これはデート? 2
うーん。いつまで手を繋がなくてはならないのだろう?
すごい恥かしいことをしてることに、今更ながら気付いてしまった。
かといって、氷兄が手を握っている為、力を抜いても一向に外れない。
僕に我を忘れさせるとは、デュランダル、恐るべし!
さすが聖剣の名を戴くだけのことはあるね。
氷兄が向かった先はシネマコンプレックスだった。
一つの建物の中で、複数の映画を同時上映している施設だ。
「ちょうど良いタイミングだな。時間も後15分で開演みたいだし」
「今が11時、15分後ってお昼に被っちゃうけど、それでいいの?」
僕の質問に、氷兄は当然とばかりに頷く。
「お昼時に行ったって混むだけだ。どうせなら空いてから食べようぜ。ポップコーンでも買っとけば問題ないだろ」
「ふむふむ。それで、この2本のうちどっちを見るつもり?」
この時間に同時に上映される映画は二つ。
一本はホラー、「腕輪3D」国産大ヒット作をリメイクした作品。
もう一本はコメディ、「温泉ローマ」こちらは、漫画を原作とした作品だ。
「ああ、無料チケットを貰ったから、腕輪3Dしか見れないんだ」
「そういうことかぁ、了解。これも見てみたかったし、昔の腕輪も面白かったから結構楽しみかも」
「だったら正解だな。そいじゃ、中入ろうぜ」
やっと手を放して貰えた。チケット出すのに片手じゃ無理だからね。
中に入ってトイレを済ませ、売店でポップコーンを2つ購入してから席を確保する。
この時間、穴場なのかもしれない。開演間近なのに手頃な席が取れた。
前過ぎず、左右の端でも無い、良い感じだ。皆ご飯時は避けるのだろう。
僕の左隣に氷兄が座り、その横に僕がシートを倒して座った。
そして、僕が抱えていたポップコーンの一つを氷兄に差し出す。
「サンキュー」氷兄はそう言って、代わりに持っていたドリンクの一つを渡してくれる。
「ありがと」それを受けとりお礼を言う。
大きめな座席のドリンクホルダーに、ポップコーンとドリンクを置いて、上映を待つ事にした。
館内が暗くなり、上映が始まった。
銀幕に写る巨大な映像、それを引き立てるように、大音量がスピーカーから流れ始める。
臨場感が明らかに家のTVと違う。
更にコレはホラーな訳で、時折、「きゃー」という女の子の悲鳴が聞こえてくる。
それが、恐怖心を相乗させる効果があるみたいだ。
僕はというと――普通に楽しんでいる。
ふふふ、元男だった僕なのだ。ホラー映画なんて可愛いものだよ。
横の変態が、期待外れみたいな顔をしてるのが面白いね。
どうせ、悲鳴を上げてしがみついてくるとか、そんな馬鹿な発想してたに違いない。
世の中そんなに甘くないのだよ。氷室君。
物語は中盤に突入し、さすがの僕も少し恐くなってくる。
恐がらせるのを目的に作ってあるのに、何も感じなかったら、お金返せっていうことだもの。
氷兄はというと……平気みたいだ。
変態は感覚すらおかしいのかな?
物語が佳境になるにつれ、映画にのめり込んでいく。
すると、左手に違和感を感じた。
チラリと見ると、氷兄の右手が僕の手をなぞっているのだ。
映画中に、喋るほどマナーを知らない訳じゃない。
すぐ止むだろうと少し我慢することにした。
しかし、ほっといたら逆に調子にのってきた。
指を絡めたり、指の付け根の当たりを擦ってくる。触り方がイヤラシイのだ。
……鬱陶しい。映画に集中出来ないだろうが!
右手で、氷兄の右手甲を思いっきり抓ると、「う」みたいな呻き声を出して、やっと手を引いた。
ふぅ……これでやっと、映画が見れるよ。
だがそれも10分は続かなかった。
「ひゃぁ」思わず小声を漏らして、口を右手で覆う。
左の二の腕に刺激を感じたのだ。
画面から再び目を外して見ると、僕の服の裾から氷兄の指がモゾモゾと動いている。
殺す!
