麦の堅焼きを食べよう
昨日も来た貧民街市場に来た。
この昼過ぎの時間帯は人が少ないようだ。
遠慮なくステラおばさんのお店にいけるね。
あれ?お店じゃなくて、露店、かな?
まあ、店には変わりないか。
「あっ!母ちゃん発見!突撃ー!」
グイッと繋いだ手を引っ張られる!
「うあ!」
あー、びっくりした!子供っていきなり走り出すんだよなー。
あ、ステラおばさんが私達に気がついた。
「ダン!また来たのかい!」
「うん!母ちゃん、腹減ったから、麦焼き、ちょーだい!あ、チヤの分もな!」
「えっ!私はいらないよっ!」
親子丼を食べたばっかりだし。
貧民街での貴重な食料がもったいないし。
「えー!一緒に食べようぜ!」
ダンは無邪気だな。
素直なまま育ってくれよ。
「いいよ、いいよ。チヤちゃんもダンも店の裏に来な」
店の裏って、裏が無いんだけどね。
店主側ね。
ステラおばさんが背負っていたぼろぼろの鞄から茶色の布袋を取り出して、ステラおばさんの隣にちまりと座り込んだ私達に麦の堅焼きを1枚ずつくれた。
ダンは嬉しそうに麦の堅焼きに齧り付く。
幸せそうだ。
麦の堅焼きって、だら焼きの砂糖が入ってないバージョンだよね。
バリッと私も齧る。
ん?意外と香ばしい味がする。
風味は無いけど。
シンプルなおつまみで、まぁ、悪くは無い。
でも、小さいからすぐに食べ終えてしまった。
ダンがおかわりをステラおばさんにねだって、新しいのをもらっている。
ステラおばさんって、子供の教育はしっかりするけど、理不尽に怒る事は無いんだよね。
お腹を空かせた我が子には敵わないか。
「チヤちゃんは、おかわりいるかい?」
「ううん、お腹いっぱいだよ。ありがとう」
自分もお腹が空いているだろうに、ステラおばさんは私にも気遣いを欠かさない。
いい人だよ、本当に。
「ダンはもうダメだよ!ほら、袋の中が空っぽだろ?夕食を待ちな!」
「えー!そりゃないぜ!あ、じゃあ、肉を焼いてくれよ、母ちゃん!」
「焼けないわっ!ゴブリン肉は下処理をしないと、臭くて食べられた味じゃないのは知ってるだろ!」
「ちぇー」
私は魔力の回復を見てみる。
うーん、275魔力か。
何か食べ物を買えるかな?
ロールパンは柔らかいのとスカスカな中身すぎてお腹に溜まらないだろうな。
あっ、フランスパンの少し小さいのならある。
小さくても子供には十分大きいから、お腹いっぱいになるだろう。
店主側の後ろは民家だ。
隠れて通販で買い物をするわけにはいかない。
トイレに行ってくるって言おう。
「ダン、ちょっとトイレに行ってくるからね」
ちょうど昼食が消化された頃だから、普通にトイレに行きたい。
「ダン、市場の共同トイレに案内してあげな」
「わかったー。ついでに俺もいってくる」
そういや私、トイレの場所知らなかったや。
そこら辺の民家のを借りると思ってた。
「ほら、行こうぜ」
手を繋ぐのは普通なのか?
そして、少し歩いたら、ほったて小屋みたいなのが見えてきた。
古い……。
民家を潰してトイレにしたのかもしれないな。
何故かダンと手を繋いだまま小屋の中に入ると……!?
男女でトイレが分かれて無く、3つ、地面に穴が並んでいた。
ダンはズボンを下ろして、小さなゾウさんをポロリとしていた。
「だ!ダン!一緒にするのは恥ずかしいからっ、ダンが外に出てきたら入るね!」
「あっ、えっ?」
ダンが戸惑ってたけど、私には無理だ。
某国のトイレと同じだ。
コレは無い。
まあ、ダンがいないうちに、フランスパンを2本買っておこう。
あー、またポイントが無くなった。
……眠い。
「終わったぞー。チヤも小便してこいよ」
「じゃあ、ダンはこれを持っててね。行ってくる」
「えっ?チヤっ?!」
私に市販のフランスパンを渡されたダンは、また戸惑っていた。
まぁ、いきなりフランスパン2本を押し付けられたら困るだろう。
私も用を足して、トイレットペーパーをアイテムボックスから出してふきふきする。
証拠隠滅はスライムさん。
……今度、除菌シートでも買うかな。
手を洗わないのに慣れてたけど、流石に不衛生だ。
私がトイレから出ると、ダンが詰め寄ってきた。
「おい!チヤ!これなんだよ!さっきまで何にも持って無かったじゃんか!」
しまった。
誤魔化せなかったか。
まあ、いいや。
普通のアイテムボックス持ちという事にしておこう。
「こそこそ、ダン、実はね、私のスキルでね、アイテムボックスがあるの。そこに入れてたんだよ」
「あいてんぼっくす?」
あ、ダンは知らなかったのか。
それに「あいてん」って言ってる。可愛い。
「あのね、手で荷物を持たなくてもいいスキルって事」
「おお!そいつはスゲェ!」
理解してくれたみたいだ。
「1つはダンはあげる。もう一つは私が持つからちょうだい」
ダンはマジマジと自分が持っているフランスパンを見ている。
「チヤ?コレなんだ?」
「パンだよ」
「えっ!パンって、高いやつじゃないか!貰っていいのか!?」
素直な少年よ、真っ直ぐ育ってくれ。
「うん、いいよ。私のはステラおばさんと分けて食べるから、それはダンが全部食べていいよ」
「本当か!?」
「うん」
すっごい嬉しそうな顔をしたダンは、私と手を繋ぐのも忘れて浮かれている。
そんなに喜んでくれて良かったよ。




