活路を見出しましょう
「オババ様!応えてくだされ!オババ様!オババ様!」
一つの鏡に向かって叫び続ける中年がいた。
「うるさいねぇ。聞こえているよ。なんだい?」
鏡から声が聞こえてきた。
「オババ様!チヤが誘拐されました!至急!記憶を読む木族と怪我を治す木族の派遣を依頼します!」
中年男のウェンズは努めて相手に聞こえやすく伝えた。
応えたオババは、少しの間沈黙してから言った。
「誘拐された時のチヤの私物はあるかい?」
「わかりません!現場に行かなければ!」
「外に出るのかい。わかったよ。偽装していく。こっちで、戦闘出来る者も連れて行くから、乗り物を用意しな」
「よろしく、おねがいします」
オババに伝えることは伝えたウェンズは、少し冷静になってーー怖くなった。
『歴史は繰り返される』
誰が言った言葉だろうか?
ウェンズは細かく震えながら指示を出す為に動き出した。
◇◇◇
ろ・う・や!
牢屋だぜぇ。
嫌だぜぃ。
変なシミがあるんだぜ?
怖いんだぜ?
結論→逃げよう!
ふっふっふっ。
私、物語のこういう展開で「何で捕まえられたら、素直に捕まってるの?」と思っていたんだよね。
そう!
スキルを使って逃げちゃおう!
口にある物をアイテムボックスへ収納!
「あー、話せる。次は腕だね」
腕についている物をアイテムボックスに収納!
ひっひっひっ。
手も自由になったぜ!
そして!
ここで、牢の鍵をアイテムボックスにしまって、牢屋から逃げるのはナンセンスだぜ。
わざわざ相手のフィールドで戦ってやる理由が無い!
だってきっと牢番とかがいるんだよ!
だから、私は、後ろをゆく!
つまり、壁をぶち抜きます!
牢屋の壁をうーん、私が入れるだけの空間を収納!
ぼこっと、かべに四角い空間ができた。
よし、その斜め上に私が登れるだけの同じ大きさの空間を収納!
段が出来たから土がついちゃうけど、仕方なし。
どんどん、空間を収納していくよ!
そんで、登っていくよ!
あ、空間でなく土を収納するんだった。
まっ、いいや。
イメージ出来ればスキルは発動するし。
てな訳で、どんどん収納していこうー!
収納、エンドレス、エンドレス、エンドレス。
あ、斜め下が騒がしくなってきた。
見つかっちゃったかな?
でも、通り道を塞ぐと、空気が無くなっちゃう。
追いつかれたら対策しよう。
考えがあるし。
続けて、エンドレス、エンドレス、エンドレス収納!
「あっ!見つけたぞ!大人しくしろよ!」
なんで、こういう時に言う言葉は、三下臭いんですかね?
通販で、大量の、熱い、100度くらいの、安い温泉を購入して、男の声が聞こえた下に向けて出すだけ!
「えっ!がぼっ、がぼぼぼ」
登って来ていた男の声が消えました。
多分、流されている、はず?
火傷もしているかも?
すみませんねぇ。
真っ暗なんですわ。
穴の中が。
まさに、手探り状態ですから?自分が何処にいるのか、わかりません?
ちょっと、不安ですが、いえ、本当は凄い不安ですが、このアイテムボックスで作った空間が地上に出ると信じなければいけません。
でないと、家族に会えなくなります。
よしっ!エンドレス収納、開始です!
◇◇◇
「ひどいねぇ、これは。死んでないのが、奇跡だねぇ」
オババ様が物騒な事を言う。
「うちの騎士や兵士の教育は『死なない』ことなんですよ。生きていれば仲間が助けてくれます。そして、また、戦えますし、次は誰かを助けられるかもしれません」
「いい教育だよ。お前たち、早めに治してやんな!街の衛兵もいるねぇ。ちょっと、厄介だ。ウェンズ、お前、誤魔化しな」
「簡単に言いますねぇ。仕方ない。今回ばかりは王族を頼ります」
呑気に会話していると思いきや、石畳みは血だらけで、飛び散った血痕が多数ある。
清掃が大変だ。
いや、今は怪我人の治療が大変だ。
「ああ、襲撃犯は死んでますけど、生きている者もいますね。チヤを探せそうですか?」
「……こいつらが、知っていればね。ただの雇われじゃないことを祈りな」
黙々と負傷者の治療が進んでいる中で、声が上がった。
「ありました!チヤ様のかばん?だと、思います……」
現場に似つかわしくない、シンプルな布鞄。
「デンジュ、見てやんな」
「はーい」
血の散った、布鞄をデンジュと呼ばれた木族の男が手に取って、静かに集中する。
「んー、この鞄の持ち主が馬から落ちそうになって、鞄から、手を離したね。その後は、目立たない馬車に乗せられて、馬に乗った女が離れた。ゔーーー、後は、わからない」
「馬車が止まっていた場所はわかるかい?」
「うーん、なんとなく?」
「それでいいよ。案内しな」
「はーい」
なんとも気が抜ける返事である。
ここに来て、急がないといけないのに、まったりとした気持ちになったウェンズである。
現場に到着したら「馬車の車輪があった場所か、馬の足跡を探しな」と、理不尽な要求がオババからデンジュに飛んだ。
「そんな、細かい作業は、勘弁してよー」
「連れ去られた場所がわかれば、前から欲しがっていた魔道具をあげるから、頑張りな!」
「えー、うーん、それならー、がんばろうかなー?」
地面に這う男に、またしても力が抜けてくるウェンズである。
地道な作業だ。
「チヤの腕が切られてなければいいねぇ」
……不穏な事を言う老婆である。
不安を助長しないで、もらいたい。
騎士達が回復して、チヤ捜索が進んでいる中で、1番孤独なのは、今も地面の中にいるチヤかもしれない。




