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すのーでいず   作者: まる太
第三章
65/84

海に来たよ 1

「海ぃ---!」

「海だ!」

「海だわー!」

「海や!」

 冬耶、氷兄、母さん、太一の叫び声が自家用車である白いミニバンの車内に響き渡った。

 運転席に父さんが座り、助手席には母さん。

 3列シートの2列目に僕と冬耶、最後尾が氷兄と太一という順番になっている。

 太一の両親は共働きでお店をしている為、お休みとかに遊びに出掛けるのが難しい。

 そこでよく我が家の旅行についてきていた。

 高校生になり太一も遠慮しようとしたらしいが、母さんから、

「今更遠慮なんてしないの、太一君はうちの身内みたいなものだからね」

 と言われて一緒になっている。

 このあたりが、太一も母さんに頭が上がらない原因なのだろう。

 さて、その中にあってテンションの低い僕は白い海岸線を眺めていた。

 朝一で向かった為、現在は午前10時ぐらい、太陽が燦々と輝きとても暑そうだ。

 結構な数のビーチパラソルがすでに立てられており、これから更に混雑してくるのを予想するのは簡単だった。

「雪姉ちゃん、テンション低いよ! ほらー海だよ!」

 冬耶に言われるまでもなく、来たくなかったんだからしょうがないよね!

「ああ、海だね。僕のことは気にせず楽しむといいよ」

「えええ、なんで? 折角泳げるようになったんだから、一緒に海で遊ぼうよ」

「冬耶、海は遊ぶ場所じゃないんだぞ? 漁師さんの神聖な漁場なんだ、僕達みたいな者が気軽に汚していい場所じゃないんだからな」

「むぅ……」冬耶は頬を膨らまして不満そうだ。

 僕の完璧な理論の前では中学生等敵じゃないね!

「そういえば雪、いつの間に泳げるようになったんや?」

 冬耶が終わったと思いきや、今度は太一から質問が飛んできた。

 そこで、太一にはプールに出かけたことを話してなかったことに気付いた。

「ええとね、この間、並木マリンパークに遊びに行って、冬耶に習ったんだよね」

「おおお、あのカナヅチが凄い進化やな」

「どういう意味だよ!」

「そのまんまやろ?」

 飄々とした感じの太一の表情がムカツク!

「雪姉ちゃんを泳げるようにするの大変だったんだよ! 太一兄ちゃん」

 冬耶がしみじみと言っている。プールの話題が出たことで機嫌は治ったらしい。

「そか、偉いぞ冬耶。それで雪の水着姿はどうやった?」

「う……うん、凄い可愛かったよ」

 何故赤くなる冬耶?  

「太一、冬耶の奴はな、抜け駆けして雪と二人だけで遊びに行ったんだぞ? どう思うよ?」

 それまで黙っていた氷兄が不機嫌そうな声を出した。

「そやねぇ、どうせならオレだけでも一緒に行けたらよかったですわ」

「おい! そこはこの俺と雪だけで行くべきだろうが!」

 氷兄がポカリと太一の頭を叩き、

「痛いですわ氷兄ちゃん」

 太一が頭を抑えてとても痛そうなフリをしている。

 この二人、実はとても仲が良いんじゃないかといつも思うんだよね。  

「まぁ、でも今日は雪の水着姿を心行くまで堪能できるからな、其の分も取り返すさ!」

「そうね、雪ちゃんの水着姿はママも見たことないし気になるわ」

「雪は肌白いから綺麗やろね」

「うんうん、僕も又見たい!」

「おお、今から楽しみですね」

 ……何故僕の水着姿で意見が一致してるのだろう?

 どう考えてもおかしいよね。

 運転に集中してる時はあまり喋らない父さんまで混ざってるし、邪な微笑迄浮べているよ!

 そもそも、僕は海に行くとは渋々了承したけど、水着になるなんて言った覚えがない。

 僕の荷物の中にはノートPCが入っているし、今日泊まるホテルでずっとネトゲをしてる予定なんだからね! 


 

 現地のホテルに到着したのが11時過ぎ。

 関東に住んでるから日本海は遠かったよ。 

 まだチェックインは無理だけど、宿泊客の車はホテルの駐車場に止めておいてもOKらしいので、そこに車だけ残してお昼ご飯を食べることになった。

 この時点で僕の予定と狂ってきた気がする。

 しかし、まだ僕には秘策がある。この作戦の前に僕が破れることはないだろう。

 今日の僕は賢いのだ。あ、いつも僕は賢いのだ!



