おさらい
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※誤字訂正しました。
はてさて。
怒涛の展開を迎えていた私だが、ここにきて漸く精神的にも時間的にも余裕が出てきたので、もう一度私が今置かれている現状について振り返ろうと思う。
私の名前は「惣火 ゆま」。
「惣火」という珍しい苗字、代々火の古代魔法が扱える家系であるという今世の記憶から得た知識、ケモ耳尻尾を時折生やしてしまっていたおとうさん。これらの事実から、私はおそらく前世でプレイしていたのであろう乙女ゲームの世界に転生してしまったのではないか、という推測を立てていた。加えて、つい先ほども大きな狐さんがおじいちゃんになるのを目撃している。
乙女ゲームの世界であるかはともかくとして、ここが動物に変化できる人間がいたり魔法が使えちゃったりするファンタジーな世界だってことは間違いないだろう。…ていうか、おじいちゃんの見た目精々二十代半ばだったんだけどなー…。ううん、獣人は年を取るのが遅いとかいう設定なんてなかった気がするんだけど―、っと話が逸れた。
ともかく、現状の情報を総合し、一先ずこの世界はあの素敵スチルが出る乙女ゲームであったと仮定する。
ゲームの題名は「貴方には私だけ… ~どんな姿でも愛してる~」。
タイトルからそこはかとないヤンデレ臭を感じるが、メインストーリーは獣人への根強い差別が残る世界で美しく慈愛に溢れたヒロインが獣人である攻略対象者たちを受け入れ恋をする、という話であり、周囲の目や噂、自らの立場などから足掻き苦しむ攻略対象者の悩みを受け止めその心を支え、最後にはめでたく結ばれるというやつである。ちなみに攻略対象者ごとに恋愛エンド、友情エンド、バッドエンドが用意されており、恋愛では駆け落ち、友情では現状維持、バッドでは知り合い以下の関係に戻り言葉すら交わして貰えなくなる、という展開だった。
そして、なぜか。
なぜか、どのエンドになってもエロ展開はない。
それどころかキスさえしない。おおっぴらにいちゃいちゃとか、そういう展開も無い。「もっと糖分くれよ!!」とネットでも叫ばれていた気がする。なまじ絵師さんや声優陣がよかっただけに彼女たちの無念は計り知れない。
さらに最悪なのが、全エンドをクリア後に中庭で白猫に会ってしまうことで強制突入してしまう「トゥルーエンド」である。
トゥルーエンドはその名の通り「真実の」エンディングを迎えるエンドなのだがこれまた乙女ゲームにあるまじき救いも何もない。
実はヒロイン、獣人の人体実験を繰り返していた研究者の娘であり、獣化したまま戻れなくなってしまった実の兄を人に戻す方法を探すために父の非道な研究にも協力しており、この学園には元々被験体を探しにやってきていた。獣人の血は古い家系であればあるほどその血の濃さに期待できるため、並の家の出の者では薄すぎて役に立たないのだ。
かといってやんごとなき家の者においそれと手を出せるはずもなく、そこでヒロインの父はヒロインに、適当に騙して被験者を拉致って来るよう命令していたのだ。ヒロインは中庭で白猫に会うことで自分が学園に潜入した目的を思い出し、全ての攻略対象者をあの手この手で誘き出して研究所の檻に閉じ込めてしまう。信じていた者からの裏切りにただでさえ傷ついているのに非道な実験を繰り返され、だんだん攻略対象者たちの目から生気が失われていく。
そんな中ヒロインは一応毎日のように檻に通って、現在の状況に至るまでのヒロインの事情の説明や謝罪などを告げていくのだが、シメは必ず「ごめんね…。でも、兄さんのためだから…」なのである。
なんという傍迷惑なシスコン。
そして無事実験に成功したとの父の報告を受け、「みんな!今すぐ自由にしてあげるね!!」と笑顔で檻を開けに行くヒロイン。だが攻略対象者たちは既に廃人と化しており、ヒロインは罪の意識から自殺、―という話であった。一つ言っておくと猫遭遇からヒロインの自殺に至るまで選択肢は一切出てこない。詰みゲーである。
…酷い話だが、ここまで思い返しておきながら、私は正直、心のどこかでほっとしていたと思う。
だって、このゲーム、モブはなんの関係もないのだ。恋のライバルもいないし、ヒロインでもなく攻略対象者でもない私は安全だから、好き勝手に生きても大丈夫かな、なんて思ってしまったのだ。
「ついたわよー、ゆまちゃん」
そう言って車を降りて手を差し出してくれるお母さん。今日は、二年ぶりの大きなお出かけだった。まあ、二年と言う月日があったからこそおじいちゃんをなでなでもふもふしながらこんなことあったかな、あんなことあったかな、こんなことほんとに起こるのかな、とか悶々と考えることもできたわけなんだが。
見上げるとひっくりかえってしまいそうなほど大きな豪邸。池では鯉が跳ねていた。驚きすぎて何の反応もできずにいると、気付いたらどこかの部屋の中に入っていた。きりりとした厳しい顔つきの美人さんが私とお母さんを一瞥した後去っていく。後に残されたのは、私と、お母さんと、―小さな男の子だった。
「ゆまちゃん」
お母さんがどこか不安げに私に微笑みかける。
「郡くんよ、ゆまちゃん」
その言葉に、男の子はびくびくしながらも俯いていた顔をあげた。
赤みがかった茶髪に、翡翠色の瞳。
惣火 郡。
「ゆまちゃんの、いとこなのよ」
彼は、攻略対象者の内の一人だった。




