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40.紫条院パパの衝撃


「お母様、洗い物終わりましたけど……二人でどんなお話をしていたんですか?」


 キッチンから戻ってきた紫条院さんが小首をかしげる。


「それはもちろん貴女の料理の話よ。新浜君がとっても美味しかったって」


「そ、そうですか! ふふ、褒められるのは何度目でも嬉しいですね!」


 秋子さんの言葉をあっさり信じた紫条院さんがにぱーっと笑顔を浮かべる。

 いつものことだがめっちゃ素直で可愛い。


「それじゃあ貴方たちが揃ったところで聞きたいのだけど……二人はどうやって知り合ったの?」


「ぶっ!?」


 ちょっ、いきなりなんの質問だ!?

 なんか凄く面白がってるし!


「あ、それは図書委員です! 二人で仕事している時に私がライトノベルのことを聞いたのがきっかけで……でもこんなに話すようになったのはそれからしばらく経ってからですね」


「なるほど図書委員ね! そう言えば……しばらく前に家の前まで春華を送ってくれた子も新浜君だったのよね?」


「はい、そうです! その時はちょっとしたことがあって……」


「ふんふん、どんなどんな?」


「ええと、新浜君と一緒に図書委員の仕事をした後に――」


 秋子さんに誘導されるままに、紫条院さんはあの日あったことを嬉しそうに語り出す。


「それで、花山さんという女子が私に詰め寄ってきて――新浜君が『今、紫条院さんに掴みかかろうとしただろ? やめろよそういうのは』ってかばってくれたんです!」


 ちょ、ストップ! 紫条院さんストップ!

 いくらなんでもそこまでお母さんに語られるのは流石にキツイから……!


「ふんふんふんふん! それで!? そこからどうなったの!?」


 ちくしょう、秋子さんの方も目をキラキラさせて食いついてやがる!

 

「花山さんたちがいなくなって、それから気分が悪くなってしまった私を新浜君が送ってくれることになって……」


「うわぁぁぁぁぁ……! いいじゃない! いいじゃないのそれ! 私が知らないところでそんな少女漫画みたいなことになっていたのね!」


 いや、その……すいません。

 その話だけ聞くとそれこそ少女漫画のヒーローみたいに俺がイケメン台詞で花山を撃退したように聞こえますが、実際は援交詐欺をバラすぞと生々しい脅しをかけました……。

 

「それでですね! 帰り道で新浜君はずっと私を元気づけてくれて、自分に原因があるなんて考えるなって真剣に言ってくれたんです。それで私はすっかり心が軽くなって――」


 いや待って! 褒められすぎて俺の顔が燃え尽きるから!


 というかあの時のあんな話をそんなに好意的に受け取ってくれてたのかよ!

 嬉しい! 死ぬ! 


「ふぅぅぅぅ……予想以上のキュンキュン話でママのお腹はもういっぱいよぉ……本当に若いっていいわねぇ……」


 なんかフルコースを食べた後みたいにめっちゃ満足そうな顔になってますね。

 

「それにしても新浜君はいい子ねぇ。是非息子になってもらいたいわぁ」


「ふぁ!?」


 な、何を言いだすんですか!?

 というかその意味ありげなドヤ顔ウィンクなんです!?

 『さりげなくアシストしてあげる私デキる母でしょ?』ってことですか!?


「え、新浜君が紫条院の家に? そうするとその場合は……お兄様と呼んだらいいのでしょうか?」


「ごふ……!」


 ふ、不意打ちすぎる……! 


 考えはトンチンカンな方向に行ってるが突然の『お兄様』呼びは心臓に悪い……!

 

「もう、そこでそういう方向に行くのが貴女らしい天然ボケねぇ」


「??」


 呆れるように言う秋子さんに、紫条院さんは首を傾げる。

 

「あ、それと新浜君……私の夫も紫条院家に婿入りした身だし、ウチは血筋とかそういうことにはこだわらないわよ?」


 話題としてはブレてませんけど、今言うことですか!?

 将来的にすごくありがたい情報ですけど!

 

 そうして俺たちがそんなふうに秋子さんにアレコレと聞かれている最中に――


 玄関のドアが、突然大きく開く音がした。


「おう、今帰ったぞ!」


 響いてきた男性の声は、玄関から聞こえてきた。


「お、この見慣れない靴は……春華の友達はまだいるんだな! 良かった良かった! 是非私の口からも礼を言っておきたかったしな!」


 声と足音が近づいてきて、すぐに50代ほどの男性がリビングのドアを開けて入ってきた。


 スーツ姿のその人はとてもがっしりした体型で、口ひげを生やしており全体的に迫力のある雰囲気を醸し出している。


 え、この人はもしかしなくても……。


「あ、お父様お帰りなさい!」


「おお、春華、秋子、ただいま! 思ったより仕事が長引いてしまってな!」


(やっぱりこの人が紫条院さんのお父さん……全国展開している『千秋楽書店』を一代で築いたことで有名な紫条院時宗さんか……)


 新聞や雑誌に何度も登場しているので名前は知っている。


 好きな子の家で父親と対面するなんて緊張するが、そもそも今日の俺の来訪は両親ともに了承済みだと紫条院さんは言っていた。

 

 なら、俺の存在はすでに許されているはずだしトラブルはないだろう。

 肩書きの割には家族と仲が良くて温和そうな人だし。


「さて、それじゃ春華の成績を爆上げしてくれた友達の子に早速お礼を言わないと……な……?」


 時宗さんはそこで俺を凝視して何故か固まった。

 ……え? なんだ? どうした?