 ホテルから砂浜までは徒歩5分、だけど僕達が向かう場所は近場にある地元のお蕎麦屋さんだった。

 折角洋服のままなのだから、名物を食べようということである。

 お店に入ると、お蕎麦と醤油の匂いが漂ってきた。

 朝早かった為に、食べたのがコンビニのおにぎりとサンドイッチ、もうお腹がぺこぺこだよ。

 店員さんに案内されて、僕達は座敷に案内された。

 6人で座れるような場所が此処しかないみたいだ。

 早速、全員が座り各自メニューを参照する。

 僕が一番奥、その横に母さんが座り父さんと続く、対面は氷兄、冬耶、太一の順だ。

 何を食べようかな?

 現在の候補が鴨せいろと茶蕎麦。

 両方とも余り食べる機会が無さそうだし、試してみたいよね。

 うーん。迷うなぁ。

「雪は何を頼むんだ?」

 そう考えていたら、氷兄が訊いてきた。

「ええと、鴨せいろと茶蕎麦で迷ってるんだよね」

「なるほどな、それだったらさ、雪が鴨せいろを頼んで、俺が茶蕎麦を頼むから半分ずつにするってのはどうだ?」

「おお! それだと両方とも食べれるね。でも、氷兄はいいの? 食べたいのあるんじゃない?」

「気にしない気にしない。折角旅行にきたんだから、雪の好きなものを食べさせてやりたいしな」

 ううう、氷兄が優しいよ!

「だったら、その言葉に甘えちゃおうかな。ありがと氷兄」

「おう」氷兄は気にすんなと笑っている。

 僕と氷兄の注文が決まったので他の皆を見ると、まだ悪戦苦闘している最中だった。

 太一だけはメニューを見てないからもう決定したみたいだね。

「太一君は何にしたのかしら?」

 そんな太一に、母さんが話し掛けた。

「あ、オレはもり蕎麦にしよう思います」

「あら? それだけでいいの? 高校生なのに小食ね。氷君なんてきっとお蕎麦の他にサイドメニューを頼みまくると思うわよ?」

「あ、氷兄ちゃんは運動部ですし、それに今月お小遣いが厳しいので」

 その一言で母さんが溜息をついた。

「……太一君? この旅行の最中に君にお金を払ってもらうことは無いわよ?」

「いや、でも、連れてきてもらってご飯まで払ってもらうんは気が引けますし」

「だからね、そもそも連れてきて貰ってるという考えがオカシイのよ。太一君のことは氷君達と一緒と思っているのですから、気にする必要なんて無いのよ。子供は大人に甘えなさいな。だけど雪ちゃんは別格だからね!」

 母さんは僕を見て怪しい視線を送ってくる。

 うん、最後の部分が無ければ名言だったのに惜しいね。

 僕はさり気なく座っている座布団を10cm程壁側に寄せた。

「いや、でも……」

「ふむ、それならこうしますか。太一くんは僕の写真撮影の協力をして下さい。助手が欲しかったんですよ」

 まだ渋る太一に、父さんが代案を伝える。

 しかし、その内容が嫌な予感しかしない。

「ねー父さん、勿論海の撮影だよね。ぼ、く、は一切協力しないから、そこのところ大丈夫だよね?」

「あはは、雪くんは冗談が上手いですね。雪くん以外の何を撮るというのですか。そうだ、太一くんも雪くんが素直に写真撮影に協力するように説得して下さいね」

「はぁ、そんなことでいいんですか?」

「はい構いませんよ。桜子さんが言ったように、僕も君のことは小さい頃から知っているのです。身内みたいなものですよ」

「ちょっと、なんで二人だけでそう決めてるの? 僕は嫌だからね!」

「はいはーい。それじゃさっさとメニュー決めるのよ」

 僕の反論は、母さんの発言で掻き消された。

 絶対水着になんてならないし、僕はホテルでネトゲしてるんだから!


 

 各々の前に注文した品物が並び食べ始める。

 勿論僕の前には鴨せいろ。

 氷兄は茶蕎麦の他に海老天丼を頼んでいた。

 だから無駄に身長ばかり伸びるんだよね。

 10cmぐらい僕によこせと言いたいよ。

 太一もなんだかんだで、ミニ親子丼のついた蕎麦セットを注文した。

 今更遠慮なんて必要ないのに、無駄なことをしてると思う。

 大体ね、その遠慮する心があるなら、僕にもした方がいいんじゃないかな。

 母さんと父さんは同じ、天ざるセット、冬耶はカレー南蛮だった。

 うどんは危険だから、冬耶みたいに落ち着きの無い子は危険な食べ物だ。

「雪姉ちゃん。お蕎麦跳ねるから気をつけてね」

 ……逆に僕が心配されたよ。

「うん、雪は落ち着きが無いから気をつけた方がいいな」

「氷兄ちゃんの言う通りやね」

「そうよね」

「気をつけて下さい」

 他の皆にも言われた。

 僕の評価はどうなってるんだろうか?

