トイレットペーパーの策略
そして、クルガー商会長は『一時休戦』の結論を出す!
「チヤ君!シャンプーの販売は、もうしばらく待ってくれ!これは大きな金が動く!インベルト商会全体で取り扱う商談だ!」
クルガー商会長の額には興奮からか汗が滲んでいた。
春先なのに。
落ち着く為に飲み物を飲もうとして、ティーカップの中が空なのに気がつき、ポットを傾けても紅茶は出ない。
クルガー商会長が1人で葛藤している時も、チヤ達はマイペースに紅茶を楽しんでいた。
クルガー商会長は、何も言わずに空のポットだけを持って部屋を出て行った。
チヤは紅茶ばかりを飲んでトイレが近づいたので、1人で行こうとすると、モーゼが「護衛する」と言うので、言い争いをしても不毛な気がして一緒にトイレへと行った。
ちなみに、インベルト商会では「トイレットペーパー」を販売しているので、商会本部のトイレでは当たり前のように「トイレットペーパー」で、下部を清潔に出来るので密かにトイレが人気である。
特に増設してはいないので、待ち時間は長く、少女チヤ(見た目は幼女)の膀胱が心配である。
◇◇◇
「あれ?チヤ君は?」
チヤのトイレより早く商談室に帰って来たのは、クルガー商会長だった。
その手には紅茶入りポットと、『シャンプー』の販売を延期にしてもらう為の賄賂(お菓子)が持たれていた。
部屋の中には侍女セーラが1人。
「チヤ様は、トイレに行っております。少々お帰りが遅いので心配しております」
その言葉の裏には「お前の店のトイレのせいでお帰りが遅いんだぞ『ゴラァ』」と、言う気持ちが隠れていた。
「うちの店のトイレは人気なんだ。少し、いや、かなり時間がかかるかもな」
そうなのである。
貴族家では、もはや使うのが常識になった『トイレットペーパー』が、一度外に出ると使われていないのである。
その為、わざわざ『トイレットペーパー』を持ち歩く(使用人が)貴族もいるが、忘れたり、持ち歩かない者達が、確実に『トイレットペーパー』の使える『インベルト商会』に寄る事がステータスになってきてもいる。
これには、笑いが止まらない『インベルト商会』だ。
富裕層に人気の『インベルト商会』のトイレは、連れがトイレに行っている時、待っている者は暇である。
そこで、店員の営業トークが炸裂である。
「あ、コレ試してみたかったんだ」と買わせれば勝ちである。
それに「売り切れ続出の商品が今だけ買えますよ」と言われれば、お金を持っている層なら買いたくなってしまうだろう。
そして、トイレから出てきたお客様も「せっかく来たのだから、商品がみたい」と、更に言わせれば店の儲けになる。
今や『インベルト商会』は、王族・貴族・富裕層の顧客がいる高級店に仲間入りしている。
『インベルト商会の商品が目当て』だったのが『インベルト商会で買い物をするのがステータス』に変わりつつあるのだ。
これは大きな違いである。
『インベルト商会』に勤める者は給料が上がり羨ましがられ、妻と子は喜び、生活が豊かになる。
確実に好循環を生み出したのは『幼女チヤ』である。
インベルト商会員の間で『幼女チヤ』を知らない者はいない。
商談に訪れれば歓待し、新商品を持ち込めば、幼女様様な日々を送っている。
これを他の大手の商会は面白く思っていないのだが、さすがに貧民街に住む幼女が商品を卸しているとは、常識的に考えなかったようだ。
それに、行き帰りはインベルト商会の馬車が注意をしていたし、今日のように御者の注意力はかなり高い。
問題は『今後』である。
『スイード伯爵の孫娘』が『インベルト商会に商品を卸している』というのがバレたら、大事になってしまうのは確実である。
貴族の階級は馬鹿に出来ないし、爵位の高いだけの馬鹿もいる。
「それで、スイード伯爵はチヤ君をどうするつもりなんだ?」
クルガー商会長が、スバっと切り込んだ。
セーラは誤魔化さずに答えた。
「自分が危ない時は、私よりも優先しろと、仰せです」
「それは、チヤ君が危ない時は君を犠牲にしろと言う事か?」
「いいえ。スイード伯爵家当主より、優先しろ。と言う命令です」
クルガー商会長はスイード伯爵家が全力でチヤを守ってくれそうで安心した反面、当主より優先しろとは、おかしな話だと思った。
チヤには、何かある。
「……チヤ君は、何者だ?」
「それを、あなたが知る必要性を感じません」
おお、取りつく島も無いとはこの事だ。
全く教える気がなさそうである。
と、そこに噂のチヤが帰って来た。
「もう!クルガー商会長!トイレの列が長いよ!どうにかして!」
「そうか、考えておこう」
トイレの待ち時間が長いのも戦略なのだ。
買い物客を増やすという。
だから、トイレを増設する気は微塵も無いけれど、考えるだけはするので嘘では無い。
チヤはクルガー商会長の言葉に一応は納得して、漏らさなかった自分を褒めた後に、ポットから紅茶をティーカップに注ぎ口を潤した。
紅茶の利尿作用でトイレに行きたくなったのに、また懲りずに紅茶を飲むチヤ。
次のトイレも近そうである。