「だ……」


 だ?


「誰だお前はああああああああああああああああああああ!?」


 えええええええええええええええええええええ!?


 いや、え!? 俺が来ることは了承済みだったんじゃないんですか!?


 さっき自分でも友達の子に挨拶をしなきゃとか言ってたでしょう!?


「え? え? 何を言っているんですかお父様? 今日は私の勉強をみてくれた友達を家に招待するって言っておいたじゃないですか!」


「お前こそ何を言っている!? 友達って……どう見ても男じゃないか!」


「ええ、男子のお友達なんですけど……それがどうしたんですか?」


「な、なんだとおおおおおおおおおおおお!?」


 こ、この状況はまさか……


「うふふ、ごめんなさいね新浜君。ちょーっと家族でお話することがあるので少し一人にするわ」


「え、あ、はい」


 秋子さんが席を立ち、「ほらほらあっちでミニ家族会議ね~」と言いながら狼狽している時宗さんと何が悪いのかわからないという様子の紫条院さんをぐいぐいと押して別室へ連れ去っていく。


 俺は一人ぽつんとリビングに取り残されるが――秋子さんがわざとそういう部屋をチョイスしたのか、紫条院家の声はこのリビングまで明確に響いてきた。


「どういうことなんだ春華! 男を家に呼ぶとか……その、こう……駄目だろう!?」


「え? どうして男の子だったら駄目なんですか?」


「ええい、我が娘ながら天然すぎて本当にわかってない……!」


「まあ、一言も友達が女子とは言ってなかったものねえ。勝手に時宗さんが勘違いしただけで」


「あ、秋子! お前は知っていたのか!?」


「ええ、春華が直接そう言ったわけじゃないけど、話を総合したら男の子だと気付いたわぁ。むしろ娘の友達が男子だという可能性を無意識にシャットアウトしている時宗さんが問題よ。もうあの子も高校生なんだから……ね?」


「高校生なんてまだ子どもだ! 父親以外の男が近づいていいわけないだろう!」


「まあ、キモいほどに見事な娘バカムーブね時宗さん。あ、ちなみに今日来ている子は新浜君というのだけど、しばらく前に春華を家まで送ってくれたのと同じ子よ」


「な、あの時の……! おのれええええええええ! この家にまで乗り込んでくるとはやはり悪魔だったか……!」


 全員が声を潜めないものだから家族会議の内容は完全に丸聞こえである。


 しかし……娘が男子を連れてくると言っても快諾するなんて懐の深い父親だなと思ってたけど……女子が来ると思ってたってことかよ!


 しかもあの会話を聞く限りめっちゃ典型的な娘を溺愛している父親だ……!

 どう考えても俺を好意的に思ってねえ!


「春華! 男なんてみんな下心満載なクソなんだぞ! そんなにほいほいと近づけてどうする! ましてや家に連れてくるなんて……!」


「うふふ、下心満載で私に声をかけてきた人が言うと説得力があるわねぇ」


「うぐ!? い、今はそんなことを話しているんじゃない……! ともかくもう昼食会は終わったんだろう? ならあの少年には早く帰ってもらえ!」


「そんなの嫌です! せっかく招待したんですからもっと色々お話したいです! そもそもお父様は何がそんなに嫌なんですか!?」


 ……なんだこの針のムシロは……。

 というか俺のせいで親子喧嘩に発展しそうで二重にキツイ……!


「ぬうう……いいだろう。お前がそこまで言うのなら父さんがしっかり見極めてやる……!」


 はい?


「ちょっと彼を借りるぞ! この紫条院時宗がお前が家に呼ぶほどに近しい位置にいるべき男かどうか確かめる!」


 ちょっ、えええええええええええ!?

【読者の皆様へ作者からのお知らせ】

 現在リアルが厳しすぎて今後はこれまでのように毎日は更新できないかもしれません。申し訳ありませんがご了承ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] めっちゃ面白い 最高です!!!
[良い点] 昨日知って全部読ませてもらったんですがめっちゃ面白いです!更新が待ち遠しい…
[良い点] うぉぉおおおお!一番良いところでストックを消化してしまった!これは更新をひたすら待つしかない。 いや本当に、今小説の中で一番心待ちにしてる作品です。 本当に読む手が止まらなかったです。
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