終息に向けて
今回短いです。ゆまから見た今回の騒動。
「予想通りって言えば、予想通りだったけどねぇ」
郡は、苛立たしげに髪をかきあげながら溜息を吐き出しました。
魔法科教棟は今や戦場さながらです。まあ、普通科との合同授業の時に事を起こさなかった分、良心的なのかもしれませんが。
「事前の協議で懸念されたように、やはり我々は視認されてすらないようですね」
「駆けるにも数が多すぎる上にぶっ壊れたガラクタが邪魔してやがってとてもじゃねぇが進めねぇな。ソイツ単体ならまだしも、おまえを乗せてとなるとそれすら危うい」
実はあの後もう一度色々と話し合ったんですよね。不満が爆発するとなると、どのような形で暴動が起きるのか、とか、どうやって解決するか、とか。
とりあえず、抵抗がままならない無力な生徒は速やかに保護しそれ以外は追々回収していくことと、暴動が広範囲に渡った時にはどうにか目立って指示を通し、それでも止まらなかった場合には無差別に鎮圧を開始することだけは決まっていました。まあ、それ以外決めようがなかったともいいます。
「俺が土で高台を作る。おまえは取りあえず全員の動きを止めろ。視認できりゃいけるだろ」
「わかりました。それなりの高さが必要かと思いますが、魔力の量は足りるので?」
首を傾げれば、御上土くんは嘲るように鼻で嗤いました。
「舐めるな。その程度、御上土の俺には容易い」
その目には紛うことなき自信が湛えられていて、自分の名前をとても誇りに思っていることが窺えました。どうせ無理でも無理じゃなくてもやらなければなりませんし、本人が大丈夫って言ってるならそれを信じますけど。
高坂くんは、そんな御上土くんをちらりと見やって、静かに告げました。
「やせ我慢じゃねぇならいいが。俺はゆま以外庇わねぇぞ」
「そのためだけに呼んだんだからゆま守るのは当たり前じゃん。何考えてんの?」
危うく郡と喧嘩になりかけましたが、争っている場合ではないとお互いに気づいたらしく、多少険悪な雰囲気を残しながらもお互いに矛を収めたようでした。
「―いくぞ」
「ええ」
ぐんぐんと上昇していく目線。
豆粒のような生徒たち。
生徒一人一人を視認することはできなくても、彼らが扱っている「魔法」事態を捕えられればそれでいいのです。
「―鎮まりなさい、」
全ての精霊に、呼びかける。
動きを止めて。形を成さないで。どうか魔法に成ってしまわないで、―と。
しん、と痛いほど静まり返った戦場は身じろぎすることさえ憚られましたが、ここから先は私の役目ではありません。
そっと一歩下がると、待ち構えていた御上土くんが代わりのように前に出ます。
これだけ大きな高台を築いておいて疲れを欠片も匂わせないのは、すごいですよね。御上土くんは、そのまま堂々とした様子で静かに宣言しました。
「普通科・特別科を担当する生徒会だ。これ以上治安を乱すと言うのならば、我々が助太刀に入ることとなる」
見下ろされた鋭い眼光に、威厳に満ちた声。
聴衆となった生徒たちは、まるで魅入られたようにその動きを止めていました。




