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もふもふ!  作者: min
高校編(一年生)
20/51

彼女との出逢い 後篇(春日井side)

春日井の「人間じゃなくなっても」のセリフを「人じゃなくなっても」に改訂。

人間=獣化しない人

人=獣人、人間含めた人類の総称。または獣化していない姿。

っていう定義が作者の中であってですね…。紛らわしくてすみません。

『ちょっ、…えっ?!』

「春日井くんかわいいです…。癒されます…。ぼっちの身に沁みます…」

『えっ?…えっ、えっ』


 柔らかな手が頭を撫で、耳をくすぐり、体中を滑っていく。混乱と心地よさに頭がぐちゃぐちゃになって、なんだか次第に全てがどうでもよくなってきて、俺は終いには尻尾をぶんぶん振り回しながら惣火ゆまの手を受け入れていた。

 きゅんきゅん鼻を鳴らしながら顔を擦りつければ、惣火ゆまはふふふ、と酷く嬉しげに笑っていた。ああこのまま飼われてもいいかもしれない、なんて頭の悪い考えさえ浮かんできたころだった。


「えっ?!そっ、惣火さん?!大丈夫!?」


 クラスメートの登場に、一気に身体の芯まで冷えた気がした。

 客観的に見れば、猛犬が少女を襲っているように見えなくもない、…かもしれない。青い顔をするクラスメートを尻目に、惣火ゆまは相変わらず俺の頭を撫でながらきょとりと不思議そうに目を瞠り、首を傾げた。


「なにがですか?」

「えっ?!だっ、…だって!…えっ、…と、…」

「春日井くんは優しいんですよ?ぼっちだった私を拒まないでいてくれたんです…。ホントかわいい…」

「かっ、かわいい?!」


 惣火ゆまはそう言うと、どこか恍惚とした様子で俺をぎゅっと抱きしめた。

 クラスメートは何が何だか分かっていないようで、あたふたと意味もなく手を動かしていた。

 俺も正直、何がどうなっているかよくわからなかった。


「えっと、…惣火さん。それ、…本気で言ってる?」

「?

 はい。何かおかしいですか?」

「あ、あのっ!!俺の、この耳!!どう思う?!」


 あまりのことについ獣化してしまったらしい一人の生徒が、これ幸いと言わんばかりに自らの頭上に生えた耳を指差した。どうやら彼も犬の獣人らしく、俺より茶色味が強い垂れ耳がぱたぱたと動いていた。


「紺野くんは犬の垂れ耳なんですね」

「そっ、それで!?」

「え?」

「おっ、俺も!!かわいいですか?!」


 その言葉に、惣火ゆまはぱちぱちと瞬きを繰り返し、不思議そうな顔でこんなことを言いだした。


「えっと…。撫でて欲しいんですか?」


 言うが早いか、惣火ゆまは自らの耳をアピールした生徒の耳を、やけに優しい手つきで摩り始めた。


「ひぁっ?!」


 触られた生徒の方はと言うとどこか如何わしさを思わせる艶めいた声をあげていて、しかし鈍感なのかなんなのか、惣火ゆまの方は全く気にせずにマイペースに耳を弄り続けていた。


「紺野くんの耳すべすべですね…。すごく手触りいいですよ?」

「ん、あっ…。みみだめぇえっ…」


 終いには力が抜けてしまったのか、紺野と呼ばれた男子生徒は力なく床にぺたりと座り込んでしまった。それを見た他のクラスメートたちは目を丸くすると、慌てて紺野を引っ張りあげると素早く惣火ゆまから距離をとってしまった。


「そっ、惣火さんありがとう!!俺ら紺野回収するから!!」

「惣火さんは春日井撫でてればいいんじゃないかな!なっ?」


 紺野の他にいたクラスメートの二人組は惣火ゆまに言うだけ行くと逃げるように去って行ってしまった。

 ぽつりと取り残された惣火ゆまはとても寂しそうな悲しげな顔をしていた。傍で見守っているしかなかった俺はなんだかもやもやと胸が落ち着かなくて、気合を入れて人の姿に戻ってみることにした。

 

「えっと…」


 試みは無事成功して、俺は次の瞬間には元の人の姿で惣火ゆまの少し後ろに立っていた。

 人の声に反応して振り向いた惣火ゆまの顔がなんとなく真っ直ぐ見れなくて、俺は頬をかきながら告げた。


「なんつーか、その…。人じゃなくなっても、否定しないでくれてありがとう」


 なんであんな展開になったのかはわからなかったが、拒絶されなかったことがとてつもなく嬉しかった。

 その言葉だけは伝えたくて、照れながらもお礼の言葉を告げたが、当の惣火ゆまはというと困ったような顔で首を傾げていた。


「それって、感謝されることなんですか?」

「少なくとも、俺は嬉しかったぜ?」

「ならいいんですが…」

「ゆまー!」


 その時、後ろから大きな声がかけられ、惣火ゆまは勢いよく誰かに抱きつかれていた。


「ゆま遅い!」

「ごめん、郡」

「なんかあった?」

「うーん…。わかんない」

「えー」


 惣火ゆまは親しげにその生徒と会話を交わすと、肩を並べて仲睦まじく帰っていった。


 一瞬だけ、翡翠色の瞳がこちらを鋭くにらんだ気がしたが、おそらく気の所為では無いのだろう。


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