シャンプーの可能性
『髪専用石鹸 シャンプー』の商談が始まった。
まあ、シャンプー自体は石鹸では無いのだけど、こちらの世界では固形石鹸が一般的だから、馴染みやすいように『石鹸』としている。
もちろん、石鹸成分の有るシャンプーもあるが少ない。
チヤはアイテムボックスからスライム容器に移し替えた、安い市販のシャンプーを取り出した。
それを、クルガー商会長の前に置いて、プレゼンを始める。
「それが『髪専用石鹸シャンプー』です。使い心地は家に持って帰ってお試しください」
クルガー商会長がお決まりの商品の匂いを嗅いで感嘆の声を上げた。
「これは凄い!とろみがあるのに、平民が使っている液体石鹸とも違い、輝きが真珠のようで、匂いが高貴な感じがして、凄く良い!!」
安価なシャンプーをベタ褒めだ。
日本では少し馬鹿に見られている品質なのに。
しかし、安さと普通の使い心地なので、貧乏の家の愛用者が多く根強い人気を誇る逸品でもある。
何と言っても安いので、頭皮の健康に若干の問題はあるが、いちいち、ちまちまと使わなくていいストレスフリーな面もある。
チヤは真面目な顔でクルガー商会長に販売戦略を言う。
「クルガー商会長、そのシャンプーは1番安価な質が悪いシャンプーです。シャンプーの種類は数え切れないほどありますので、まずは庶民に手が届く値段で販売するのをオススメします」
クルガー商会長は「理解出来ない」と言う顔をした。
「いや、この『シャンプー』と言う物は画期的だ。どこにも販売されていない。
僕が知る限りでは、近隣国でも販売されていない物だ。これを安価で販売すれば、既存の石鹸製造者に喧嘩を売ってしまう。この容器で300シア(約300ml)ぐらいだろう?使ってみないと断言できないが、香りと見た目だけでも3000ルビはする」
チヤは、いつもの事ながら日本の品質に脱帽する。
300mlどころか、1ml 1円の商品だ。
すなわち、300ml 300円。
激安だ。
300シア 30ルビを、300シア 3000ルビだと言うのだから、笑いが止まらない商売だ。
チヤは現実を突きつける。
「原価は300シア 30ルビです。それでも、高く販売しますか?
1番最後に出す、超最高級シャンプーは1ジアル 1万1000ルビの原価ですよ?」
現実を知ったクルガー商会長は、あまりの驚きに声も出ない。
そこで、チヤは立ち上がり、クルガー商会長に自分の頭を差し出す。
「1番原価の高いシャンプーで洗った髪です。昨日洗ったので頭は綺麗ですよ?触ってみてください」
クルガー商会長は商売人だ。
この手の中に1番原価の安いシャンプーが入っていて、目の前の少女の頭からする香りはソレよりも更に高貴な香りがすると、鼻が匂いを嗅ぎ分ける。
クルガー商会長は、少女チヤの頭にキスせんがばかりに顔を近づけて、思いっきり匂いを嗅いだ後に、とても素晴らしい物を触るようにチヤの艶々な髪の毛を手にして素晴らしい触り心地と指通りに感嘆のため息を吐く。
放っておけば、いつまでもチヤの髪の毛を触っていそうなので、チヤはクルガー商会長から離れて元のソファに座った。
クルガー商会長は反芻するかのように目を閉じて感動したようにぴくりとも動かない。
「ーーこれは、これは!革命だ!国王陛下に献上しなければ!」
何とも愛国心溢れるセリフである。
震える声で言い放った!
「これは、世界で勝負できるぞ!貿易部門を立ち上げるべきか!?いや、コストがかかりすぎる。しかし!他の商会に貿易利益を掠め取られるのも悔しい!!」
クルガー商会長の頭の中で、さまざまな葛藤が繰り広げられているようだ。
「チヤ君!!いくつ納品出来る!?」
クルガー商会長が目を限界まで見開き、身を乗り出してチヤに聞いてくる。
正直に言う。
クルガー商会長、怖いよ。
「い、いくつでも?」
「いくつでも!?それは樽100個でもかね!?」
え?たるって、樽だよね?お酒とかを寝かせているやつ。
あれって、何Lぐらい入ってたっけ?
ぺぺぺぺっと、通販スキルで調べてみると、小樽(200~300L程度)、中樽(400~600L程度)、大樽(1,000L以上)と出た。
基準はワイン樽だ。
「小樽?中樽?大樽?」
簡潔にチヤが聞くと、クルガー商会長は葛藤した後に「小樽!」と、大声で言った。
クルガー商会長って、いつもいつも大声で叫ぶよね?
お店に響いてない?大丈夫?
クルガー商会長的には、貿易をするなら大樽で買いたかったが、これは、髪を洗う『シャンプー』であってお酒では無い。
それに、チヤに大量買いを発注したところで割引になる訳でも無いので、安全策で小樽だ。
ちなみに、チヤが調べた樽の大きさは地球基準であり、この世界のソレイユ基準では無い。
小樽は100ジアル(L)。中樽は200ジアル。大樽は300ジアルである。
この話は商会長と言えど、大きな商売になるので、会議と対策が必要になる。
クルガー商会長の中では『他国との貿易』は決定である。
少女チヤに商会の命運を賭けるのは『怖い』が、バックには『スイード伯爵』がいる。(と思い込んでいる)
そして何より『シャンプー』は、まったく『未知』の商材であるが、確実に『儲かる』自信がクルガー商会長にはあった。
『シャンプー』の『偽物』が出回る前に対策を打つ!
そして、商会を大きくする『ビッグチャンス』であった。




