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第50話 復活っ!

 うおおおおおおおお。

 エレベーターの雄々しい声がじわじわと近づいてくる。

 待っている間手持ち無沙汰になって、グルゲルはもちろん山田さんも何やら考え込んでいる様子だったため、無言だった。

 こ、ここはコミュ強の俺が場の空気を和ませるべきじゃあないか。

「グルゲル、ええと鈴木君ってどこに行ったか分かったりする?」

「スズキ?」

「アグニを引いた男子生徒なのだけど」

「あ、ああ。アグニか。100階より先に進んでるんじゃねえか」

 う、うーん。あのトラップを突破して進んでいるとは俄かに信じられない。

 無事100階を突破していたとしたら、エレベーターに乗って戻ってきているはず。不可解なんだよな。

 かといって100階までで鈴木君が不覚を取ることもない。……って先ほど考えたことがループしている。

「100階までってトラップがあったりする?」

「いんや、オマエも知っての通り100階に向かう階段が初だぜ」

「う、うーん、ボスもリポップするんだっけ」

「そうじゃねえの? ああ、アグニが倒した後に俺たちが突入したと考えたのか」

 そうそう、鈴木君がツインヘッドドラゴンを倒してから、24時(0時)をまたいだらツインヘッドドラゴンが再び出現するよな。

 鈴木君が100階以降に進んでいた場合、何ら証拠が残っていないってことか。

「あ……」

 ひょっとしたら、と一つの案が浮かんだ、ところでエレベーターが到着した。

「来たぜ」

「先に榊君のことを解決しよう、山田さん、念のため降りるときは最後に出てね」

「うん!」

 グルゲル、俺、山田さんの順にエレベーターに乗り込む。

 100階のボタンもバッチリ出ているし、あとは到着を待つのみ。クッソ遅いんだよな、エレベーター。くっそうるさい癖に。

 あー、この虚無な時間、何とも言えん。

 つんつんと服を爪で引っかけられ足元を見やる。茶色いもふもふが鼻をひくひくさせ俺を見上げていた。このパターンは分かっている。

『ブドウを寄越すモ』

「みかんでいいかな」

 手渡すとはっしと両前脚でみかんを挟んでもしゃもしゃしだす。

 マーモに今度はマンゴーを与えて、それが食べ終わるころ、ようやく100階に到着した。

 

「山田さん、モンスターはいない、出てきて大丈夫だよ」

「うん、ありがとう」

 山田さんが俺の手を握り、俺の体に隠れるようにしてフロアを覗き見る。

 他の階層と異なり、先が見えなくなるまで広い空間に目を白黒させていた。

「100階はボスフロアみたいで仕切りが全くないんだ、俺も最初戸惑ったよ」

「ひゃあ、100階だけ全然違うんだね」

 慣れてきたらしい彼女は俺から離れ、右手を眉の上に当てきょろきょろとしている。

 一方で前を歩くグルゲルが振り返らずに俺を呼ぶ。

「おい、マツイ、まだ数時間はあるが、『作り替わり』の前にやっちまわんと」

「まだ10時間くらいあるけど、不眠不休だし、とっととやろう」

 山田さんと顔を見合わせ、グルゲルを追いかける。

 フロアリセットされちゃうとツインヘッドドラゴンと共にトラップも復活するよな、きっと。

 時間はたっぷりあると思っていたけど、山田さんの再起の杖による「巻き戻し」にどれほど時間がかかるか分かってなかった。


 てこてこ歩くこと10分くらい? で榊君が放置されているところまで到着する。

「山田さん、どれくらい前から榊君が固まっているか分からないんだ」

「私に相談が来たのが丸一日以上前だよね。30時間くらい巻き戻してみて、そこからじわじわとやってみるね」

「おお、微調整も可能とは」

「えへへ、結構慣れてるから任せて!」

 ふんわりとした笑顔になり、右手をくるりとすると再起の杖が虚空から出てきて山田さんの手元に収まる。

 神器は出し入れ自由なのが良いよね。俺はリュックサックにバールと果物を収納しているってのに。

 続いて彼女は慣れた様子で榊君に再起の杖を当てる。

 そんな彼女の持つ再起の杖に対し目を細め険しい顔をしていたグルゲルが言葉を漏らす。

「こいつは驚いた。初めて見たぜ、その|ミシカル≪神話≫」

「神崎君の神器は見たことあるんじゃないの?」

「カンザキ? あ、ああ、英雄候補の兄ちゃんか。たしかにありゃミシカル級だわ」

「グルゲルは神器のことは知らないの?」

 どうも話が食い違っているような。グルゲルは英雄のこととか、マーモやイルカのことについても知っていたから神器のことについても知っていると思っていた。

 ディープダンジョンはグルゲルの生きていた世界とは異なるのかもしれない。ただ、グルゲルの世界から多くのものをディープダンジョンが模倣していることは間違いない(本物かもしれないけど)。

 対するグルゲルは「んー」と首を捻り、自分の考えを述べる。

「神器ってのはミシカルのことでいいんだよな」

「たぶん、そう。クラスメイトはグルゲルのような英雄、俺のような真理、そして山田さんや神崎君のような神器をそれぞれ一つ持っている」

「俺は賢者じゃねえから、何でもかんでも知ってるわけじゃねえんだ。カンザキの剣とか、そこの杖は見たことがねえな」

「なるほど、グルゲルなら物語や伝説とかで知ってるものがあるかもしれないな」

「ああ、ミシカルってのはそういうもんだからな、ええと、あれだ、ドワーフの鍛冶師が己の全てを詰め込んだ槌とか、そういうのだろ」

「それそれ、そういうやつ」

 きっとそれ、吉田君の持っているヘパイストスの槌だよ。

「松井くん、たぶん、そろそろだよ」

「お、おお!」

 グルゲルと遊んでいる場合じゃねえ、さささっと山田さんの横へ並び榊君の様子をジーっと見つめる。

 ピクリと榊君の指先が動いた気がした。

「う……」

 榊君の口からくぐもった声が漏れる。

「榊くん!」

 山田さんが呼びかけると榊君の目に光が宿り、今度ははっきりと言葉をつぐむ。

「山田さん? 湊さんと|晴斗≪はると≫は?」

「二人とも無事だよ。榊くんがかばってくれたからって言ってたわ」

「よかった。山田さんが僕を助けてくれたんだね、助かったよ」

「ううん、私は最後ちょこっとだけだよ。榊くんを助けてくれたのは、松井くんと高山さんなの」

 山田さんの説明を聞いた榊君は、俺の方へ向き直り深々と頭を下げた。 

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