丁度、良いことに、「「「キャーーー!」」」という叫び声が劇場に響いた。
僕は、怯えて氷兄にしがみつくフリをしながら、腹に2発ボディブローを入れた。
「うぐぅう」どうやらミゾオチに入ったらしく、氷兄は悲鳴を上げて丸くなる。
僕の力じゃ、そんなにダメージを与えれなかっただろうし、怪我の功名って奴だね。
その際に、なんてことするんだという非難の目を向けられたが、殺気を込めて睨んだら逆に大人しくなった。
うわ、一個シーンを見逃したよ!
後でとっちめてやる!
その後は、氷兄も懲りたらしく、手出ししてくることは無かった。
しかし、いつくるかと思っていた為に集中力が遮断され、いまいち映画の世界に没頭出来なかった。
「て、か、さ! 本当にありえないと思うんだよね。どうしてあんな事するの!」
シネマコンプレックスから出てすぐ、氷兄に溜まっていた不満をぶつけた。
「いや、その、暗い場所に居ただろ。その対比で雪の白い肌がより綺麗に見えちゃってさ、こう、なんていうか、なんとかなく……みたいな?」
可愛い言い方しても気色悪いだけなんだけど。
「そんなに、白いのが好きなら、バニラアイスでも買って食べとけばいいんじゃない? ああ、発砲スチロールを握っててもいいよ」
「えー。どうせなら雪を舐めたい。握るなら雪の胸の方が……」
……これはアレだよね。警察に突き出してもいいよね?
ああ、でも家族の恥を世に晒すと、結局は僕に跳ね返ってくるのか。
くそー肉親じゃなければいいのに!
「だからその発想を何とかしてよ! 危な過ぎて氷兄と一緒に遊ぶなんて出来ないよ」
「そ、それは困る。俺の生甲斐を奪わないでくれ。雪が居ない人生なんて、雪の大好きなシュークリームからカスタードを抜いたようなものだ!」
それってシュー生地のみかぁ、微妙かもしれない。
代わりにアイスでも入れとく手はあるな。
でも、カスタードのあの味わいは捨てきれない。
やっぱり微妙かぁ。
ってそんなことはどうでもいい! 危うく誤魔化されるところだった。
「じゃー僕に名案があるんだけど。冬耶を僕の身代わりに進呈するよ。好きにしていいよ」
最近変態に感化されつつあるし、ショック療法も必要だよね。
冬耶、がんばれ。お前のことは忘れないよ!
「冬耶? アイツは駄目だな。まるで昔の俺そっくりだろ? 冬耶を好きになるってナルシストみたいじゃないか。さすがにそれは、ありえんだろ」
変態なんだから、ナルシストの一つぐらい属性が増えても問題無い気がするんだけど。
「まぁ、頑張ってみなよ。冬耶なら僕も応援してあげるよ? そうすれば明るい未来が待ってるじゃない」
「いや、根本的に兄弟でとかありえんだろ? 雪は頭がおかしいじゃないか?」
……えーと、ここツッコムとこ? 僕は一体なんなんだろね。
「てか、それなら僕も大問題じゃない。氷兄も少しはマトモな部分が残ってたのね。少しホッとしたよ」
「は? 何言ってる。雪は別格! そんな小さな拘りに何の意味もない。なんていうの……俺の全てって感じ?」
もう、この変態嫌……何言っても無駄じゃないか。
「まぁ、そんなことは置いといて、ご飯でも食べようぜ。腹減ってきたしさ」
「あまり置いといて欲しくないけど……ご飯ねぇ、何食べるの?」
もう疲れたよ。
「そだなぁ、ファーストフードでいっか。あまり余裕もないしさ。てかなんで今日はお弁当作ってきてくれなかったんだ? 結構楽しみにしてたのにさ」
「それを氷兄が言う? 朝起きてからずっと、僕の周りをうろうろ邪魔してたじゃないか。それで何も出来なかったんでしょ? 文句があるなら自分に言ってよね」
「あ、あれか。だってさ、雪とデートだぞ? 喜ばない訳が無いだろ。雪が毎週俺とデートしてくるならいいんだけどな。つか、そうしねー? 何これ天啓じゃん!」
一人で盛り上がってるし。
「却下! ほら、そんな図体ではしゃいでると邪魔になるよ。さっさと食べに行こうよ」
「なんでだよ。好き合う者同士の当然の行為じゃないかぁ」
はぁ……結局、この果てしない脱力感に苛まれて、氷兄のペースになるんだよね。
僕って甘いのかなぁ?
このシーン、削除しようか迷ったのですが。
えい! 載せちゃえという感じで入れちゃいました。
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