 これでもFSCCでは、冷静沈着なナイスミドルなトールさんで通ってるんだよ?  

「ふん、僕の味方は君だけだよね、鴨せいろ君」

「雪、お蕎麦はしゃべらんぞ?」

 氷兄の余計なツッコミが聞こえたけど無視だね。  

 鴨の風味がするタレに付けてお蕎麦を食べ始める。

 口に入れた瞬間、お蕎麦のコシと瑞々しさが歯から舌に伝わった。

 これがアルデンテって奴なのだろうか?

 あ、でもそれは、パスタかな、お蕎麦は何て言うのだろう。

 付け汁も出汁が効いててサッパリしてるのにコクがある。

 きっと秘伝の味付けなんだろうね。

 ――暫く食べていると、

「ほい、雪」

 氷兄が、半分減った茶蕎麦のトレーを僕の方に寄せてくれた。

 僕はまだ半分まで食べ終えてないので、急いで食べようとする。

 それを見ていた氷兄は、

「慌てなくてもいいぞ、まだ俺には海老天丼があるからな」

 と言って天丼の蓋を開けて食べ始めた。

 すごい食べっぷりだと関心する。

 作るときもなんでも美味しいと言って食べてくれるから、作り手としては有り難いよ。

 ――氷兄の言葉に甘えてゆっくり味わい、僕の分の鴨せいろが食べ終わった。

 うん、この味は頼んだ甲斐があったね。

「はい、氷兄」

「あいよ」

 氷兄の方に僕の鴨せいろのトレーを渡し、その空いたスペースに緑色の茶蕎麦を持ってくる。

 氷兄はもうそろそろ天丼を食べ終わりそうな勢いだ。

 早速茶蕎麦に手を付ける。

 こ、これは! 

 豊潤なお茶の香りが鼻の奥までふんわりとつきぬけ、穂のかに甘く、そして苦みがある。

 まさに大人の味! 僕の為にあるね。

 実際は、美味しいとしか思わなかったけど、そこはあれ、雰囲気は大事だと思うんだ。

 ずるずるっと食べていたら、

「雪、海老いる?」

 氷兄が割り箸に挟んだタレのついた海老天を見せてきた。

 お蕎麦屋さんの海老天は独特の味がして好きなんだよね。

「うん、くれるの?」

「おう、口開けろ」

 確かに、茶蕎麦の上に海老天のタレがつくのよくないよね。

 身を軽く乗り出して口を開ける。    

「はい、あーん」

「あーん」

 その口の中に氷兄が海老天を入れてくれた。

 もぐもぐ――

 からっとした天ぷらと、甘しょっぱいタレに浸った海老天は良い味加減だった。

「これも美味しいね!」

「だろー? だからあげたんだ」 

 こんなのを僕も作ってみたいね。

「雪ちゃん達、本当に仲がいいわよね。まるで恋人同士みたいじゃない」

 僕が海老天の味に夢中になっていると、母さんが横からとんでもない暴言を吐いてくれた。

 何故に? そして、今の行動を思い出す。

 これはひょっとしてアレだろうか? 

 恋人同士がやるという「はい、あーん」という奴では。

 でも、肉親の場合は普通にある筈だ。

「全然違うよ。だって、相手が氷兄じゃない」

 僕は反論しているものの、氷兄はニヘラと顔が崩れている。

 む! オカシイ。

「ふーん。まぁいいわ。はい、雪ちゃんアイスよ」

 母さんが天ざるセットについていた抹茶アイスを僕の前にスプーンで出した。

「はむ」

 思わず、ぱくりと口にする。

 うん、冷たくて美味しいね! 自然と笑顔になってしまう。

「あーん。愛らしいわ、何この可愛い生き物は!」

 いきなり母さんに頭を撫でられた。


 

 その後、何故か僕の好きそうなものを皆が代わる代わる出してきた。

 僕が口にする度に、変な声が聞こえた気がするけど、僕的には美味しいからいいのかな?

 さすがに、カレー南蛮の冬耶からは何も貰わなかったけどね! 

海編スタートです。


このまま水着シーンとか無かったら、怒られるんだろうなぁ。


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