スイード伯爵家領地に帰還中 10
チヤは馬車の中で怖かった記憶を思い出したが、育ち盛りの空腹が美味しそうな料理を前にして怖い記憶が飛んでいった。
「さあ、皆、食べようか。
実りをお恵みいただきありがとうございます」
「「「実りをお恵みいただきありがとうございます」」」
簡単な野菜炒めに見えるが、王都では貴重な野菜がふんだんに使われており、肉も一口ほどの肉がゴロゴロと入っているので、満足感が半端ない。
パンの品質はスイード伯爵家よりは低く感じられるが、麦の風味が少し薄いだけで香ばしく美味しい。
霧吹きでパンの表面を濡らして焼いたようなパリッとした食感だ。
何よりも、家族で囲む食卓は素晴らしい。
今は子供はチヤ1人だが、領都に行けばお姉様の子供もいるだろうし、伯父さんの子供もいるはずなのだ。
チヤは美味しい料理と期待に胸とお腹を膨らませて、また馬車に乗り込み、街道に出て、走り始めた。
街にいた時間は2時間程だったが、ゆっくりと手足を伸ばせたし、用も足せた。
お母さんの良い香りも補充したし、チヤはいつのまにか満タンになっていた魔力を使い『通販』でポーションを購入してから、おじいちゃんの膝を枕にして寝た。
魔力を使うと眠くなるんだってば。
ーー密かに子供2人を同行者に加えて……。
◇◇◇
チヤはおじいちゃんに優しく肩を叩かれて目が覚めた。
「おお、起きたかい?これ以上寝ると夜に眠れなくなるよ。今日は町に泊まるからね。少し質素になるが我慢しておくれ」
チヤは目覚めたばかりの頭で考えた。
王都の貧民街よりは質素では無かろうと。
「おはよう、おじいちゃん」
顔を上に向けると、温泉でシワの無くなったおじいちゃんが顔をでれっとさせていた。
チヤが可愛くて仕方がないらしい。
頭を優しく撫でてくれる。
「魔物の襲撃はあった?」
「あったがねぇ、初日より楽だったようだよ」
魔物の襲撃があっても目が覚めなかったとは、チヤは明日は魔力を使い切るかどうかを悩んだ。
馬車旅にも飽きてきたから眠気に任せるままに寝たけど、結構危ないかもしれないと気がついたのだ。
多分また、馬車が速度を上げたのは想像できるのだが、チヤはちっとも起きなかったのだ。
魔物の襲撃に気がつかなかった。
これは危うい。
そして、シミュレーションは大事なので、いざと言う時の護身用の武器は金にもの言わせて通販で買ってあるが、実際に使った事は無いので信用できるかわからない。
異世界産だしね。
幼児も使えるモノだしね。
起き上がって窓の外を見ると、相変わらずに騎士がチヤの視線に気がついて「何か御用ですか?」と言う顔を見せて来たので、手を振っておいた。
なんか、あの騎士様、気配察知のスキルでも持っているのかな? いつ見ても私の視線に気がつくから不思議。
ずっと、おじいちゃんに懐いていたけれど、領都の屋敷に従兄弟がいるのなら、もう大っぴらに祖父祖母に甘えられないだろうと、おばあちゃんにぴとっと引っ付いた。
「あらあら、甘えん坊さんね」と言いながらも、まんざらでも無さそうなおばあちゃんの香りに包まれて、少し体臭がお母さんに似てるかも? と思いながら小さな足を伸ばした。
少しウェンズが寂しそうにしたのをチヤは気が付かずに、「おばあちゃんのお胸が普通……?」と、疑問に思い、つるぺたな、いや、慎ましやかな胸はおじいちゃんからの遺伝か! と気がついて、まだ見ぬ従姉妹に親近感を感じた。
従姉妹全員がおじいちゃんの血筋だからだ。
そこで、ハッと気がついた。
私も木族のお父さんのおかげで将来の胸にに希望が持てるが、従姉妹達もまた、配偶者、即ちお姉様の夫と伯父さんの奥さんのお胸の遺伝子も受け継いでいるのだ。
親近感を覚えるのは早計かもしれない。
とかなんとか、チヤが考えているうちに、町の入り口に着いた伯爵家一行は、門番からの歓迎を受けて中に入った。
チヤが立ち上がって窓から顔を出そうとするのに、おじいちゃんに「危ないから」と阻まれてしまい、祖父の膝の上に戻った。
ウェンズは孫を膝の上に乗せてご機嫌だ。
先行していた騎士達が押さえておいた宿にスムーズに入り、まずは旅の汚れを落とす為に浴槽の無いお風呂に入って汚れを落としてから宿の部屋に待機して、夕食の準備が出来たら、町特有のどこかほのぼのとした夕食をゆっくりといただき、ちょっと硬いベッドに懐かしさを覚えながらもお母さんと一緒に寝た。
チヤ的には、異世界あるあるの野営とかを少し期待していたけれど、実際に旅をするなら野営では無くて、普通の宿に泊まる方が100倍マシだ。
わりと、町にしては良い宿だったようで、布団も臭く無かったし、異世界あるあるのような体が痒くなる事も無かった。
そこでチヤは「あれ?」と、気がついた。
貧民街に住んでいた時も布団は臭かったが、体に痒みは出なかったな、と。
もしかしたら、身体に悪さをする系のアレルギーになるヤツはいないんじゃないか?
それなら、それだけで異世界生活が快適になるってもんである。
それからさらに気がついたが、貧民街にいた時の私とお母さんの髪にうじが湧いて無かったのも不思議だったのだ。
異世界の生態系に少し興味が湧いたチヤだった。




