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29.家令見習い

 

 1週間もすると、フィル=リンは、家令見習い兼家庭教師代理という立場にすっかり落ち着いた。

 『家庭教師代理』というのは、私の現在の正式な家庭教師がシュターゼン伯爵で、伯爵が今出張中だから。


 なんで『家庭教師代理』になったかといえば、ひとえに、私のお茶に同席する為だ。

 基本、使用人とお茶を同席することはできない。けれど、家庭教師は別格。だって、『師』だからね。


 代理とか見習いとか何だかなーだけど、フィル=リンにはそれが似合ってる。


(どうせ、フィル=リンは殿下の物だし)


 つまり、臨時であっていずれ帰るということ。

 いま、フィル=リンがここにいておかしくなければ、肩書きは何でもいいのだ。本人もまったく気にしていないし。


「あー、ひ……妃殿下、おはようございます」


 リリアの一睨みにフィル=リンはこほんと咳払いをし、言葉を改める。


「おはよう」


 私はいつものようにうなづく。

 フィル=リンは、すぐに、私を『あんた』とか『姫さん』とか呼びそうになるのだけれど、リリアはそれを絶対に許さないの。

 フィル=リンが私を「あんた」と呼んだのを初めて聞いた時のリリアの豹変振りはすごかった。普段、楚々とした侍女っぷりが板についているだけに余計に恐ろしかったといってもいい。


「アルトハイデルエグザニディウム伯爵公子、言葉遣いにはくれぐれも充分気をつけてくださいませ。妃殿下は寛容でらっしゃいますから何もおっしゃいませんが、貴方の無礼な物言いをそのままにしておきますと妃殿下が侮られますの」

「あー、気をつけマス」


 『くれぐれも』『充分』って重ねて強調してるよ。用法も語調も!

 フィル=リンは神妙な顔で聞いている。

 

「リリア、フィル=リンをそんなに怒らないであげて。別にフィルが私を軽んじてそう呼ぶわけではないのだから」

「妃殿下、ダメです。ここで甘い顔をしては。……気を抜くとどうせすぐに『あんた』とか言うんです。『あんた』ですよ『あんた』!いくら学者に変人が多いからって、妃殿下に対して『あんた』は許されませんよ!」


 リリア、表情変わってるよ……。

 学者って変人が多いんだね、初めて知った。

 普通、高等教育を受けるともっと礼儀正しくなるんじゃないかなと思ったけど、別に大学って礼儀を教えるところじゃないもんね。

私の知る『ヴェラ』が、殿下とかシュターゼン伯爵なので、どちらも理知的できっちりしているからそういうイメージが強かったのかも。


「アルトハイデルエグザニディウム伯爵公子自身が妃殿下に敬意がないわけではないことは承知しております。が、それを聞いた者が妃殿下を侮るのです。その程度で侮る者などどうでも良いと妃殿下は思っておいででしょうが、本人の為にもならないことですから」


 きっぱりと言い切るリリアに、私はちょっとだけ嬉しくなった。


「……リリアは優しいね」


「は?」

「え?」


 リリアとフィル=リンがおかしな顔で私を見る。


「なんで、そうなるんです?」

「別に優しいわけではないと思いますが……」


 フィル=リンがおかしげな表情で問う。リリア自身も不思議そうだ。


「んー、でも、変な言い方だけど、結果としては優しいと思うよ。……だって、リリアに注意されたことによって気をつけるようになれば、結果としてフィルが酷い目にあう確率は減るし」


 二人とも考えてみようよ。私には、あらゆる意味で最強の保護者がついているんだよ?


「あ」

「……まあ、そう言えなくもないですね」

「回りくどいかもしれないけれど、結果としてはそうだと思うの。……だって、殿下はわりと過保護だと思うし」


 そういうのが耳に入ったら、殿下は絶対に不快に思われるだろう。

他は聞き流すことができても、自分のものであるフィルがそういうのは……たぶん、許さないと思う。

 フィル=リンが、やば、と小さく漏らす。


「だから、何かあったらフィル=リンのことは殿下に言いつければいいわ」


 その、うっかりしてた!みたいな表情がおかしくて私はくすくす笑う。



(それに……)


 私としては、国王陛下のなさりようも気になる。


(いろいろな意味で、出方の読めない方だし……)



「勘弁してください……マジで」


 意識を目の前に戻せば、フィルが心底参った、という表情をしている。

 本当に殿下には弱いんだなぁと思う。

 

 たぶん、殿下は、ご自身が侮られることは何とも思わないだろう。

その侮りなど鼻で笑い飛ばすに違いない。殿下は他者のそんな矮小な態度は気にも留めないに違いないと思う。

 けれど、私が侮られることをお許しにならないと思う。

 ……かつてはともかく、今はもう。

 

「わかりました。公子が暴言を吐いたら、次からは王太子殿下に申し上げることにしますわ」

「ご容赦ください。ラナ・ハートレー」


 フィルは即座に言葉を改めた。

 切り替えが早いなぁ。

 でも、リリアを苦手にしてたり敬遠してるって感じでもない。


「ならば、よーく注意を払ってくださいね」

「かしこまりました」


 フィルは軽く頭を下げる。フィルもやれば普通にできるんだね。

 そうだよね、王太子殿下の乳兄弟だもん。おんなじように礼儀作法とかやってるはずだもんね。




 二人を見てたら、なんか、これでフィル=リンとリリアの力関係というか立ち位置が完璧に決定したなぁと思ったよ。


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