カレーが食べたい 1
貧民街の自宅に久しぶりに来て、服の予約を見ながら、ぺぺぺぺッと服を通販で買っていきます。
それを全て買ったら、アイテムボックスで持ちながら第3地区から第1地区まで歩いて配達しては服の購入代金を貰っていきます。
もうそろそろ夕方ですからね。
仕事帰りにしか受け取れない人にも配達して、届けられなかった予約の服はおそらく私がスイード伯爵の領地から帰還した夏真っ盛りになりそうです。
これからステラおばさんが受けてくれる服の予約は、受け渡しが遅くなる人達なので少し売り上げが落ちるかも知れません。
まあ、いいのです。
『貧民街服屋』は、地域貢献のほぼボランティアですからね。
貧民街の住人でも新品の服が買えるという、希望のようなモノでしょうか?
さて、馬車の待機所まで戻って、家族の待つ屋敷まで帰りましょうか。
◇◇◇
夕食です。
今日は家族のみんなが揃っています。
最近は各々、王都の知り合いにお別れの挨拶などをして忙しそうにしています。
朝食と夕食くらいしか一緒にいれませんね。
ですが、孫馬鹿は炸裂しております。
私は何でも食べ物を残さずに平らげますが、何故か私の嫌いな味の食べ物が日に日に減って行きました。
もちろん、お母さんが『黒い調味料』を厨房に普及させたと理由も有りますが、異世界あるあるのよくわからない食べ物などが食卓から消えていきます。
行儀悪く、他の家族の配膳されている料理を見て少し納得しました。
いつも料理長が食事の時間に食堂で静かに控えているのですが、どうやら何かしらの能力で私達の好みを把握しているようなのです。
料理長すげぇ。
私の料理の品数も減ったり増えたりと初めはしていたのですが、ある時から私の満腹中枢が満足する量で安定しました。
お母さんの料理を見ると、見事に辛い味付けの料理が除外されています。
それでも、食事の栄養バランスを崩していないように見えるのですから、厨房の料理人は大した者です。
しかしーー
「カレーが食べたい」
毎日毎日、貴族の料理で貧民街育ちの私のお口が贅沢になり、強烈なスパイスの入っているカレーを求めたようです。
この時の私の小さな呟きに料理長とお母さんだけが反応しました。
私は行儀悪くもスプーンを口に咥えてもぐもぐしていました。
「あら?チヤは何が食べたいの?」
私は子供ように甘えた口調で答えます。
「カレー」
その時、料理長がチヤの背後まで近づいてきていました。
「ソフィア様、その『かれー』なるものを教えていただけますか?」
いきなり背後から料理長の声が聞こえてびっくりしたのはチヤだけだったようだ。
いつもの料理長の定位置と今の位置を見比べてキョロキョロとしているのを、他の家族は微笑ましそうに眺めてきます。
そして、お母さんが料理長に言いました。
「ごめんなさいね。チヤは知っているようだけど、私は知らないの。孤児院学校ででも教えてもらったのかしら?チヤは『かれー』?を作れる?」
チヤのお口はカレーの口になっていたので、自信満々に答えた。
「うん!作れる!」
「それでは、チヤ様、明日の朝食後に『かれー』なる食べ物の作り方を教えていただけますか?」
「うん!ありがとう料理長!」
「いえいえ。新しい料理は、とても気になります。美味しいのですよね?」
「あのね、スパイスが入ってて、美味しいの」
チヤは前世でスパイスからカレーを作ったことなど一度も無いのに当たり前のように言った。
それを聞いた料理長は、ピーンッ!と来た。
『スイード伯爵家』でタブーになっている『エルフ』関係だと。
『春の社交』が始まって、王都屋敷に今年もお迎えできることになった『スイード伯爵家』のご家族の皆様。
使用人皆の給料は良く、屋敷敷地内に有る「使用人棟」にて、スイード伯爵家の皆様がご滞在で無いにも関わらず、使用人を住まわせてくれて、使用人専用の馬車もだが、メンテナンスの為に伯爵様とご家族が乗る馬車の貸し出しをしてくれて外出にも申請すれば使用出来るし、何よりも「貴族街」に住んでいる事実が王都民からの憧れだ。
それに、子供達も自由に外出できて、中には他家の貴族のご子息などと友好を深めている者もいる。
(他家の貴族の使用人の待遇などを聞くと、酷いところは逃げたいほどに酷い扱いをされている。
それに比べてスイード伯爵家は皆、穏やかで、使用人に感謝の言葉も頂けて、ここ以上に働きがいのある職場は無いんじゃないか?)
と、皆が口を揃えて言うのだから間違いない。
だから、『春の粛清』が信じられない事件だった。
屋敷のメイド長を始めとした使用人が若いものを中心に何人も裏切り者や他家のスパイが出たのだ。
心有る使用人は衝撃を受けた。
自家の秘密を他家には話せないからと内輪で話題にしていた話が流出していたのだから。
だが、ショックを受けたからと毎日のお勤めは無くならない。
幸いにも使用人に優しい環境であるので、休憩をしても咎められないし、その日に終わらせる仕事を全てすれば、のんびりとお茶をしていても咎められない。
そして、年配の使用人に多い『スイード伯爵家を異様に崇拝している者』達が屋敷を引き締めているので、怠惰な者は続かないし、「嫌な人だな」と感じた使用人が数日でいなくなることも珍しくない。
結果的に職場の人間関係も良いし、体も心ものびのびと働かせていただいている。
だが、この伯爵家は不思議だ。




