夏の夜は 1
「タタン、タタタタータタ……タンタンタンタン、タタタター」
お気に入りのスマホ着信音が部屋に流れている。
2人の女神が居る島に漂着した、赤髪の剣士2のオープニング曲だ。
「うんうん、盛り上がるね! これ以上の曲は無いよ!」
着信名を見ると、太一だった。
これは……着信音を聞くしかないね!
太一の電話=どうせ碌なことじゃないもん。
――着信音が佳境を越え、もうすぐ終了となっても未だに続いていた。
あれあれ? いつに無くしつこいな? ちょっと気になってきた。
仕方ないので、曲の終了と同時に電話に出た。
僕って優しいね。だって、リプレイを聞かなかったんだから。
……ノイズが入り繋がったのを感じる。
「はーい、どしたのー?」
「遅いわ! なんで早く出ないねん!」太一はお冠のようだ。
「いやさ、僕にも用事ってモノがあるんだよ。偶々手が離せなかったの」
世の中には嘘も方便ってあるしね。
「さよか、どうせ着信音いいわーとかアホなことしてたんやろ?」
「嘘、見てたの? ――じゃない、そんな訳ないよ!」
「……自分で白状してるし。いかにも雪らしいと言えばそのまんまやが、一度やったからって律儀に二度もするなや!」
むー、文句があるなら着メロを作った人に言って欲しい気がする!
「ほら、あれだよあれ、僕と太一の仲じゃない。他の人なら出来ないよ? 太一ってば得してるね」
「どんな理屈やねん。それは損言うんや!」
……なんだか、この流れは良くないかも。
「はいはい、それで何の用なの? 今夜の狩りの話?」
「ちゃうがな、いや違わないとも言うか、今夜金魚を狩りに出掛けへんか?」
「金魚? うーん。そんなモンスターいたかなぁ。それレアアイテムでも落とすの?」
「はぁ……なんでもかんでもネトゲに結びつけるのは雪だけやろな……金魚言うたら、金魚すくいに決まってるやろが」
凄い溜息つかれたよ!
「ふーん。金魚すくいねー。すくった後に困るだけな気もするけど?」
「いや、まー、その通りなんやが、普通女の子なら、キャー、可愛い、みたいな反応しないか?」
僕にそんなもの求められても困るね。
「全然興味ないなぁ。まだスーパーボールすくいでもして――ってアレもなぁ、ゲットした後に夜中にも係わらず投げて10分もしないうちに失くすという魔の屋台だよね」
「そそ、でっかいのなんて絶対取れへんもんな!」
「それじゃ、用事はおしまい?」
「こら、なんでそうなるねん! 金魚とかスーパーボールとかどうでもええねん。今夜のお祭り行こういう話やねん」
どうでもいいなら、金魚すくいとか言わなければいいのにね。
「お祭りかぁ、少し心に響くものがあるよ。でもね残念ながらお金が無いんだよ。だから行きたくてもいけないのさ」
「はぁ? なんで家に引きこもっててお金が無いんや。使い道がないやろが?」
むむ、失礼な。
「太一のせいでお金が無くなったんだけどね?」
「どういうこっちゃ?」
「ほら、ボイスチャット用のヘッドセットを買ったからだよ。にも係わらず狩りの時は太一以外使っちゃ駄目って、イマイチ微妙なんだけど」
「ああ、それかぁ、確かに今月買ってたな。ってそれはしゃーないやろが、オレの華麗なネカマプレーがバレるやろが」
「それって、僕にはまるで関係ないよね……」
「そうとも言うな!」
えばって言うな!
「そういうことだから、1人で行ってくるといいよー」
「そんな寂しい真似出来るか。ああ、しゃーないなぁ。心優しいオレが奢ってやるさかい、一緒に行こうや」
おお、太一が優しい。
「うーん。そう言われると行っちゃおうかなって気になるね。でもさ縁日の屋台って高いじゃない。それを全部奢って貰うのはさすがに気が引けるし、悪いから今日は諦めるよ」
「変なところで律儀やなぁ。しゃーないオレも諦めるわ。雪が行かないのに行ってもツマランもん」
「うん、ゴメンねぇー」
「あいあい」
そこで、電話が切れた。
太一に悪い事しちゃったかな。でも、焼きそば1つで500円だからね。
何品も奢ってもらう訳にはいかないよ。
さてと気分を変えて、そろそろお昼の準備でもしようかな。
そう、思った瞬間、又スマホが鳴った。
今度は楓ちゃんだったのですぐに出る。
別に贔屓なんてしてないんだからね! とツンデレっぽく言い訳しておくよ。
「もしもし、雪ちゃーん?」
「違うよー」
「そんな綺麗な声は雪ちゃん以外居ないからね!」
あれれ、すぐバレたよ。そんなに特徴的なのかな?
「あはは、楓ちゃんは鋭いね!」
「もう、そんなことはいいんだよ! それより今晩暇ぁ?」
今晩? ってことは……
「まさかお祭りのお誘い?」
「おお! ほわほわの雪ちゃんにしては凄いね。どうしたの?」
楓ちゃんの中で僕がどういう扱いなのか是非聞いてみたいね!
「きっと、楓ちゃんと違う成長の賜物だと思うよ」
「むぅー。雪ちゃんどういう意味!」
「あれだよ。子供は夜に出掛けちゃいけないの!」
「わたしは、じょしこうせいなんだよ!」
「おお! 初めて知ったよ!」
「むきー! 雪ちゃんの仕打ち忘れないからね!」
僕の反撃は当然だよね!
「まぁそれは置いといて、結論を言っちゃうけど、お金が無いからいけないんだよね」
「えええ、雪ちゃん無理なの?」
「うんうん、ちょっと買い物しちゃってね。お祭りに行く資金が無いんだよね」
「はぅ、残念。遥ちゃんと2人かぁ」
「あら? 遥も行くんだ」
「うんうん、毎年行ってるんだよ」
「なるほどね。ごめんよー」
「ううん、仕方ないよ。又今度遊びいこー」
「了解!」
電話が切れた。
この様子だと、皆お祭りを楽しみにしてるんだろね。
でも、ヘッドセット欲しかったし、僕的には概ね問題は無いかな。
その後、何故か阿部君からも電話が掛かってきた。
内容は同じだったけどね。
すっかり電話番号を教えてたのを忘れてたよ。
いやー、びっくりしたよ。
時間になったので、今度こそお昼ご飯を作ろうとリビングに下りた時だった。
「雪くんちょっといいですか?」
父さんにソファーから呼び止められた。
この一言から不幸がはじまるなんて、僕は未だ気付いていなかった。
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もふもふ要素を補給する為に、いきなりコンコン稲荷神! 書いてみました。
良かったら読んで頂けたら幸いです。




