだし。

 101階は99階までと同じような床色、壁だった。変わり映えがないことで逆にホッとする。

「進んでみるか?」

「寝ずに動いているから、そろそろ休憩したいところだけど……グルゲルも休んでないんじゃない? 感覚が鈍ってこないか?」

「問題ねえ、この後寝ればいい」

「じゃあ、様子見だけでも」

「おう」

 99階と見た目的に違いはないが、100階で罠があったことから自然と警戒心が高まってもんだ。

 グルゲルに先行してもらい、罠に備えながら進む。

「お、さっそくおいでなすったぜ」

「罠があった?」

「いんや、モンスターだ。この感じだと四つ足の獣だな」

「うへえ」

 風か空気か分からんが、なんかの流れを感じ取ることでモンスターの存在も感知できるってことね。

 松井、完全に理解した。一応俺もミレイに五感強化してもらえばなんとなくだがモンスターがいるんじゃね、は掴むことができる。

 だけど、風は感じないぞ。

 さあて、今回のモンスターは……亀か。

 リクガメを巨大化させて、尻尾が蛇、甲羅は迷彩柄という派手なモンスターだった。

『カムフラージュタートル』

 表示色は紫色。100階のボス(ツインヘッドドラゴン)よりはレベルが低い。まあボスの次の階で出てくる雑魚モンスターの方がレベルが高かったらそれはそれで辛い。

 亀だけに動きは遅いが固いんだろうか?

「お、やる気だな、任せるぜ」

 グルゲルからぽんと肩を叩かれた。突然のことに固まる俺であったが、すぐに再起動する。

「あ、え、うあ、ミレイー」

 ミレイを実体化させ、彼女に身体能力強化をかけてもらった。

「がんばれー☆ マスター」

「おーやってやるぜ」

 ミレイの応援を受け、マーモを小脇に抱えバールを構える。

「ごめん、ちょっとカッコよくやってみたかっただけなんだ」

 誰にいうわけでもなく、マーモを一旦地面に置いて、バールをリュックにしまい込む。

 敵はカムフラージュタートル一体だけ。ならば俺のやることは回避し、攻撃できる距離まで詰め寄ることのみ。

 再びマーモを抱え、じわじわとカモフラージュタートルへ近づいて行く。

 さあて、どれだけ寄れば動いてくるかなあ。

『面倒だモ、投げろモ』

「あ、うん」

 この距離で何もしてこないってことは、遠距離攻撃がなく向かってくるわけじゃなく待ち構えて戦うスタイルだし。

「ほおおい」

 マーモをカモフラージュタートルに向かって投げる。俺の投擲技術も随分とあがってきたものだ、この分だと正確に奴の首元あたりで落ちる軌道だぜ。

 ぶおんぶおん。

 くるりと宙で一回転し蛍光灯を振るうマーモ。

 いつものごとく、カモフラージュタートルの頭がバラバラになり光の粒と化したのだった。

 マーモの蛍光灯って相手の防御力無効とかなんだろうか。当たればどんなモンスターでもバラバラにできる。いや、モンスターだけじゃない宝箱や扉までバラバラになるんだものな。


「おつかれー、んじゃ進むぞ」

「おー」

 ひらひらと手を振り歩き出すグルゲルに続く。 

 

 途中モンスターを倒しつつ(倒したのは全てマーモ)、進んでいたが1時間ほど歩いたところであることに気が付く。

「広くない? 101階」

「お、気が付いたか。直線で二倍くらいあるんじゃね」

「ま、マジか……罠を警戒しつつ徒歩だったら一体どれくらいかかるんだよ」

「いまんとこ罠はねえな。走るか?」

 軽い調子で聞いてくるが、走るのには躊躇してしまう。100階の嫌な記憶があるもので、どうしても踏み込めないんだ。

 直線の長さが二倍ってことは面積は4倍になる。

 正直、罠を警戒して進んでいたら1階層進むだけで相当な時間がかかり、5階層進んで帰還が厳しい。

 選択肢は二つ。

 罠を警戒し、途中で休憩して日帰りを諦めるか、罠を気にせず走って進むか。

「うん、一旦帰ろう」

「あいよ」

 問題が発生したら先送りにするに限る。明日の俺に任せれば今日の俺は困らない。

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