カレーが食べたい 3
そして、チヤは食欲に負けて、厨房の料理人が小皿に分けてくれたちょっと煮込み足りないしゃびしゃびなカレーをスプーンで口の中に入れた。
ああっ、カレー様はココにおられた……。
幼児のトロ顔を厨房の料理人に見られているのに気がついたチヤは、恥ずかしさを誤魔化す為に指示を飛ばした!
「カレーがしゃびしゃびです!とろーっと、とろみが出るまで煮込んでください」
「「「はい!」」」
そして、通販で手に入れた『お米』を魔道具に変えた炊飯器に料理人にセットしてもらい、操作はチヤがした。
ふふっ!
一升炊きで足りるでしょうか?
チヤはカレールゥが作られている業務用鍋を見ていると、不安になってきた。
あ、あきらかに、カレーの量が多いです。
一升炊きでは、足りないかもしれません。
チヤは業務用の炊飯器を魔道具化して通販で購入してから、厨房の作業台に出して、またしても米を炊く指示を出した。
チヤは気がついていなかったが、厨房に密かに癒しを提供していた。
涎を垂らさんばかりにカレーなる食べ物に釘付けになっている小さい幼児に、料理人達はチラチラと視線をやって「早く食べていいよ」と言いたくなったが、その幼児お求めの料理はまだ出来上がっていない。
スパイスの香りが充満する厨房に、そわそわと落ち着かない小さな幼児は厨房の癒しになっていた。
◇◇◇
そして、チヤはお腹の空腹を刺激する匂いに耐えられずに、カレーライスの完成形の本の写真を見せてから、素早く食堂に移動した。
もちろんだがチヤが1番のりだ。
今日はおじいちゃんとおばあちゃんと伯父さんがお出かけで、お姉様とお母さんはいるので、そわそわと食堂の椅子に座って飲み物を飲みつつ、みんなが集合するのを待っていた。
それを後方で見ていた侍女のセーラと護衛のエルシーナは、いつもより幼い仕草をする主人に微笑ましい気持ちになっていた。
それと同時に主人がそんなに気になる料理とはどんなものなのか?と気にもなってもいた。
厨房でチヤの後ろからセーラもエルシーナも見ていたが、口の中に唾液が溜まってくる香りが漂っていた。
スパイスがまだ珍しい『チルビット王国』で。
あんなに大量のスパイスで、業務用の大鍋で作っていたのだ。
使用人の分も計算ずくで昼食にいただけるはず。
セーラもエルシーナもまだ若い。
交代で『カレー』なるものを食べるのが楽しみである。
◇◇◇
「あら、チヤちゃん、今日は早いのね。廊下にまで漂っている香りに関係があるのかしら?」
お姉様とお母さんが、いつもより早い時間に食堂に現れましたが、私のお口は、もうしんぼうたまりません!
「早くっ!早くっ!席に座って!今日のお昼は『カレーライス』ですよ!」
チヤが興奮して言うと、お姉様もお母さんも早く食べたかったのか、意外と素早くお母さんがチヤの隣に座って、お姉様が向かいに座った。
配膳してくれる使用人が料理を持ってくる為に食堂を出たところで、チヤの興奮はMAXに近づいていた。
「私の鼻でも香辛料をたくさん使った贅沢な料理だと分かるわ。チヤちゃんにとって『かれーらいす』って、どんなものかしら?」
お姉様がチヤに話しかけてくる。
チヤは心の赴くままに答えた。
「家庭料理の代表です!一般料理ですよ!」
この部屋にいた誰もが「嘘だ!」と思ったが、誰の目から見ても幼女チヤは普通の精神状態ではない。
体はそわそわと揺れているし、配膳係が扉から入ってくるのを今か今かと待っている。
それに、貧民街に住んでいたのだから家から高級な香りが漂う「かれー」なるものは料理できないはずで有る。
お姉様はソフィアに問うような視線を向けたが、ソフィアは首を横にふるふると振る。
否定、だ。
それでは推測どおりに『孤児院学校』で食べたのか?と、不思議になる。
今でこそ『チルビット王国の教会』であるが、1年と少し前までは『神聖教国の教会』であったのだ。
大分、改革は進んだが、まだ教会から他国を支配しようとする『神聖教国教会』には不審がある。
では、チヤはどこで『かれー』なるものを食べたのか?
貧民街の子供達の人心を掌握する為だけに『高価な香辛料』を大量に使ったのか?
いや、誰が考えても貧民街の子供達を掌握する為に貴重な『香辛料』を『大量に』使う訳が無い。
貧民街からの反乱を唆すにしても。
貧民街から『反乱』が起きても衛兵を動員すれば、すぐにでも沈静化するだろう。
そして、貧民を下に見ている者達も馬鹿では無い。
貧民にそんな力が無いのは誰でも承知だ。
貧民は「今日を生きる」為に一生懸命で『反乱』や『革命』などには興味が無いと分かっている。
貧民は、ただ慎ましく、自分と家族が健康で生きる為に働いているのだ。
王都を一歩でも出れば、幼い子供の平民も労働力になる世の中で、貧民街の子供達は痩せて栄養は足りていないが遊ぶ余裕がある分、幸せである。
特に移民に制限を設けていないチルビット王国だが、前にも説明したとおりに『移住は命懸け』である。
辺鄙な村で暮らすよりも『王都』で貧民としてでも暮らしたい村人がいるが、チルビット王国は意外にも広大な土地を持っている。
王族や役人は、広大な土地を管理するすべを持たないので、貴族に土地を与えて国に必要な税金を納めさせて、あとは国の法に違反しない治世を求めている。
社交は『家々の繁栄を見る』場でも有り、不正の疑いの有る貴族を絞り、『王族が絶対的支配者』だと知らしめる場でもある。
だから、『社交』として『パーティー』や『お茶会』を王族主催で開いて、その家の財力と治世と恭順を王族が見極める為に監視する。
そして、『王都』で『犯罪』を犯す愚か者を絞り、その貴族が治めている土地に『違法行為』があるのかをピンポイントで調べるのだ。
まあ、王族の『社交』の目論みは置いておいて、今は『カレー』である。




