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19.招待状

「妃殿下、王妃殿下からのお茶会のお招きがございました」

 差し出されたのは銀色のお盆の上のカード。双頭の竜の王家の紋章がエンボス加工されてる。

 すごい、どうやって作っているんだろう?すごく細かくて感心する。 

「……………困る。マナーとか覚えてないのに」

「王太子殿下と毎朝、お茶をご一緒している方が何をおっしゃってるんですか。問題があればとっくに殿下が注意してらっしゃいますよ。王太子殿下は厳しいんですよ、そういうの」

「だって、女の人のほうが細かいでしょう」

 女の敵は女なんだよ、リリア。

「お断りすることはできません。王妃殿下のお招きというのは、命令ですから」

「はい」

 気が重い。えーと、何か楽しいこと考えよう。

「あ、そうだ、リリア、今日はお夕食はこちらでとらないから」

「どうかしましたか?」

「王太子殿下が、たまには夕食を一緒に食べようっておっしゃったの」

 初めての夕食のお誘いだった。

 ちょっと嬉しい。

 朝のお茶も良いけど、夕食を一緒に取るって親密な感じするでしょ。

「まあ……良かったですわね」

「うん。殿下と一緒ならごはん、おいしいかなぁ?」

「殿下にまずいものは食べさせないと思いますよ」

「そうだよね」

 楽しみだよ。何が食べられるかな。

 夕食は煮込み料理が基本だから、食べられないほどまずいものってあんまりないと思うんだよね。

「で、現実逃避は終了して、王妃さまのお茶会ですけど」

「……うん」

 リリア、容赦なし。

 どうも、最近、立場が弱くなった気がする。

「明後日の午後になります。お衣装は先日仕立てあがったものがありますから」

「……袖とか、レースばっさばさじゃないよね?」

「大丈夫です。間違ってもお茶に袖のレース突っ込んだりしないようなデザインになってますから」

「ありがとう」

 笑い事じゃないんだよ。いま、ダーディニアの宮廷では、レースが流行ってるの。

 わざわざレースたっぷりの付け袖するくらいなんだから。男の人だってレースフリフリだよ。

「……王妃殿下と二人きりじゃないよね」

「違います。後宮の女性方全員をお招きですから」

「良かった」

 それだけでもちょっとは気が楽になる。

「王妃殿下が苦手でらっしゃいますか?」

「……………うん。実は」

 いや、王太子殿下も最初は恐かった。

このタイプは絶対に無理だと思ったもん。でも、今は何でもないからそんな風に思うのは申し訳ないことだ。

 でも、あ、ダメ……とか、苦手……って思ってしまうのって、どうにもならないよね。理性でそう思うわけじゃないから。

「妃殿下は……4歳から9歳くらいまでを王妃殿下の手元でお育ちになったんですけど……」

 覚えてらっしゃいませんよね、その分だと、とリリアが苦笑する。

「うん。……えっ。じゃあ、ここの宮は空だったの?」

「はい。建設されてから1年とちょっと……妃殿下が4歳の時に、台所を潰すことになった例の毒物事件があったんです。それで、妃殿下は後宮の王妃様に引き取られたと聞きました」

