貴族の料理を食べましょう
おじいちゃんがわからないながらも結論を出した。
「庶民には『黒い調味料』が出回っているのか。我々貴族も新しいものを取り入れていかねばな」
おじいちゃんが勘違いをしたので訂正する。
「違うよ。私のスキル」
おじいちゃんはオババ様の忠告を思い出したのか体を硬くした。
それを、一度経験したおばあちゃんが面白そうに見ていた。
「あなた、チヤは私達の孫ですよ。チヤが「利用された」と思わなければいいです。そうよね、チヤちゃん?」
「そうです!」
ちょっと偉そうに言ってみた。
おばあちゃんが「ふふふっ」と、笑って、おじいちゃんも体の力を抜いてから、私を優しい目で見た。
(あ、家族、だ)
本当に家族が増えたのだと、実感したチヤは嬉しくなって、目の前にある料理に食欲が湧いてきた。
「おじいちゃん、食べないの?」
「ああ、食べようか。チヤちゃんは食事のマナーの練習をしなければいけないけど、今日は楽しく食べてもらおうと、一気に料理を並べてもらったんだ。
それではいただこうか。
『実りをお恵みいただきありがとうございます』」
おじいちゃんが食前の挨拶を言うと、他の家族全員が声を揃えた。
「「「「実りをお恵みいただきありがとうございます」」」」
私も慌てて言った。
「実りをお恵みいただきありがとうございます」
ふふっ、とみんなで笑って、和やかな夕食が始まった。
やっぱり話題はお風呂のことだ。
「温泉とは、気持ちがいいんだな。秘湯の話は聞くが、魔物がはこびる世の中だからな。チヤの力は強いぞ」
伯父さんが感嘆したように言ってから、お肉を口に入れて咀嚼する。
伯母、いやいや、お姉様が追加で情報を出す。
「髪専用の洗髪石鹸は、良かったわぁ。うちの夫の頭の臭いが気になってきたから領地でも使わせてもらおうかしら」
伯父さんが驚いた声を出した。
「何!?そんな物男風呂には無かったぞ!洗髪石鹸、使いたい!」
お姉様は勝ち誇ったように伯父さんに言う。
「チヤちゃんの好意だもの。美しさは女が先に手に入れるの」
私がおずおずと口に出す。
「すみませんでした。男湯にシャンプーを置くのを忘れていました。後から置いておきます」
伯父さんが慌て出した。
「い、いや、催促では、なくてな?」
お姉様がイタズラな顔をして伯父さんを見ていた。
完全に弟を揶揄ってるな、お姉様。
そこで、おばあちゃんが纏める。
「私達はチヤちゃんの家族ですから、甘えれば良いのです。ジョシュアはチヤちゃんの家族ではないのですか?」
お母さんが心配そうに伯父さんを見ると、伯父さんが気がついた。
「いや、チヤはスイードの家族だ。ソフィアの娘だからな」
力のある声でお母さんに言ってくれた。
これだけでお母さんが家族に大切にされていたと想像ができる。
安心したらしいお母さんは、懐かしそうに貴族の料理を口にする。
顔を輝かせて、いつもよりも綺麗に見えるお母さんが、安らかな自然体で食事を楽しんでいる。
「ソフィア、懐かしい味だろう?今日は料理長に昔の料理を作ってもらったんだ」
おじいちゃんがお母さんに説明すると、お母さんが控えていたらしい料理長にお礼を言った。
「料理長、とても美味しいわ。懐かしい料理をありがとう」
視界の隅で壮年の男性が頭を下げた。
「勿体無いお言葉です」
料理長は、硬い性格の人なのかもしれない。
でも、お母さんの為に料理を作ってくれたから、悪い人じゃないよね。
「チヤちゃん、美味しいかい?」
チヤは素直に答えた。
「異国の料理を食べているみたいで、美味しい!」
おじいちゃんは少し悲しそうな顔をした。
「……そうかい。この料理がチヤちゃんの懐かしい料理になると嬉しいな」
ウェンズはジョシュアとの、浴場でした会話を思い出していた。
◇◇◇
「ああっ!凄く良い湯だ。チヤちゃんに感謝だな」
私は今日出来た可愛い孫の顔を思い出した。
母親思いの良い子だ。
その時、息子のジョシュアが真面目な声を出した。
「お父様、ソフィアが3月病気を患っていた時ですが」
「ああ、肝が冷えるとは、あの事を言うのだな。自分の子に先に死なれそうになるとは考えていなかった」
私は、神にも等しい木族のお方に「ソフィアは死んだ」と言われても、本当は否定するのもおこがましいのに、どうしても信じる事が出来ずに悪あがきをして、ソフィアの捜索を続けていた。
1年経つたびに「本当にソフィアは死んだのかもしれない」と思い、弱い心のまま捜索打ち切りの命令を出せずにいた。
そして、春の社交で王都に来た時に、王都の屋敷の者から「貧民街で噂になっている美人の母子がおります」と報告を受けて影を貧民街にやり「おそらくソフィア様です」と調べた内容を聞き、神に感謝を捧げて、この日を迎えた。
ああ、今日ほど、感謝で胸が震えた日は無いかもしれない……。
私が感動していると、息子から衝撃の発言があった。
「その時ですが、ソフィアが食事も作れずにいたところ、近所の者が食事を作っていたらしいのですが、その……」
ジョシュアが口ごもった。
珍しい。
結構きっぱりと思ったことを発言する息子だが。
「どうした?お前らしくない」
「お父様、ショックを受けないでくださいね。……その、ソフィアとチヤは、ゴブリン肉を食べていたそうです」
私は口を押さえた。
若かりし頃に、好奇心で食べたゴブリン肉の味を思い出したからだ。
そんな、病気の最中に、ゴブリン肉を、食べていた、だと?
「よし、ソフィアとチヤちゃんにゴブリン肉を食べさせていた者を罰しよう」
ジョシュアが焦った声を上げる。
「いや、お父様、落ち着いてください!ゴブリン肉は人が食べるものではありませんが、栄養価だけは高いのです。ソフィアとチヤに食事を作っていた者の判断は正しいです!」
「むっ!そうだな。近年「栄養」が注目されているな。体に良いとか。……そうか、ゴブリン肉を……」
私は気分を変える為に温泉の湯で顔を洗った。
ん?何故か、肌にするりとした手触りがーー
「これは、内緒にしてください。お父様の心の中でとどめておいてください。
ただ、ソフィア達の現状を知らせたかっただけですので、当主であるお父様だけには」
◇◇◇
美味しそうに貴族の食事をする、ソフィアとチヤちゃんを見て、今度こそは後悔しないと誓った。