「……………………ごめん、欠片も覚えてない」

 第一王妃ユーリア殿下……王太子殿下のご生母。つまり、私には義母であり、養母であるという方。

 なのに、まったく蘇ってくるものがない。

 ここまで綺麗さっぱり覚えてないのは珍しいよ。だいたい、おぼろげに何か覚えているのに。

「妃殿下が王妃殿下の手を離れ、こちらにお戻りになったきっかけは、王太子殿下に側妃をというお話が出たからなんです」

「そういう話があるのが普通だよね」

 年齢も年齢だものね。

「ですが、王太子殿下はそれをきっぱり拒絶されまして……自分の妃がいつまでも本宮にいるからそんな話が出るのだとおっしゃって、妃殿下をこちらにお迎えになりました」

「で、一週間とたたないうちに賊に襲われて乳母が亡くなったと」

「…………はい」

 何故ご存知なのですか?とリリアが問う。

「殿下がいろいろ話してくれたの。皆はそういったことを隠すだろうが、覚えていないことで危険に踏み込むかもしれないからって」

 あの淡々とした口調で事件の詳細を話してくれた。

 殿下の目線はとても客観的で、話もまとまっていてわかりやすい。

 ここ最近の話題は、だいたい殿下の知っている私の過去話だ。

「……………………お茶の時間にふさわしい話題じゃありませんよね」

「ナディル殿下にそれを言っても無駄」

「そうですね」

 そこで納得されるのが王太子殿下の為人ひととなりというものだ。

「犯人はティレーザ家に雇われた三人の男と一人の女。女は、こちらの宮を開く為に新たに雇われた侍女だったと聞きました」

「そうです。ティレーザ家というのは、当時、国王陛下の寵妃とまで言われていた愛妾リリアナ様のご実家でした」

「乳母のマレーネ夫人は、当夜、こちらの宮に宿泊するはずだった王妃殿下と間違えて殺された……と」

「はい。……王妃殿下は夕食まではこちらにいらっしゃったのですが、お風邪を召して、万が一にも妃殿下にうつしてはならないとおっしゃって本宮にお戻りになったのです」

 王妃殿下が義理の娘である私の宮に宿泊するという意味があんまりよくわからない。

 離れたくないと思うほど仲が良かったのだろうか?

「私と王妃殿下は仲が良かったの?」

「さあ……こちらには当時を知る人間はほとんどおりませんから……私がこちらに参りましたのも事件直後ですし」

 まあ、そうだよね。うちの侍女たち皆若いし。

「私がお目にかかった時にはもう、妃殿下はほとんど周囲に関心を示していませんでした」

 そう。その時には私は既に人形姫だったわけか……。今度、殿下に聞いてみよう。いつからお人形になってしまったのか。

「襲撃犯はどうなったの?」

「賊はすぐに取り押さえられて、裁判の後、死刑を宣告されました。……この事件の処分はかなり大きなものになりました」

「どうして?」

「妃殿下が巻き込まれたことで、国王陛下が激怒されたからです。結果、襲撃を命じたディレーザ家の当主一家は領地召し上げ。家名断絶。当主とその子息は死を賜りました。リリアナ様は修道院に送られ、そこから出ることを生涯禁じられました。また、ディレーザに連なる家は貴族院の名簿から削除されました」

 貴族院の名簿から削除されるということは、貴族でなくなるということだ。

 張本人は自業自得だが、何処まで知っていたかわからない人々も数多く巻き込まれたのだという。

(でも……)

 たぶん、私がエルルーシアを殺した犯人に望んでいるのもそういうことになるのだろうと思う。

 「国王陛下は温厚でらっしゃいますが、妃殿下に関する限りそれはあてはまりません。陛下の妃殿下に対するお心遣いは、並大抵のものではないのです」

「……ちょっと行き過ぎだよね」

 私が言うのも何だけど。

 それだけ、陛下は私の母に対する後悔の念が強いのだろう。

「そうですね。……でも、これまでもいろいろありました妃殿下に対する事件の犯人は、捕まれば死刑で、首謀者は家門断絶の上、賜死というのがパターン化しています」

 嫌なパターン化だ。

「事件後、陛下は妃殿下を後宮に戻すように命じましたが、王太子殿下がそれを止めました。『アルティリエは、後宮の女ではなく我が妃である』とおっしゃいまして」

「王太子殿下は、後宮があまり環境がよろしくないからっておっしゃってたわ。後宮で女達のくだらない争いに巻き込まれたり、余計なことを吹き込まれたりするのも厄介だからって」

「もうちょっと言い方ってものがあると思うんですけど……」

 殿下は私と話す時、まったく言葉を飾らない。

 いつも不機嫌そうに見えるし、そっけない口調は、時々怒られてるんじゃないかと錯覚しそうな時がある。

 でも、最初に見た時のあの空虚な作り笑いもなければ、甘い声音で話し掛けられることもないのだ。

 

 ……私は、それでいい。ううん。それがいい。


「でも、それが殿下だから……」

「随分と仲良くなられたようで、妃殿下の侍女としては嬉しい限りです」

「……リリア、からかわないで」

「からかってなんかいません。事実を述べたまでです」



 嘘ばっかり。絶対からかってる。

 そんなこと言われると意識するでしょ。別にそういうのじゃないのに。



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